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中国経済大幅減速~安定成長への課題

神子田 章博  解説委員

日本企業の、ビジネスにも大きな影響を及ぼす中国経済の減速が目立っています。2か月余りにわたった上海市の外出制限が大きなつめ痕を残す形となりました。きょうはその要因と、当局が打ち出した景気対策の効果、中長期の安定した成長にむけた課題について考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです。

1) 消費と生産の激しい落ち込み
2) 回復にむけた対策と課題
3) 生かせるか 民間企業の活力

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1)消費と生産の激しい落ち込み
 まず中国経済の現状と景気減速の要因についてみてゆきます。
中国の今年4月から6月のGDP国内総生産の伸び率は、前の年の同じ時期に比べて実質でプラス0点4%。前の期の4点8%から大幅に減速し、最初にコロナの感染が広がった一昨年1月から3月以来の低さとなりました。上海で4月、5月とまるまる二か月の外出制限、そのほかの主要都市でも厳しい行動制限がとられたことから、4月の小売業の売上高が去年の同じ月に比べてマイナス11点1%、5月もマイナス6点7%と消費が大幅に減少。なかでも自動車は、供給不足という要因も加わって、4月はマイナス47点6%、5月もマイナス12点6%と激しく落ち込みました。

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また上海は海外や、製造業が集積する近隣の地域から、様々な製品や部品が集められ、そこから中国の内陸部に運ばれるという巨大な国際輸送基地です。その機能が大幅に低下したことで、各地で自動車やスマートフォン、パソコンなどの生産ができなくなりました。中国の工業生産は、4月はマイナス2点9% 5月は0点7%のわずかな増加にとどまりました。日本でも自動車メーカーで中国からの部品が調達できずに、車の生産ができなくなるといった影響も出ました。

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2)回復にむけた対策と課題
このように経済が大きく減速した中国ですが、習近平国家主席は、今年後半に開かれる共産党大会で党のトップとして異例の3期目に入ることを目指しているといわれます。このため、この夏以降景気を押し上げようと、様々な対策を打ち出しています。
その一つが、自動車販売のてこ入れです。先月から、購入時に販売価格の10%にあたる税金を最大で5%引き下げました。自動車減税は、リーマンショックの直後にも使われた景気対策の切り札で、先月の自動車販売は23点8%のプラスにまで回復。ただ、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰で、中国でも先月の消費者物価指数が2点5%のプラスと、上昇率は前の月より0点4ポイントもあがりました。物価の上昇が続けば、人々の財布のひもは、締まり、消費の低迷が続くことも考えられます。
もうひとつ、中国政府が力を入れているのが、不動産市場のテコ入れです。

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 中国では投機的な取引を抑制するための措置が導入された結果、当局の予想を超える不動産市場の停滞を招くことになりました。このため、中国の金融政策当局は今年1月と5月の二回にわたって住宅ローンの基準となる金利をひき下げたり、購入の際に必要な頭金に関する規制をゆるめたりして、不動産市場の活性化を図ろうとしています。しかし習指導部はもともと、すべての国民が豊かになる共同富裕というスローガンのもとで不動産価格を抑えようとしてきたはずです。住宅の価格が高騰して庶民の手がとどかなくなれば、格差の一層の拡大につながるからです。それが想定外の景気の落ち込みを招いたことで、規制の緩和に追い込まれる形となりました。

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ただ中国では、男性が結婚するには自分の家をもつ必要があり、家がなければ結婚できないとも言われ、住宅を購入する中心的な世代は30歳前後。その世代の人口がいま減少に転じていて、住宅への需要そのものが縮小するともいわれています。政府のテコ入れ策がどこまで効果を生むか不透明な部分も残ります。

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さらにコロナを封じ込めるため厳しい行動制限を求めるいわゆる“ゼロコロナ”政策の行方も焦点となります。経済にマイナスの影響も指摘されるゼロコロナ政策ですが、習主席は先月の演説でも「総合的に考えて最も経済的で効果的な感染防止対策だ」と強調しました。確かに再び感染が広がり、上海のような外出制限につながれば、経済は大きな打撃を受けることになります。その一方で、中国政府は、海外からの入国者の隔離期間を原則として14日から7日に短縮しました。ゼロコロナ政策がビジネスに与える影響が大きすぎると訴える外国企業の要望などを踏まえたもので、経済回復にむけて外国企業の力を借りたい思惑がうかがえます。ただ、隔離期間の短縮は感染のリスクを高める方向に作用します。今後も感染を抑えながら、経済は動かし続けていくという綱渡りの対応が続くことになります。

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3)生かせるか民間企業の活力
さてここからは中国経済の中長期的な課題について考えていきたいと思います。
中国政府は、去年3月、2035年までに、一人当たりのGDPを中レベルの先進国並みに引き上げるという方針を示しました。具体的な数字は示していませんが、日本の6割程度にあたるポルトガルなどを目標にかかげ、年平均で4点7%の成長を続けてGDPの規模を二倍にすることを目指しているとみられています。果たしてそれを実現できるのか。そこで注目したいのが、中国政府と民間企業の関係です。
いまから10年前、共産党のトップに就いた習近平国家主席はその翌年の2013年、3中全会と呼ばれる党の重要会議で、「市場に資源配分における決定的な役割を果たさせる」として、民間企業の経済活動を重視することで力強い成長をめざす方針を示したと受け取られました。しかし習主席が党のトップとして二期目に入る2017年の共産党大会では、党・政・軍・民・学 つまり民間企業を含め共産党がすべての活動を指導する方針を強調、あわせて国有企業の強大化を打ち出すなど、国有企業をより重視する姿勢を打ち出しました。共産党が経済を直接コントロールできることが一党支配に必要と考えたためだとみられます。

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そして去年は、ネット通販の大手アリババに対して独占禁止法違反で巨額の罰金を科したり、義務教育段階での営利目的での学習塾の経営を禁止したり、民間企業活動への介入する事案が相次ぎました。これらの政策をめぐっては、企業間の公正な競争の維持、富裕層だけが塾の教育を受けることができるという格差の解消をはかろうとした面もありますが、一方で、「共同富裕」を推し進める観点から、一部の民間企業に利益が集中する構造にメスをいれようとしたとも指摘されています。

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しかし、その結果、企業が委縮して事業活動にブレーキがかかり、中国経済の成長の勢いを鈍らせるおそれがあるという批判も招きました。こうした中で今年3月の李克強首相の演説では、それまでの党の声明に盛り込まれていた「資本の野蛮な成長の防止」など民営企業に否定的な表現が消え、経済の成長にむけて民間の企業活動を重んじる姿勢をのぞかせたもの見られています。
 中国政府としては、今後の民間企業の活発な活動を通じて国全体の成長のパイを大きくしたい。しかし築かれた富は一部の巨大企業に集中させることなく、低所得層にまで恩恵が届くようにすることが求められているのです。

民間の活力を最大限に生かしながら、共同富裕という社会主義国家としての要請にこたえてゆくことができるのか。中国経済の今後の成長、そして日本の経済にも影響が及ぶだけに、その微妙なバランスのかじ取りの行方を、目を凝らしてみていく必要がありそうです。

(神子田 章博 解説委員)

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