沖縄県知事選挙は、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設阻止を訴えた玉城デニー氏が2回目の当選を果たしました。移設計画への影響はあるのでしょうか。また玉城知事が2期目に取り組むべき課題、そして政府に求められることとは?
《玉城デニー氏再選》
沖縄県知事選挙は、立憲民主党や共産党などが支援した現職の玉城氏が、自民党と公明党が支援し、前回も立候補した元宜野湾市長の佐喜真氏らを抑え、2回目の当選を果たしました。投票率は57.92%、過去2番目の低さでした。
《玉城氏の勝因は》
玉城氏の勝因はどこにあるのでしょうか。
「県内に新たな基地は造らせない」と、普天間基地の辺野古移設阻止を掲げる玉城さんに対し、佐喜真さんは前回の選挙では態度を明確にしませんでしたが、今回は移設の容認を訴え、主張の違いが明確になりました。
投票を済ませた人を対象に行ったNHKの出口調査では、移設について「容認」が43%「反対」が57%でした。
年代別で見ますと、30代までは「容認」が「反対」を上回り、40代以上では逆に「反対」が上回り、70代以上では67%に上っています。
高齢の世代は沖縄戦や戦後のアメリカ統治を経験し、これ以上基地を受け入れたくないとの思いが強く、また投票率も高い傾向にあり、これが玉城さんの再選を支えたことがうかがえます。
《玉城氏の戦略は》
一方で知事に期待する政策については「経済振興」と答えた人が最も多く「基地問題への対応」を上回りました。
今年、これまでに行われた5つの市長選挙では、玉城さんが支援した候補が全敗。
7月の参議院選挙では、自民党の新人に僅差の、いわば薄氷の勝利でした。
このため玉城さんの陣営は、基地問題一辺倒では支持は広がらないとの危機感を持って選挙戦に臨みました。
こちらは告示日最初の演説をAIで分析したものです。大きく表示されている文字ほど、使われた回数が多いことばです。
「基地」とともに「子ども」が最も多く「実現」「貧困」などと続きます。
沖縄で深刻な課題となっている子どもの貧困対策などを訴え、基地問題だけの知事ではないことを強調しました。
ただ陣営の関係者からは「結局、1期目で課題解決に向けて取り組む姿勢をメディアなどを通じて積極的に発信してきたことが大きい」との声も聞かれます。
いずれにしても玉城知事は2期目も辺野古移設阻止を最大の課題として取り組む考えです。
《移設計画への影響は?》
移設を進める政府の方針は変わらないのでしょうか。
政府は、市街地の中心部にあり「世界一危険」と言われる普天間基地の返還実現には辺野古移設しかないとして工事を進めていく方針です。
赤色の部分の陸地化を終え、現在、さらに土砂を投入してかさ上げする工事を進めています。
ただ玉城知事が再選されたことで、この部分の工事が終われば、それ以上埋め立てを進められなくなる可能性も出てきました。
黄色の部分。いわゆる軟弱地盤が見つかったため地盤を強化する改良工事が必要となり、防衛省は玉城知事に工事内容を変更する申請をしましたが、知事は不承認としました。承認を得なければ改良工事に入れません。
玉城知事にとって移設阻止の手段は限られてきていて、これが最後のカードとも言われ、この不承認をめぐる国との裁判の行方が今後の最大の焦点となります。
裁判は、防衛省が対抗措置を講じた結果、法律を所管する国土交通大臣から承認の指示などが出され、玉城知事は不服として手続きを経た上で先月起こしたものです。ただこれまで、この問題をめぐる同様の裁判で沖縄県側が勝訴したことはなく、玉城知事としては苦しい状況とも言えます。
一方政府としては裁判で勝訴し、知事からの承認を得れば、すぐ改良工事に着手する考えですが、着手から移設が可能となるまでは12年ほどかかるとしています。日米が普天間基地の返還で合意したのは26年前。
いまだ返還の時期は見通せません。
《基地問題は移設以外にも》
移設問題、解決の糸口さえ見えませんが、沖縄の基地をめぐる問題はこれだけではありません。
特に最近深刻なのが、外来機と呼ばれる国外や県外の基地に所属する軍用機の飛来の増加と騒音の問題です。
先月、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問で緊張が高まった際には、嘉手納基地に空中給油機が最大で22機飛来。F15戦闘機は1日に58回の離着陸が確認され、電車通過時のガード下に近い騒音が測定されました。
こうした外来機、4月には普天間基地にもF35戦闘機が飛来し、住民からは騒音の苦情が地元自治体に相次ぎました。基地からの悪臭や、有害性が指摘されている化学物質の流出などの問題もある中、台湾など周辺の安全保障環境の変化によって、ただでさえ過重な基地負担が、さらに県民に重くのしかかっていると感じます。
《今後の基地負担軽減は?》
防衛省は、地元から騒音の軽減などの要望があればアメリカ軍に伝えているとしていますが「日米同盟の責務を果たすためだ」という趣旨の回答にとどまるのが、ほとんどだと言います。
沖縄の負担軽減については、普天間基地を含めすでに日米で合意している沖縄本島中南部の返還計画、また再来年から始まる予定の海兵隊約9000人の国外移転を早期に実現していくことだとしています。
ただ返還は、普天間基地と同様に機能を県内の別の基地に移す、また海兵隊移転後といった条件付きで実現時期は見通せません。
沖縄周辺の情勢をみれば、今後外来機の飛来が続くことも予想され、政府には、新たな負担軽減や環境改善の余地がないかアメリカ側と不断に協議し、模索することが求められると思います。
《経済回復・子どもの貧困も課題》
玉城知事には基地問題のほかにも喫緊の課題があります。新型コロナでダメージを受けた県内経済の回復です。
沖縄の主要産業である観光は大きな影響を受け、観光客は一時4分の1ほどにまで激減し、老舗のホテルや土産物店が閉館・休業に追い込まれました。離職者の増加も指摘されています。
コロナの感染が収束し、観光客が戻ってきたときに備えた受け入れ態勢の構築などを進め、経済の回復に結び付けることが待ったなしの課題と言えます。
また全国最低水準の県民所得や4人に1人が該当する子どもの貧困問題をどう解決するかも深刻な課題です。
沖縄が本土に復帰して50年。アメリカ統治下で遅れていたインフラの整備は国からの支援もあり本土並みに整ってきました。今後は観光だけに頼らない産業振興を図り、経済の活性化によって県民の所得を向上させる好循環に道筋をつけられるかが玉城県政にとって大きな課題だと思います。
《玉城県政そして政府に求められることは》
玉城知事の1期目は、首里城の火災や豚熱など緊急の対応に追われることが多かったとも言えます。
2期目は、基地問題に加えて経済を回復させるなど課題に対して結果を出すことが求められ、玉城知事にとっては真価が問われる4年間と言えます。
一方の政府は、移設工事が止まらない現状を目の当たりにしながらも、玉城知事に県政を託した沖縄の民意を重く受け止めるべきだと思います。
少なくとも対話の機会を閉ざさない。また移設問題での対立を他の課題に持ち込まず、基地負担の軽減また振興策などについて可能な限り連携し、問題の解決に取り組んでいくべきではないでしょうか。
(田中 泰臣 解説委員 / 西銘 むつみ 解説委員)
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