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『旧統一教会』問題 求められる国の対策は

清永 聡  解説委員 今井 純子  解説委員

安倍元総理大臣が銃撃され死亡した事件をきっかけに、国は旧統一教会の問題で被害対策の検討を始めています。
会議の設置から1か月あまり経ちますが、具体的な対策はまだ見えてきません。ここまでの議論の状況と、これから求められる取り組みは何でしょうか。

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【国の検討は2ルートで】
(清永)
旧統一教会をめぐっては、8月、政府が関係省庁の連絡会議を設け、18日に初会合を開きました。また、9月5日から30日まで、相談を集中的に受け付ける窓口を作り、最初の5日間で1000件を超える相談が寄せられたということです。
これとは別に、消費者庁も対策検討会を設けています。つまり国の検討は現在、2つのルートで行われています。
この問題は、霊感商法や多額の献金、宗教2世問題など、数多くの論点があります。まず消費者庁で行われている議論は、どうなっていますか。

【消費者庁の検討会 焦点は多額の献金】
(今井)
消費者庁の検討会は毎週、急ピッチで開かれています。ここで焦点になっているのが「多額の献金」です。
旧統一教会などの霊感商法。弁護士連絡会によると、この5年で500件以上、54億円を超える相談が寄せられています。以前は、高額なつぼや印鑑を売りつける被害が主でした。それが、最近は、正体や勧誘の目的を隠して近づき、親しくなったところで「今のままでは、先祖の因縁が解けない。こどもが幸せになれない」など不安や恐怖をあおる。そして多額の献金を強要し、経典などを授けるという形に変わってきていると言います。そこで、この「多額の献金」をなんらかの形で規制できるのかが、焦点になっているのです。

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(清永)
裁判では恐怖や不安をあおって多額の献金を求めることは違法という判決が幾つも出ています。しかし、裁判だと個別に訴える必要があり、証拠を集める手間も時間もかかります。そこで何らかの規制が必要という考えがあります。検討会はでこの点、どういう意見が出ているのでしょうか。

【取消権をめぐる議論】
(今井)
まず「被害の救済」という観点で、取り上げられているのが「取消権」です。
2018年の消費者契約法の改正で、霊感商法について「不安をあおられ困惑し、契約をした場合」に取消権が認められました。しかし、委員からは、要件が細かすぎて、使い勝手が悪いとして、例えば
▼ 「判断能力が低下した消費者が、生活に著しく支障を及ぼす契約の勧誘を受けた場合」あるいは
▼ 事業者が「目的を隠して近づき、勧誘する場合」
献金を含め、広い範囲で取消権を認めるよう法律を改正すべきではないか。といった意見が出されています。
ただ、取消権だと、相手が応じない場合、裁判になり、清永さんから指摘があったように、限界もあります。

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(清永)
多くの場合被害を訴えるのは信者本人よりも親や子供です。家族からの申し出で何らかの対応はできないのか、という課題もあります。

【未然防止の対策をめぐる議論】
(今井)
そこで検討会では、被害を未然に防ぐ対策が最も重要だとして、献金そのものについて
▼「不当性を示す切り分けの指標になるものを客観的な形で提供することが求められる」
▼「不安をあおりたてられ、自由に意思決定できなくなっていることが一番問題ではないか」など、違法な献金を規制する必要がある。
そのうえで、解散命令について
▼ 「特定の法人がルール違反を繰り返す時には、事業停止や解散命令請求とひもづけていくルートが考えられる」
▼ 「会社解散命令の請求を消費者庁ができるのなら、宗教法人でも、悪徳事業者について、やりやすくする手法が必要だ」など、運用の見直しや法律の見直しに踏み込んで検討する必要があるという意見が相次いでいます。

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【文化庁の姿勢には批判の声も】
(清永)
一方で、宗教行政を担当する文化庁は20日、「安易に解散命令の請求をするわけにはいかない」などと述べ、現状で請求は難しいという認識を示しています。ただ、申し立てを受けて判断するのは文化庁ではなく、裁判所です。こうした文化庁の姿勢には批判の声もあります。

(今井)
今後、献金や解散命令について、法律の見直しを求めるとなると、政府全体で取り組む必要がでてきます。河野消費者担当大臣は、消費者庁が対応できるものは消費者庁が。所管を超えるものは政府全体での取り組みを要請する考えを示しています。清永さん。今、政府全体の動きはどうなっているのでしょうか。

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【関係省庁連絡会議はまだ1回】
(清永)
関係省庁の連絡会議は、まだ8月に1回目の会合を開いたままです。そもそも当初は法務省・消費者庁など4省庁だけでした。9月になってようやく、厚生労働省や、文部科学省、それに外務省や総務省が加わりました。ただ、加わった後の全体会合はまだ開かれていません。
事務調整を担う法務省は記者への説明の場で、「相談をまずは1件ずつよく聞きたい。相談内容の情報収集を行う」などとしていて、具体策の検討はこれからとみられます。
ただ、すでに1か月が経過しており、1日も早く取り組んでほしいと思います。

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(今井)
関係省庁の連絡会では、今後どのような取り組みや支援策が必要になってくると考えていますか。

【20年前の連絡会議公文書から見えるもの】
(清永)
現在の相談窓口にとどまらず、幅広い取り組みが求められます。
宗教をめぐる関係省庁の連絡会議は、かつても開かれたことがありました。1999年度から翌年度などに開かれた、オウム真理教の関係省庁連絡会議の文書が保存されていました。今回、国立公文書館で開示を受けました。
一連の事件が明らかになった4年後には、信者や信者の子どもつまり「宗教2世」の社会復帰などの申し合わせも行われていました。
例えば▼当時の厚生省は児童相談所での児童の保護や財産を失った人への住まいの支援。▼文部省は子どもの就学事務。▼労働省は就職相談や職業訓練。▼自治省は地方公共団体の相談窓口の整備など。幅広いサポートがここには記されていました。さらに、専門家による研究会も作られ、教団を離れた人への精神医学や心理学での支援に関する報告書もまとめられていました。
当時の議論を知る紀藤正樹弁護士は、「当時の連絡会議の報告書などが広く共有されることはなかった」と指摘します。
幅広い議論には学ぶべき点もあります。一方で広く共有されなかったという反省を踏まえ、現在の連絡会議は、宗教2世への支援や元信者の社会復帰を含めて、今度こそ実効性ある取り組みが求められます。

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【信教の自由と国の対策は】
(今井)
信教の自由が大事なのは間違いありません。しかし、裁判で繰り返し違法と認定されてきた行為を、政府がこれまで放置してきたことで、深刻な金銭的被害が続いてきた。そのことを、今回改めて思い知らされた形です。今度こそ、宗教団体であれ、献金であれ、違法な行為を客観的に規定して、被害を防ぐ効果的な対策を打ち出せるのか。消費者行政の司令塔としての河野大臣の覚悟。そして、政府全体の本気度が問われていると思います。

(清永)
以前、裁判所は当時の統一教会の裁判で、信者の活動と信教の自由の関係について、判決でこう指摘しています。「宗教活動が、社会通念に照らし、外形的客観的にみて不当な目的に基づくと認められ、その方法や手段が相当と認められる範囲を逸脱し、相手方に損害を与えるおそれがあるような場合には、信教の自由としての保護の域外として違法性を有する(文章と表現の一部を省略。2001年6月29日札幌地裁判決より)」。そのうえで、当時の活動を違法としており、この判決は最高裁でも確定しています。

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このように、信教の自由は違法行為を正当化する理由にはなりません。
この問題はこれまで長く放置されてきました。被害を受けた人たちの救済と、根本から被害を防ぐために何が必要か。政府は今度こそ、具体的な対策の実現へ取り組んでもらいたいと思います。

(清永 聡 解説委員 / 今井 純子 解説委員)


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