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立民・維新 新態勢の課題

伊藤 雅之  解説委員

日本維新の会が、先週末、代表選挙で馬場新代表を選出。立憲民主党は、岡田幹事長をはじめとする新執行部を発足させました。野党第1党の立民と第2党の維新、それぞれの新態勢の課題と内外に課題が山積する中で、野党が果たすべき役割について考えます。

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【維新代表選】

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まず、初めて行われた野党第2党、日本維新の会の代表選挙の結果です。
共同代表を務めてきた馬場伸幸氏が、足立康史衆議院議員、梅村みずほ参議院議員の2人を大差で破って、新代表に選出されました。
維新の会の代表選挙は、国会議員や地方議員、自治体の長などの特別党員と一般党員のあわせておよそ2万人が、いずれも1人1票という独特の方式で行われました。
馬場新代表は、なぜ、8割近い支持を集め圧勝できたのでしょうか。代表選に立候補するには、特別党員30人の推薦が必要ですが、馬場氏は、306人もの推薦人を集め、当初から優位に選挙戦を進めました。
その最大の要因は、大阪市長の松井前代表が、告示に先立って、幹事長や共同代表として苦労をともにしてきた馬場氏の支持を打ち出したことにあります。それだけでなく、松井前代表は、馬場氏のほかに立候補する動きを強く批判しました。この背景には、堺市議出身の馬場氏に対して、橋下元大阪市長や松井氏とともに、結党の母体となった大阪府議会議員の出身者や現職の府議のいわば「大阪府議系」を中心に、「実績をあげている大阪に比べて、国会での活動は見劣りする」などとして候補者を擁立すべきだという動きが強まったことがあります。激しい選挙戦になって、党が分裂するような事態は回避すべきだという動きも広がり、結局、「大阪府議系」の立候補は見送られました。
馬場新代表は、「松井代表の路線を継承し、新たな飛躍につなげる」という考えを示しました。
今回の代表選は、来年4月の市長の任期満了とともに政界を引退する松井氏の影響力の大きさとともに、党内に主導権争いや対立の火種があることを印象付けた形です。また、国会議員を優遇せず、すべての党員を平等に扱い、党員の声で代表を決めるという代表選の特色は生かしきれず、党の活性化に必ずしもつながらなかったといえると思います。

【維新新代表の課題】

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馬場新代表の課題を考えます。
維新の会のこれまでの歩みは決して順調ではありませんでした。維新の会の看板政策だった、いわゆる「大阪都構想」は、2015年と2020年の2回、住民投票で否決され、党の創業者である橋下氏、松井氏の2人の代表が、政界を引退することになりました。また、この間、他の野党と合流した時期もありましたが、政権との関係や野党連携のあり方などをめぐって大阪と国会議員、さらに国会議員の間で、いわば「東西対立」が激しくなり、党が分裂したこともありました。
馬場代表は、「大阪の基盤の安定」と国政政党としての「全国展開」を両立することが課題となります。
維新の会には、特定の支援組織や団体はありません。それだけに逆風になっても耐えられるは、大阪府知事、大阪市長を擁する大阪で築いた強固な基盤があってのことです。来年の統一地方選挙では、大阪府、大阪市の知事、市長、議会の選挙があります。
また、国政政党としては、「全国展開」も大きな課題です。現在、大阪以外の地方議員はおよそ150人。馬場代表は、来年の統一地方選挙で、これを倍増するのが目標になるという考えを示しています。
ただ、大阪色を強く出せば、全国展開には限界があるという指摘もあります。馬場代表は、自らが務めてきた共同代表に吉村大阪府知事を起用し、大阪での政治活動をゆだねる考えを示しています。吉村共同代表との間で、大阪と国政の円滑な協調をどう実現するか。それとともに、「大阪都構想」にかわる看板政策は何か。これまでに示してきた国家像・地方像を肉付けして理解を広げていくことも課題になりそうです。

【立民新執行部】

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一方、野党第1党の立憲民主党は、参議院選挙で議席を減らし、党内で執行部に対する責任論がくすぶる中で、泉代表は続投し、幹事長をはじめとする執行部を刷新しました。
その特徴は、ベテランの起用です。泉代表は、「政権党を目指す党の姿勢を強く打ち出す」と述べています。
岡田幹事長は副総理、安住国会対策委員長は財務大臣、長妻政務調査会長は厚生労働大臣として、民主党政権の中核を担いました。また、安住国対委員長、長妻政調会長は、このポストの経験者です。
この人事に対して、「刷新というイメージはない」、「事実上の岡田体制ではないか」などという批判がでています。泉代表としては、こうした批判がでるのは覚悟のうえで、ベテランの経験と安定した手腕で、来年の統一地方選に向けた党勢の立て直しと国会の場で党の存在感を示していく路線を取ったものと見られます。

【立民・維新の姿勢は】

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では、立憲民主党と維新の会の新たな態勢の発足で、両党の姿勢、政権との関係や野党の連携は、どう変わるのでしょうか。
立憲民主党の岡田幹事長は「考え方をしっかり持ったうえで、おかしなところを批判する姿勢が重要だ」と述べ、安住国対委員長は、「たたかう国対として与党と対峙していく」と述べています。新執行部は、政府・与党に対する対決色を、これまでより強めていくものと見られます。
これに対して、維新の会の馬場代表は、政権への「是々非々」の立場は堅持する考えを示しています。また、立憲民主党が政府・与党との対決色を強める姿勢を見せていることを念頭に、「政策ごとに連携しても良いが、永田町の前例・慣例で自民党と向き合うなら協力は一切できないことになる」と述べていますので、両党の連携が進む状況にはありません。しかし、議論すべき課題はたくさんあります。

【政治課題と野党の役割】

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まず旧統一教会問題をめぐる問題です。岸田総理大臣は、自民党執行部に対し、さらに踏み込んだ対応をとるよう指示する考えを示し、自民党は、党所属の国会議員が関係を点検したものを集約し、結果を公表することにしています。野党側にも、旧統一教会の関係団体とかかわりがあった例が明らかになっており、各党が、実態を把握し、問題点はどこにあったのか、十分に説明することが大前提です。
それとともに、旧統一教会に限らず社会的に問題がある団体をどう扱っていくのか、規制を加える必要はあるのか。また、被害をどう防ぎ、救済するために何ができるのか。憲法で保障された信教の自由、結社の自由ともかかわる問題だけに、各党が基本的な考え方を示すべきで、野党側には、様々な論点を整理して議論を進める重要な役割があるのではないでしょうか。

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また、第7波の真っただ中にある新型コロナ対応では、検査・医療体制と社会経済活動をどう考えるのか。コロナの影響に物価高が加わり、国民生活や企業活動に影響が出ている中で、どのような経済対策が必要なのか、国民は強い関心を持っています。

立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組などは憲法の規定に基づき臨時国会の早期召集を求めていますが、政府・与党側は、召集の時期を明確にしていません。一方、維新の会は、国会の委員会で閉会中審査を行うように申し入れています。
来月27日の安倍元総理大臣の国葬をめぐっては、閉会中審査を行うことで与野党は合意していますが、見てきたように、国会で議論すべき課題は山積しています。
政府・与党側は、できるだけ早く臨時国会を召集すべきですし、早期に召集できないのであれば、その理由を明確にすべきです。ただ、野党側が、憲法の規定に基づいて要求しても臨時国会が速やかに召集されない事態は、これまでも繰り返されてきました。どうすれば必要な時に、必要な国会審議の場を確保できるのか。どうしたら国会での議論を深めることができるのか。野党の第1党と第2党が新態勢となったのを機に、改めて国会改革について、野党側から具体的な問題提起をすべき時期に来ているように思います。

(伊藤 雅之 解説委員)


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