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原発攻撃は南ウクライナ原発にも広がる 安全懸念続くザポリージャ原発 ロシア軍は即撤退を

水野 倫之  解説委員

ウクライナの原発が予断を許さない状況が続く。
ロシア軍が占拠する南東部のザポリージャ原発は、先週すべての原子炉が停止されたがこれで安心というわけにはいかない。引き続き外部電源を確保し冷却し続けなければならないが、その重要な外部電源がたびたび砲撃で失われている。
そして今週、攻撃は南部の南ウクライナ原発にも広がった。こうした攻撃は明確な国際法違反。
▽原子炉停止も続く安全への懸念
▽生かされない事故の教訓
▽安全確保のためには
以上3点から原発攻撃の危うさを水野倫之解説委員が解説。

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9月19日、ウクライナ2番目の規模の南ウクライナ原発で閃光が上がった。原子炉から300mの所にミサイルが着弾。原発公社エネルゴアトムによると、建物のガラスが割れたが、3基の原子炉に損傷はないということ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアは全世界を危険にさらしている」とロシアを非難。

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一方ロシア軍の占拠が続くザポリージャ原発では6基の原子炉の内、最後まで動いていた6号機の運転が先週停止。
原発にはメインの送電線4本に加えて、非常時の送電線も3本あるが、公社によると先月からのロシア軍の砲撃によってすべてが損傷。
外部電源が断たれたため、今月初めから、唯一6号機を運転して構内の電力を供給する異常な事態に。しかし先週、非常用の送電線が回復し、電源確保のめどがたったため運転を止めたということ。

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原子炉停止で安全になったと思うかもしれないが、現状では全く安心できない。
福島の事故で、全基停止のあと重大事故に発展したのをみれば明らか。
停止後も核燃料からは大量の熱が出続けているから。
日本原子力学会によると、ザポリージャ原発のような1基100万kW級の原子炉を止めてから数週間たっても、3000kW以上の熱が放出される。
これは一般的な家庭用の1000Wの電気ストーブ3000台以上が原子炉にあるイメージ。
6号機や今月初めに停止した5号機はこうした大量の熱を出しているとみられるほか、先月以前に停止したほかの号機もこれに近い状況とみられる。
仮に冷却が止まればやがて水がなくなりメルトダウンするおそれがあることから、常に冷却し続けなければならず、水を送るポンプを回すための外部電源が極めて重要に。
しかし原発は、先月まつにも砲撃で外部電源を喪失。
また原発周辺で相次ぐ砲撃も懸念材料。今月も原発が立地するエネルホダル市の、原発へ電力を供給する火力発電所が被害。
万が一、再び外部電源を失った場合は、非常用のディーゼル発電機が事実上最後の冷却手段となるが、公社のコティン総裁は、燃料が限られ「10日ほどしかもたない」と述べ、事故への懸念を示す。

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安全への懸念は外部電源にとどまらない。
原発を捉えた衛星画像。
赤く見えるのが原子炉建屋。その東側の2棟の施設には放射性廃棄物が保管。先月下旬の攻撃で、屋根に大きな穴。
また敷地の北東、6号機の脇には、使用済み核燃料の貯蔵施設。
特殊な容器に入れて自然放熱させる仕組みで、日本原子力産業協会によると174の容器におよそ4000体が保管されているが、この施設の近くにも砲撃が相次いだ。

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高まる事故への懸念を受けてIAEAが今月、現地調査。
報告書では砲撃による損傷に加えて、ロシア軍の車両が配置されていることが明らかにされ、ロシア軍の軍事拠点化がはっきりした。

加えてもう一点、重要なことを明らかに。
それは原発職員の置かれた状況。
砲撃によってけがをした技術者もいるほか、運転員はロシア軍の管理下に置かれ、常に強いストレスや圧力にさらされ続けていると指摘。

実際、6月まで原発で働いていたウクライナ人職員はNHKのインタビューに対し、「ロシア軍の兵士によって職員が森に連行され銃で脅されたり、尋問され常に恐怖感に襲われている」などと証言。

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こうした職員の状況が安全に大きな影響を与えることは明らか。
同じウクライナで1986年に起きたチョルノービリ原発事故。多くの子どもが甲状腺がんになるなど史上最悪の事故だが、安全設計の問題とともに運転員の不手際や規則違反も重なって起きたとされ、運転員にストレスがない環境を保つことが安全にとって重要であることが事故の大きな教訓。

もちろん、ザポリージャはチョルノービリよりも安全性が高められているが、このまま運転員のストレスが続けば、機器の異常に気づかなかったり、操作ミスなどによって事故につながりかねない。

しかしこうした過去の事故の教訓は、現場のロシア軍には徹底されていないと思う。
ロシア軍はチョルノービリ原発も一時占拠したが、その際、放射能汚染によっていまだ立ち入り禁止の周辺の森で、ざんごうを掘ったり土のうをつくるため土を集めていたことが確認。特別な装備もないまま行われたとみられ、多数の兵士がかなりの被ばくをした可能性が指摘。
事故の教訓が生かされていれば汚染地域で無防備に作業するなどありえないこと。

ロシアも史上最悪事故の当事国ですが、事故の発生はすでに36年前。特に事故をリアルタイムで知らない若い兵士たちは、原発や放射性物質に対する危険性への認識が薄い可能性。

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このようなロシア軍が原発に居座り続けるのは極めて危険。
一連の砲撃についてロシアはウクライナ側の攻撃だと主張するが、今のこうした危険な状況は、ロシア軍が原発を占拠しなければ起きなかったわけで、原発の安全を確保するためには、ロシア軍が即撤退しなければならない。

しかしロシア側にこれを受け入れるきざしはみられない。
IAEAも、原発とその周辺を安全区域に設定し、攻撃を停止するよう提案するが、ロシアのプーチン大統領は「原発にはロシア軍の装備はない」と主張し、進展は見られない。

ただこうしている間にも原子炉の冷却は待ったなし。
まずは万が一の外部電源喪失に備えて非常用発電機の燃料を追加的に現地に運んでおく必要。周辺は戦闘区域だが、IAEAの調査の際はロシア軍も了解し、担当者は無事に現地に入ることができた。現地に常駐するIAEA職員を中心にロシア軍に現状を説明し、燃料の補給をまずは実現しなければ。

そして安全区域の設定やロシア軍の撤退に向けては、福島の事故を経験した日本からも、武力占拠の危険性を強く訴えていくことも重要。政府関係者や原子力の専門家がこれまでつながりがあったロシア国内の関係者に事故の教訓など粘り強く発信し続けていかなくては。

ロシア軍は南ウクライナ原発も攻撃したとみられ、今後もほかの原発へ攻撃を広げるかも。現地は原子力災害と隣り合わせ。チョルノービリや福島のような事故が繰り返されることがないよう、各国が協力し、ロシア軍の撤退を促す道筋をつけていかなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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