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サル痘 国内初の感染確認 対策をどう進めるか

中村 幸司  解説委員

サル痘の感染者が、2022年7月25日、国内で初めて確認されました。海外で感染したとみられていますが、厚生労働省は、国内で感染が広がっていないか調査しています。
サル痘は、体に発疹がでる感染症で、多くは軽症で治るとされています。しかし、海外で感染の拡大がなかなか収まらず、WHO=世界保健機関は7月23日に「緊急事態にあたる」という判断を示し、警戒を強めています。
今回は、国内で初めて感染者が確認されたサル痘の対策についてです。

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解説のポイントです。
▽国内初となる感染例や海外の感染状況を見た上で、
▽いま広がっているサル痘の特徴、
▽対策をどう進めていく必要があるのか、考えます。

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国内初の感染者は、東京都在住の30代の男性です。
厚生労働省によりますと、男性は、7月15日以降に、けん怠感や発疹、発熱、頭痛の症状が出て、7月25日に医療機関を受診して、サル痘に感染していることが確認されたということです。都内の医療機関に入院していて、容体は安定しているということです。
男性は、6月下旬にヨーロッパに渡航して、7月中旬、日本に帰国しました。現地で接触した人が、その後サル痘に感染していることが分かったということです。
厚生労働省は、ヨーロッパで感染したとみていますが、詳しい感染ルートの解明とともに、感染が広がらないよう、国内で接触した人がいないかどうか調査しています。

海外では、サル痘の感染は広がっています。

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上の図は、2022年1月以降、感染者が確認された国と地域です。サル痘は、以前からアフリカの中央部や西部の地域で感染者がみられました。それが、5月以降、急に広がりました。上の図の7月4日の時点で、59の国と地域で、累計およそ6000人の感染が確認されました。そして、WHOの7月23日の発表では、75の国と地域で1万6000人あまりと、大きく増えています。

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WHOは、7月23日、サル痘の感染が世界中に急速に拡大しているとして、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にあたると発表しました。
WHOの「緊急事態」を受けて、日本政府は、世界中のすべての国や地域を対象に「感染症危険情報」のレベル1を出しました。海外への渡航を予定している日本人や、すでに滞在している日本人に注意を呼びかけています。

サル痘はどのような感染症なのか。感染経路を見てみます。

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サル痘のウイルスは、動物=具体的には、リスやネズミなど「げっ歯類」と呼ばれる動物がウイルスを持っていると考えられています。その動物からヒトに、さらにヒトからヒトにうつります。
感染した動物に、かまれるとか、血液や体液、発疹に触る=つまり接触によって感染します。ヒトからヒトには、体液や発疹部分への接触、それに飛沫でも感染します。ただ、飛沫感染と言っても新型コロナほどの感染力はなく、近い距離で対面で長い時間、飛沫にさらされるくらいでないと感染しないということです。
他に、感染者が使ったシーツなどの寝具にさわった場合も、感染することがあるということです。

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2022年5月以降の今回の流行では、欧米で報告されている感染者の多くは若い男性で、おもに男性間の性交渉で感染が広がったとみられています。
WHOの、テドロス事務局長は「サル痘は、密接な接触によって、誰もが感染する可能性がある。特定のグループの病気ととらえずに警戒すべきだ」としています。
差別や偏見は許されず、このことは対策を進める上で非常に重要なポイントです。

5月以降の感染では、それまでの典型的な症状とは異なる症状がみられ、対策が難しくなっているとも指摘されています。サル痘の典型的な症状は、次のようになっています。

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潜伏期間は、通常7日から14日で、5日ないし長いと21日ということもあります。そのあと、発熱や、頭痛、リンパ節の腫れ、筋肉痛などの症状が、1日から5日続いて、その後、「発疹」がみられます。発疹は、顔や手足、それに口の中などにできることがあるということです。

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ところが、5月以降は、発疹が顔にできずに、下半身だけにできるケースも見られます。また、発熱などの症状がないまま、それより先に「発疹」ができることもあるということです。こうなると、サル痘に感染したことに気づいたときには、すでに周囲に感染を広げてしまっているケースもあり、対策がこれまでより難しくなっているのではないかと専門家は指摘しています。

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多くの人は、軽症で、発症から2週間から4週間で治癒するということです。一方、病気などで免疫が落ちている人や子ども、妊婦の中には、重症になるケースがあるということです。
アフリカの地域では死亡例が報告されていますが、欧米では死亡した人はいないということで、サル痘の感染者が国内で確認されても、冷静に受け止める必要があると思います。

対策として、ワクチンや治療薬はどうなっているのでしょうか。

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サル痘は、天然痘と似ています。これは、双方のウイルスが同じ仲間であるためです。
天然痘の方が感染力や致死率は高いということです。天然痘にはワクチンがあります。天然痘のワクチンは、サル痘にも効果があり、85%と高い発症予防効果があるとされています。天然痘のウイルスはワクチンによって根絶され、WHOは1980年に根絶を宣言しました。それ以降、このワクチンは打たれなくなったため、50歳くらいより若い世代は、日本でも海外でも天然痘のワクチンを打っていません。サル痘の感染者は2017年ころからアフリカの一部で増えてきましたが、天然痘ワクチンを打っていない人が多くなってきたことが影響しているのではないかという指摘もあります。

日本政府は、今回、天然痘のワクチンを承認の対象になっていないサル痘向けの効果を期待して使えるよう、臨床研究という形で接種できる措置をとりました。
また、海外で開発された治療薬で国内では承認されていない薬についても、臨床研究として投与できるようにしています。

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それぞれ、ワクチンについては、感染者に接触した人、あるいは医療従事者に予防として接種する。治療薬は、東京の国立国際医療研究センターなどで患者に投与できる体制をつくっています。
水際対策としては、検疫所で入国・出国の人に、情報提供や注意喚起をしています。海外で感染者が増えていることを考えると、これを徹底することが必要です。また、感染を周囲に広げないため、保健所の濃厚接触者の調査を徹底して行うことも重要になります。
ただ、検疫や保健所、医療機関は、いま感染者が急増している新型コロナへの対応で業務がひっ迫しているところもあるとみられます。さらに負担がかからないように、サル痘の感染者が少ないうちに、感染経路を断つことが重要です。

サル痘は、接触や飛沫で感染が広がります。専門家は手や指をよく洗い、熱中症に注意して密なところではマスクをするといった、新型コロナ対策そのものが、私たちができるサル痘対策になると話しています。
サル痘は、ウイルスの特徴も次第に明らかになってきました。新型コロナとの違いも理解して、ひとり一人が感染対策を実践することが大切になっています。

(中村 幸司 解説委員)

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