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知床観光船事故~再発防止策の徹底を

松本 浩司  解説委員

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北海道・知床半島沖で観光船が沈没した事故を受け、小型旅客船の安全対策を検討している国の検討委員会が中間とりまとめを公表しました。運航会社のずさんな安全管理やそれを国がチェックできなかった反省から規制や監査の強化などさまざまな対策が盛り込まれました。

【インデックス】
▼事故の教訓と中間とりまとめの内容を見たうえで
▼安全対策の実効性を高めるための課題を考えます。

【事故の教訓と中間とりまとめ】

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観光船「KAZUⅠ」が沈没し26人が死亡または行方不明になっている事故では▼風速などの出港基準を守らず▼運航管理者や通信手段すらないなど、運航会社「知床遊覧船」のきわめてずさんな安全管理体制が明らかになりました。

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またこの船は以前も事故を起こし国や船舶検査機関が監査などを繰り返していたにも関わらず、ずさんな管理実態を見逃していたことも大きな問題になりました。

これを受けて国土交通省は専門家による検討会を作って議論を重ね、小型旅客船の安全対策強化策の中間とりまとめを先週、公表しました。

中間とりまとめには47項目が盛り込まれていますが、4つのテーマ
「事業者の安全管理体制」
「国の監査や処分」
「通信や救命設備」
「安全情報」について、それぞれ主な対策を見ていきます。

▼事業者の安全管理体制の強化

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まず事業者の安全管理体制の強化です。
事故を起こした「知床遊覧船」では安全運航のルールである「安全管理規程」が全くと言っていいほど守られていませんでした。

運航事業者は全体の責任者である「安全統括管理者」と「運航管理者」を選任し、運航管理者は陸上の事務所にいて船に情報を伝えたり指示を出したりして安全運航を支えることが義務付けられています。
知床遊覧船は要員を確保できずに社長がふたつを兼任していましたが、そもそも管理者に必要な経験がなかったうえ事故当時、事務所にいませんでした。
運航管理者が不在のときには補助者が代行することもできますが、補助者は海にいる船長になっていて、管理者が誰もいない状態でした。

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このため中間とりまとめでは「安全統括管理者」や「運航管理者」になるための試験を創設し、2年ごとの講習も義務付け、補助者は廃止します。
また船長についても、いまは船舶免許を持っていれば講習を受けるだけで資格を取得できますが、試験制になり一定の乗船経験が必要になります。

そして小型旅客船事業者の事業許可そのものも5年ごとの更新制にして、安全要件を満たさなければ事業が続けられなくなります。

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さらにこの事故では「風速」「波高」など出港の基準が守られていなかったことから、出港や運航中止の判断の手順を明確にし、公表を義務付けます。

▼国の監査・処分

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次に国の監査・処分についてです。抜き打ちの監査を取り入れ、船の運航中に運航管理者が事務所にいるかリモートの監査も実施します。罰則についても拘禁刑を導入したり、法人に重い罰金を科すなど厳罰化します。

▼通信・救命設備

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3点目、通信や救命の設備についてです。
今回の事故では知床遊覧船が認められていないアマチュア無線を使い、しかも故障していたほか、不感地帯の多い携帯電話を通信手段として届け出て認められていました。
中間とりまとめでは通信手段から携帯電話を除外し、業務用無線設備の導入を促すことになりました。

また救命設備について、いまは四角いマット状の浮き「救命浮器」も認められていますが、海に入らずに救助を待つことのできるスライダーの付いた膨張式救命いかだなどを開発し、水温の低い海域での搭載を原則義務付けます。
さらに今回、遭難場所がなかなかわからなかったことから遭難するとその位置を自動的に発信する装置の搭載を原則義務化します。

▼安全情報

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最後に安全情報について国はこれまで重い処分をしたときだけ事業者名を公表していましたが、安全上の問題が見つかり行政指導をした事業者名も公表します。
その一方、事業者の安全についての取り組みを評価・認定し、利用者が安全性をマークなどで簡単に確認できる制度を創設します。

【実効性を高めるための課題】
中間とりまとめは大きな事故を繰り返して規制が強化された貸し切りバスの経験を参考に重層的な対策が盛り込まれていて、安全性の向上につながることが期待されます。ただ実効性をあげるためには課題も少なくありません。

▼課題① 国の監査などの姿勢

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まず国の監査などの姿勢です。「KAZUⅠ」は沈没事故の前にも2回事故を起こしていて、国の運輸局は会社に「改善報告書」を求めました。このとき運輸局が例文を示し、ほぼそのままのものを提出させ運航再開を認めていました。また通信手段の不備を見抜けなかったり、航行記録の不自然な点を見過ごすなど甘い対応が浮き彫りになりました。
運輸行政は安全規制と業界の保護・育成の両面がありますが、後者に偏っていわば「性善説」に立つ姿勢は見直す必要があります。
また監督の徹底のために要員・体制に不足があれば強化が必要でしょう。

▼課題② メリハリのきいた制度設計

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一方、とりまとめの具体化にあたってはメリハリのある制度設計が求められます。小型旅客船は零細事業者が多く、コロナ禍で大きなダメージを受けています。悪質な事業者は退場させる必要がありますが、安全対策にきちんと取り組んでいるほとんどの事業者の経営を圧迫しないよう十分配慮する必要があります。

例えば寒冷地で義務付けられる「膨張式救命いかだ」は従来の設備より高額で維持費もかかるうえ、設置スペースの確保が難しいなどの問題があります。新たな規制によって負担が増える部分については技術面・資金面での支援や安全コストを料金に反映できる環境整備が求められると思います。

▼課題③ 新たな規制対象外の事業者

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さらに中間とりまとめの見直しの対象は全国600余りの小型旅客船事業者のうち港から一定以上離れた海域まで行く事業者270あまりだけで、それ以外は対象になりません。また、もっと小さな船を使う事業者は4500あって、これも対象外です。

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宮城県の松島町では63の小規模な事業者が組合を作って、今後見直しの対象になる小型旅客船だけでなく、もっと小さな船や大型船も統一の運航基準を作って地域で連携して運航を行っています。

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中間とりまとめでは地域ごとに安全協議会を作って旅客船事業者や漁業関係者、行政にも参加してもらって安全運航の相互チェックや安全情報を共有することなどを提案していて、松島の取り組みは参考になります。

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中間とりまとめで示された考え方で適用できるものを対象外の事業者にも広げたり、地域安全協議会の取り組みを通じて、すべての旅客船の安全性を高めていく必要があります。

【まとめ】
今回の事故を受けて国が全国の旅客船事業者に行った安全点検では全体の2割の事業者で運航に関する法令違反が見つかりました。
夏の行楽シーズンを迎え、国は最終とりまとめを待たずに、できる対策から実行していくとしています。利用者が安心して乗船できるように事業者も国も安全運航の取り組みを徹底してもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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