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事項要求の何が問題?来年度予算編成の課題

神子田 章博  解説委員

政府の来年度の予算編成にむけた作業が本格的にスタートしました。今年は予算要求額が過去2番目の水準に達したことに加え、要求段階で金額を示さない「事項要求」の数が膨らんでいます。巨額な予算の要求にどう優先順位をつけ、財源をどう確保するかという議論がこれまで以上に重要となっています。

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解説のポイントは3つです。
1) 膨らむ事項要求で、上限超える要求額
2) 弱まる“優先順位のフィルター機能”
3) 具体的に進むか 財源裏付けの議論 


1)膨らむ事項要求で上限超える要求額

 まず財務省がきょう発表した概算要求の全体像についてみていきます。

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要求総額は110兆484億円で、2年連続で110兆円を上回り、過去二番目に高い水準となりました。このうち医療や介護など高齢化にともなう経費が膨らむ厚生労働省が33兆2644億円と最も多く、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが増す中で防衛省が5兆5598億円、来年4月に設置されるこども家庭庁の準備室が3兆9731億円を要求しました。
こうした必要な予算額を示した要求に加えて、今年は、予算額を明示せず事業の項目だけを提示する「事項要求」が例年になく目立っています。

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事項要求というのは、もともと来年度に予算が必要となることが見込まれるものの、どのくらいの額が必要となるか、8月末時点では、見極めがつかない場合に、例外的に項目だけ要求できるというものです。感染状況の行方に応じて予算の規模を算定するコロナ対策などは典型的なものですが、今年はそれ以外にも、防衛省が、反撃能力としての使用も念頭に、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」など多くの事項要求を行ったほか、環境省が「脱炭素に向けて必要な経費」について、経済産業省が「物価高騰の環境下にある中小企業などの支援について」それぞれ必要な予算額を示さず事項要求としています。

2)弱まる“優先順位のフィルター機能“

このように、事項要求が増えたことで、予算ごとの優先順位を判断して必要度の高い予算を絞り込んでいく作業をこれまで通り行えるかという懸念の声が出ています。どういうことでしょうか。

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財務省は、今年の予算要求に先立って、各省庁が裁量によって増減できる政策の経費を10%削りこんだうえで、その三倍にあたる額を「重要政策推進枠」として、脱炭素やデジタル化など日本経済の成長に必要な政策の予算要求を認めました。時代の要請に応じて予算を増やしたり削ったりするいわばスクラップアンドビルドの形のとりながら、各省庁の要求額をここまでなら認めるという上限を設定したのです。

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要求額に上限があることで、各省庁は、まず自分たちのなかで、要求の優先順位をつけることになります。そうして絞り込まれた要求の中から財務省の査定でさらにより重要なものを選ぶ。いわば優先順位のフィルターを二重にして、最終的に残ったものに予算がつく仕組みとなります。ところが事項要求は金額を示さないため、この数字の上限の枠の外で行われます。その結果、各省庁段階でのフィルターの機能が低下してしまうというのです。
また政府が、来年度予算を最終的にどれだけの増額に抑え込むかという目安についても、実効性を危ぶむ声が出ています。

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政府は去年の経済財政政策の基本方針=いわゆる骨太の方針で、今年度から2024年度の予算編成について、社会保障関係費を3年間で1兆5000億円程度、それ以外の予算を3年間で1000億円程度の増加に抑え込むとする歳出改革の目安を盛り込みました。ところが、今年の骨太方針では、経済・財政一体改革を進めるとしながらも、「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という但し書きが付け加えられました。背景には、積極財政を唱える政治家への配慮があるとみられます。ただ重要な政策といっても、抽象的な概念だけに、「あの政策も重要」「この政策も重要」と目安の枠の外で予算の要求を通そうという動きも出かねません。12月にまとまる予算案が、打ち出された目安通りに抑え込めるのか。これまで以上にしっかりとした査定が求められます。

3) 具体的に進むか 財源裏付けの議論
  
さて、ここからは拡大する予算のニーズと、財政の健全化をどう両立させていくか考えていきたいと思います。

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日本の財政は、歳出が税収などの収入を上回る赤字予算が続いています。政府は年ごとに国債を発行して、つまり借金をして足りない予算をまかなってきましたが、その国債発行残高は、今年度末で、1026兆円に達します。
このように政府の財政が極度に悪化している中で、国際的な社会課題となっている脱炭素や、NATOの加盟国が防衛費の目標をGDPの2%以上としていることも念頭に置きながら、5年以内に抜本的に強化するとしている防衛の分野では、今後数兆円規模での歳出の増加が見込まれます。それを財源を考えずに、借金だけに頼れば、後世に回すツケを一段と膨らませることになります。そうした中で今年政府が打ち出しているのが、巨額の予算の歳出にあたって、裏付けとなる財源とセットで検討するという考え方です。
どういうことなのか。脱炭素に関する予算でみてみます。

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政府は中長期的な脱炭素社会の実現をめざして、今後10年間で官民あわせて150兆円の投資を実現する政策を打ち出し、このうち20兆円は、民間企業の投資を引き出す呼び水としての効果を狙って政府が負担するとしています。そして、この20兆円について、従来の国債とは異なる「GX経済移行債」という国債を発行して賄う計画だとしています。どのような名称をつけるにせよ、債券を発行するつまり借金をするのであれば将来返済しなければなりません。このため、政府は「排出する炭素の量に応じて燃料などに課税する炭素税」を導入する案など、借金を返済するための財源についても歳出とセットで考えていきたいとしています。さらに子供政策に必要な財源についても、「社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進める」としているほか、防衛費の増額をめぐっても「裏付けとなる予算をしっかり確保する」として、「内容、金額、財源の3点セットで議論」していく方針を打ち出しています。このように予算要求の段階で、歳出と財源をセットで考える方針を打ち出したのには、財源の裏付けもなく歳出をいたずらに膨らませてはならないという政府の思いがうかがえます。

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巨額の予算が必要な時に、財源を一体として考えた例としては、過去に東日本大震災の対策の予算の例があります。東日本大震災では復興のための国債を発行し、それを返済するために復興特別所得税などが創設されました。納税者が通常の所得税とは別に、所得税額に2.1%かけた金額を納税し、復興の財源とするもので、この制度は令和19年度まで続きます。新たに巨額の歳出を行うのであれば、それを裏付ける財源が必要だということを意識することで、野放図な歳出拡大につながらないよう歯止めをかけることになるのではないでしょうか。

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内外の情勢の変化に対応するために巨額の予算が必要になる。しかしその財源がすぐには工面できない。そうした場合に、一時的に国債を発行して賄うことになるにせよ、中長期的に借金を返していく手立てをしっかりと考えているのか。年末に向けた予算編成の過程では国民の納得のいく議論が求められています。

(神子田 章博 解説委員)


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