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"最後のフロンティア" アフリカ 日本の存在感を高めるために

二村 伸  専門解説委員

2050年には世界の4人に1人がアフリカの人たちになると予測されています。大きな可能性を秘めながらもアフリカは今なお貧困や飢餓などに苦しんでいます。そのアフリカの成長と安定を支えるために日本が主導するTICAD・アフリカ開発会議が27日からチュニジアで開かれます。中国とロシア、アメリカの勢力争いが激しさを増すアフリカで日本が存在感を高めるために何が必要か考えます。

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TICADは、冷戦終結によりアフリカへの世界の関心が薄れていた1993年日本が主導して国連や世界銀行などと立ち上げました。一方的な援助ではなくアフリカの国々を対等のパートナーと位置づけ、アフリカの視点に立った開発支援を行ってきました。前回2019年はアフリカ53か国代表と国際機関や民間、NGOなどあわせて1万人以上が横浜に集まり、ビジネスの促進や健康、災害に強い社会づくりなどに取り組む「横浜宣言」を採択しました。
しかし、その後の3年間で国際環境は劇的に変化しました。アフリカは新型コロナの流行により景気が後退、そこへロシアのウクライナ侵攻が加わり深刻な食料不足に陥っています。そうした中で開かれる8回目の会議は、コロナ後の経済回復のための投資の拡大や新型コロナ対策を含む保健・医療体制の強化、そして食料問題が重要なテーマです。

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とりわけ食料危機への対応は喫緊の課題です。人口が急増する一方で、干ばつなどの異常気象に加えてウクライナ危機によって食料価格が高騰し、3億5000万人が深刻な食料不足に直面しています。小麦の輸入の90%以上をウクライナとロシアに依存する東アフリカでは多くの人が飢えに苦しみ、北アフリカではパンの価格高騰をおさえるために多額の補助金を支出し債務状況が悪化しています。原油価格の高騰で肥料の価格も上昇し食料生産が落ち込むなど遠い地域の紛争が、生産性が低く流通システムが脆弱なアフリカを直撃しているのです。

そのアフリカでいま中国とロシア、アメリカの綱引きが激しさを増しています。

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中国は2000年代に入って莫大な資金を背景に各国で道路や鉄道、空港、港湾施設などのインフラ整備を進め、最大の貿易パートナーともなっています。中国がアフリカを重視するのは資源の確保と巨大市場へのアクセス、1つの中国政策への支持を取り付ける政治的な狙いからだと言われます。しかし返済能力を超える貸付けが大きな問題となり、2016年以降は融資額が減少しています。
一方で、ウクライナ危機ではロシアの影響力がこれまで思われていた以上に強まっていることが浮き彫りになりました。象徴的だったのが国連総会でのロシアの人権理事会理事国資格停止をめぐる決議案の投票結果です。欧米や日本など93か国が賛成したのに対し、反対が24、棄権が58、アフリカは南アフリカやナイジェリア、エジプトなどを含む32か国が反対ないし棄権に回りました。ロシアの資格停止に賛成は10か国にも満たず、アフリカでの根強いロシア支持が示されました。その理由には軍事的な側面があります。ストックホルムの国際平和研究所によれば、ロシアからアフリカへの武器の輸出は2000年以降急増し、2015年以降はフランス、アメリカ、中国をおさえてロシアがアフリカへの最大の武器輸出国となりました。マリや中央アフリカ、スーダンなどでロシアの民間軍事会社ワグネル・グループが反政府活動を抑え込んだり軍の兵士の訓練を行ったりしていると伝えられています。TICADでもロシアへの非難には強い抵抗が予想されます。

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アメリカも巻き返しを図っています。ブリンケン国務長官は今月南アフリカを訪問し、食料の安全保障強化をはじめコロナ後の経済の回復や民主主義の実現などに関わっていく姿勢を強調しました。12月にはアフリカ各国首脳をワシントンに招いて首脳会議を開き、アフリカへの関与をアピールすることにしています。
この他、フランスをはじめとするヨーロッパも伝統的な関係を維持し、トルコや湾岸諸国も積極的です。

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こうした各国のいわば草刈り場となっているアフリカで日本はどのような役割を担うことができるでしょうか。アフリカの人々の間では、中国は莫大な資金を背景に地域経済を飲み込み、ロシアは武器を売りつけ独裁者を守っている、欧米は民主主義を押し付けているなどといった批判がよく聞かれますが、日本は技術力と長年の地道な支援が評価されてきました。とはいえ80年代からアフリカを取材してきて感じるのは日本の存在感が低下し続けていることです。外務省が5年前にアフリカの3つの国で行った調査では多くの人が日本に好意的な印象を持っているものの最も信頼できる国として中国を挙げた人が33%だったのに対し日本は7%でした。

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主要国はアフリカの将来性を見据えて投資に積極的ですが、日本の直接投資残高は10位にも入っていません。人口が減少し市場が縮小する日本にとって海外、とりわけアフリカの巨大市場への参入に乗り遅れるわけにいかず、TICADでも民間の投資を促してきましたが、いぜん慎重な企業が多いようです。地理的な距離や文化の違いもありますが、アフリカの専門家と話すと常に指摘されるのが日本の企業はリスクをおそれ慎重になりすぎているということです。
JETRO・日本貿易振興機構がアフリカに進出している日本企業を対象に行った調査では、半数あまりの企業がことしの営業利益が去年より改善されると見込んでいる一方で、今後事業展開を拡大すると答えた企業は前年より6ポイント以上増えたものの、いまだ半数に満たない状況です。アフリカの重要性を認識しながらも複雑な法整備や不安定な政治・社会を理由に投資をためらう企業が多いのです。企業進出の環境を整えるために政府にはこれまで以上に各国に働きかけてほしいと思います。ただリスクはどの国にとっても同じで日本だけが足踏みする理由にはなりません。フランスやトルコなど外国企業や現地企業との連携、アフリカで活発なスタートアップへの支援が今後のカギとなりそうです。

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日本の外交も問われています。左は2011年以降中国の首脳と外相が訪問した国々、右が日本の総理大臣と外務大臣の訪問先です。中国は外相が毎年初めに必ずアフリカを訪れています。近年は箱物を作るだけでなく保健や環境など日本が得意としてきた分野にも力を入れ始めています。日本が取り残されないためにもアフリカのために何ができるか、日本はどのような関係を築こうとしているのか、長期的な視点に立った明確なビジョンを示すことが必要です。健康や保健衛生、農業など新型コロナとウクライナ危機で浮き彫りになったアフリカの弱点こそ日本が得意とする分野です。
「最後のフロンティア」と呼ばれて久しいアフリカが、これ以上紛争や大国による搾取の場とならないように現地の人々に寄り添った支援と投資を行うことが日本の使命だと思います。

(二村 伸 専門解説委員)


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