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KDDI 大規模通信障害~返金200円問題とローミングの課題

竹田 忠  解説委員

スマホ一つで、いつでもどこでもつながっているのが当たり前。
その前提が崩れた時、社会全体にどれだけ深刻な影響が及ぶのか?
それを思い知らされたのがKDDIで起きた、大規模通信障害でした。
それから一ヶ月。会社が公表した補償のありかたは十分なのか?
混乱を広げないための情報開示はどうあるべきか?
そして、いざという時の緊急通信手段をどう確保するのか、
検討すべき課題が次々と出てきています。

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そこできょうは
「KDDI 大規模通信障害 ~ 緊急対応 空白の11年」と題しまして、
三つのポイント
▽発端は初歩的なミス
▽議論を呼ぶ 200円問題
▽いかされなかった東日本大震災の教訓
この3点について考えます。

【 過去最大規模の障害 】
大規模な通信障害が起きたのは、ちょうど一か月前、
先月2日の未明から4日にかけてのことでした。

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影響を受けた利用者数は、少なくとも延べ3091万人以上。
「全面復旧」を宣言するまでにおよそ86時間を要し、
物流や金融、それに救急まで、影響は広範囲に及びました。
総務省が把握する2008年度以降で最大規模の障害となったわけです。
これに対し、金子総務大臣は会見で
「関係法令に基づき、必要な対応を速やかに行っていく」と述べて
近く、行政指導を行う考えを明らかにしました。
その上で
「原因の検証や再発防止策について専門的な見地から検討することが重要だ」
と述べて、有識者による会議を早期に開く考えも示しました。

【 発端は初歩的なミス 】
KDDIは先週、事故報告書を総務省に提出した上で
高橋社長が会見を開きました。

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この中で、そもそもの発端については、
通信機器のルーターの交換作業で設定ミスがあったためと説明しました。
ではなぜ、設定ミスが起きたのか?
それは本来、使うべきではない、古い手順書を使ったためで、
つまり、作業マニュアルを取り違えるという
初歩的なミスが原因だったことを明らかにしました。

これについて高橋社長は
「設定ミスと言っているが、作業における指示ミスということになる」
「事前の確認作業を、もう一段階、深くやっておけば、
この障害は防げたのではないか」という認識を示しました。
会社側は、今後、マニュアルの管理を徹底するとしています。

【 議論を呼ぶ200円問題 】
そして、次は補償問題です。
KDDIは今回、おわびとして、
料金から一律200円を差し引いて返金すると発表しました。
この200円が妥当なのかどうかが、議論となっています。

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そもそも、なぜ200円なのか?
KDDIの契約約款では、通話や通信サービスが
「全く利用できない状態」が24時間以上続いた場合は、
つながらなかった日数分の基本使用料を返金すると定めています。

このため、今回は、この契約約款に従って
▼通話サービスが全く利用できなくなった
278万人に対して、二日分の基本料金を返金する。
▼そして、それにプラスして、
ほぼすべての携帯サービスの契約者3589万人に対し
おわびとして一律200円を返金する、としています。
このおわびは契約約款に定めはありません。

ちなみに200円の根拠としては、基本使用料の平均の日割りが52円。
これに影響があった三日をかけて156円。(52円×3日間で156円。)
そこにおわびの意味をプラスして、200円という数字にしたといいます。

返金額は合計で72億円。
KDDIとしては過去最大の返金額となるだけに
高橋社長は会見で
「おわびの返金については、かなり悩んだ」と話しています。
しかし、この一律200円が公表されると、
ネット上では「安すぎる」といった声が一斉に上がり、
会社側との認識の差が浮き彫りになりました。

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その背景としては、そもそもこの契約約款の補償基準が、
現状に合わなくなっているのではないか、という指摘があがっています。
というのも、この補償基準はNTTドコモがおよそ30年前に
携帯電話会社として誕生した際の基準を
各社が踏襲する形になっているといわれます。

30年前は、携帯電話は文字通り「電話」でした。
しかし現在は金融や物流など、様々なサービスと結びついていて、
通信障害による暮らしへの影響は、はるかに大きくなっています。
これを機に、補償のあり方について
見直す議論も必要なのではないでしょうか?

【 情報伝達・周知活動 】
そして、もう一つ、重要なのが周知や広報のあり方です。
なぜなら情報不足が混乱に拍車をかけたという批判があがっているためです。

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今回の障害は、猛暑と台風接近という、
携帯電話のライフラインとしての重要性が一層強まっている中で起きました。
それだけに利用者からは、復旧のメドはいつ頃なのかという
重要な情報がなかなか伝えられず、
直接、ショッブで尋ねても対応がまちまちで、
あまりに不親切だという批判があがりました。
金子総務大臣もこれまでの会見で
通信障害が起きた場合の周知や連絡体制の在り方について
「業界全体としてのルール策定も含め検討する」と話しています。

【 空白の11年 】
そして、最後は今後の最大の焦点である、「ローミング」の検討です。
「ローミング」とは、臨時に別の電話会社の回線を借りて
通信できるようにする仕組みです。

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たとえば、A社の基地局が災害や障害で使えなくなった場合、
B社の基地局が、かわりにA社のユーザーの電波をひろって、
通信を可能にする、という仕組みです。

実は、この緊急時のローミング、
2011年の東日本大震災を教訓に
災害時の通信確保策として議論されたことがあります。
当時の総務省の報告書を見ると、
緊急通報のローミングについては
EUのほとんどの国でも実施されているとして、
早期実現に向けて検討を行うことが適当と書かれています。

しかし、当時は通信規格が3Gの時代で、
NTTドコモとKDDIの方式が違うことが壁となって
具体的な協議が進まず、検討は事実上立ち消えとなり、
以来、11年の空白がうまれたわけです。

しかし、今や、通信規格の主流は「4G」や「5G」で、
各社の通信方式に違いはなく、技術的なハードルは低くなっています。

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金子総務大臣は、先月の会見で(7月12日)、
「携帯電話が長時間利用できない事態が生じないよう、
ローミングなど、様々な選択肢を視野に入れ、
具体的な実現方策を検討したい」と述べています。

ただ、これ、実現に向けては、まだいくつもの検討課題があります。
▼たとえば、システムの改修費用は、誰が負担するのか?
▼通信料金の精算などのルールはどうするのか?
▼そして、受け入れた側が、通信量の急激な増加で
障害が起きないようにするにはどう制御するのか?
▼そして、実は最も難しい問題は、緊急通報を巡る問題です。
ローミングを利用して110番や119番の緊急通報をすると、
電話が切れても、本人に再びつなぐことができる
いわゆる呼び返しの機能が、基本的に使えなくなることです。
 日本では、呼び返し機能は緊急通報の必須の条件となっていて、
警察や消防との協議が必要となるなど、検討項目は多岐にわたります。

大規模な通信障害は残念ながら繰り返し起きています。
いざという時の影響を最小限に食い止め、社会の混乱を防ぐために
今、できることの検討を急ぐ必要があります。

(竹田 忠 解説委員)

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