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"もの言う株主"との攻防~どうする東芝

神子田 章博  解説委員

迷走続く東芝の経営。その背景には、比較的短期間で利益を追求しようと、経営に厳しい注文を付ける、いわゆるモノ言う株主への対応に苦慮していることがあるといわれます。東芝がもの言う株主に対応してきたこれまでの経緯を振り返ったうえで、その存在を企業統治の観点から考えていきたいと思います。企業統治というと聞きなれない方も多いと思いますが、経営者が株主や取引先、従業員などに対して公正な経営を行い、利益の最大化など企業価値の向上に努めているかどうかを、独立した立場から監督することです。

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 解説のポイントは三つです。
1) もの言う株主に配慮重ねたか
2) 対立の背景に時間軸の違い
3) もの言う株主と企業統治

1)もの言う株主に配慮重ねたか

まず東芝の経緯についてみていきます。

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東芝の経営にもの言う株主が本格的に関係してきたのは、2017年。この年、傘下の原子力発電プラントのメーカーが経営破綻し、9600億円あまりの最終赤字を出しました。そのままでは債務超過となり、株式上場を維持できなくなるため、海外の投資ファンドなどから総額6000億円の出資を受けました。この時に出資に加わったいわゆる「もの言う株主」が、いまでは東芝の議決権全体の25%前後を保有する大株主となり、これにどう対応するかが経営の大きな課題となってきたのです。

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そうしたなかで東芝は、半導体などのデバイス事業だけを切り離して、会社を二分割し、事業分野ごとに「より機動的に」意思決定を行なうことで企業価値を高める戦略を打ち出しました。さらに、エレベータ、空調、照明の事業を行う3つの子会社の売却を行う一方、2年の間に株主に3000億円程度を還元するという株主対策を打ち出しました。このうち子会社の売却をめぐっては、一定の利益が見込まれる事業をなぜ売却するのかという疑問の声が一部の株主からあがりました。還元する資金をねん出するためではなかったのかという見方がくすぶっていますが、東芝側は否定しています。

2)対立の背景に時間軸の違い

このようにもの言う株主への様々な配慮がうかがえる会社の方針でしたが、今年3月の臨時株主総会で否決されてしまいます。とりわけ、もの言う株主は総会前から反対を表明していました。反対の背景には何があったのでしょうか。

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ここでもの言う株主の立場を考えてみます。もの言う株主は、様々な投資家から出資された資金を投資して運用します。高額の手数料をとっているとされ、その分多くの利益をあげることが求められています。さらに、長くても3年からせいぜい5年という短期間の間に結果をだすよう迫られているといわれています。このため株価だけでなく長期の視点から企業価値の向上をめざす経営者やほかの株主との間で、時間軸をめぐる埋めがたい溝が生じています。簡単に言うと、東芝は「できるだけ早く儲けたいというもの言う株主にどうしたら納得してもらえるか」に頭を悩まし続けているようです。

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こうしたなかで東芝がとった手が世間をあっと言わせました。6月の株主総会で、会社と対立が続くもの言う株主の投資ファンド2社でそれぞれ幹部を務めている人物二人を社外取締役に迎え入れたのです。社外取締役とは、社外の人間が外部の目でチェックすることで、透明性を高める役割を果たしてもらおうという存在で、取締役の3分の1以上は社外から招くことが求められています。東芝の場合は、取締役のうち社内は社長と副社長の二人、社外取締役が十人、このうち二人がもの言う株主のファンド出身となりました。ただ、東芝の社外取締役の中には、この時すでにもの言う株主との協議を経て受け入れた社外取締役が4人いました。このため、有識者などから取締役会のメンバー構成のバランスの問題に加え、自らの利益が東芝の利益と相反した場合に、もの言う株主側に有利な決定に導くのではないかという利益相反の問題についての懸念が指摘されています。これに対して東芝側は社外取締役が出身のファンド側と、利益相反の問題が起きないような合意を結んでいるとしています。

3)もの言う株主と企業統治

 こうした問題は、ものいう株主の存在を企業統治の観点から考えさせるきっかけともなっています。ここからはいったん東芝から離れて、この問題について考えてみたいと思います。

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経済産業省の企業統治についての研究会は、先月、今後の検討課題について報告書をまとめ、取締役に株主である投資ファンド関係者を選任する場合の留意事項をあげています。この中で、投資ファンドが短期の利益をめざすケースでは、一般の株主との間で、いわば時間軸の違いから利害が一致しないことが起こりえるとしたうえで、選任に当たっては、中長期的な株主共同の利益という観点から丁寧な検討が必要なこと。また投資ファンドと企業の間で利益が相反する場合も生じうるとして、そうした提案を審議する際には、利益相反の程度に応じて、取締役会の審議・決定からファンド出身の取締役を除外する措置を検討する必要があるなどとしています。 
このように、もの言う株主が社外取締役になることについては課題が指摘される一方で、もの言う株主が経営を監督することで企業価値を向上させる効果に期待する声もあります。

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もの言う株主は、多くの企業の株式をもつ金融機関や機関投資家などと違って、特定の企業への出資を通じて、その企業の経営実態を丹念に調べ上げ、企業価値の向上に向けた提案を行う力が期待できる。また投資のプロとしての知見を活かすことで、株式市場の評価も見据えながら、企業の経営をより効果的に監督できるというのです。

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もの言う株主というと、自らの利益ばかり追い求めるというイメージを抱いている方も多いかと思います。しかし実際にはもの言う株主といっても様々で、なかには経営側と協力して企業の価値向上をめざしているところもあり、経営改革を進めるためにもの言う株主を受け入れようという企業も出てきているといいます。それがうまくいくかどうかは、もの言う株主から招いた取締役にどのような役割を期待するのかが明確になっているか、経営者が主体性をもってもの言う株主側に対応していけるかがカギになると有識者は指摘します。

さて東芝の話に戻ります。

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東芝は今、企業価値を高めるための戦略を外部から募集しています。国内外のファンドから10の提案が行われ、社外取締役がつくる委員会が選定を行っています。関係者によりますと、これまでに4つの提案に絞り込まれ、この中には東芝を買収したうえで非上場の会社にする案と、株式上場の維持を前提に業務提携を進める案が含まれているということです。非上場にする案は、すべての株主からいまより高い価格で株式を購入することになり、比較的低い価格で買った多くの株をもつもの言う株主にとっては、手っ取り早く利益をあげられることになります。一方で、そのことが中長期的にみて、東芝の価値を高め、もの言う株主以外の株主や、従業員、取引先に利益をもたらすものとなるのか。発言権を増した東芝のもの言う株主がどのような判断をくだすのかが注目されます。

東芝と、対立するもの言う株主が、お互いの立場の違いをどう乗り越え、最終的にどのような決着がつくのか。株式を上場するほかの企業にとっても決して無関心ではいられない問題となりそうです。

(神子田 章博 解説委員)


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