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参院選自民大勝 どうなる今後の政局

曽我 英弘  解説委員

参議院選挙で自民党は単独で改選議席の過半数を確保し、公明党とともに引き続き参議院でも安定した基盤を確保しました。これに対し立憲民主党と日本維新の会は野党第1党の座をめぐって激しく争い、明暗が分かれました。選挙で示された民意を読み解き、政治の行方を考えます。

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岸田政権の実績を問うとともに、安倍元総理大臣が投票日2日前に銃撃され死亡する衝撃のなかで行われた今回の選挙。自民党は単独で63議席を獲得し、改選議席125の過半数を確保して大勝しました。公明党は改選前を1議席下回りましたが、与党は衆議院だけでなく、参議院でも引き続き安定した基盤を確保しました。
これに対し立憲民主党は振るわず、改選前の23議席を下回りました。このうち比例代表では7議席にとどまり、日本維新の会の8議席を下回ったことで、今後野党第1党としての主導権を失う可能性があります。一方で日本維新の会は12議席となり、改選前の2倍に伸ばし、今後第3極としての存在感を一層強めることになりそうです。

自民党が大勝した要因は何なのでしょうか。

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まず内閣が発足して9か月が過ぎても5割を超える高い支持率を維持し、岸田総理大臣の政権運営を「評価する」という人が7割余りに上っている点です。さらに「評価しない」人に比例代表でどの政党に投票したか聞いたところ2割弱が自民党に投票したと答えたことからも政権の強さが見て取れます。
また選挙最終盤で起きた安倍氏への銃撃事件が有権者の投票行動に何らかの影響を与えた可能性も否定できません。

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こちらは今回と去年の衆議院選挙に行った期日前投票の出口調査の推移です。今回は、事件の翌日の投票日1日前、比例代表で自民党に投票したという人の割合が4ポイント余り伸びているのがわかります。自民党は最近、選挙戦最終盤で組織力を生かして票を増やす傾向にありますが、今回は特に運動に力が入ったのは確かだという関係者もいます。

一方で立憲民主党が低迷したのはなぜでしょうか。全国32ある「1人区」で候補者を一本化したのが3分の1にとどまるなど共闘が十分進まなかっただけではない根深い要因もうかがえます。

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というのも支持政党別にみると、特に支持する政党はない「無党派層」が比例代表で立憲民主党に投票したのは2割弱にとどまり、自民党のおよそ3割弱に水をあけられています。

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さらに立憲民主党を支持する人の1割弱の票が自民党に流れるなど、野党第1党として政権の批判票の受け皿とは認められなかったと言わざるを得ません。
いま総括すべきは選挙の体制や戦術云々よりむしろ、政党として、野党として立憲民主党が何を目指し、政治の現場でどのような役割を果たすのかといった本質的な議論であり、これ抜きに党勢の回復はおぼつかないように思います。

選挙後の日本政治の課題、そして岸田政権の行方について考えます。岸田総理は衆議院の解散に踏み切らなければ2025年まで最長3年間、全国規模の国政選挙なしに政策の実現に専念することが可能となりました。ただ新型コロナや物価高騰、電力ひっ迫などの解決は国民生活にとって急務であり、今後の政権運営は不透明感も漂います。

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まず直面する課題は、予算編成です。自民党内では財政再建派と積極財政派の間で意見の対立が目立っているのが実情で、先月閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針=「骨太の方針」では、去年まで盛り込まれていた2025年度という財政健全化の目標年次は明示されませんでした。また予算編成をめぐって党内では歳出圧力が強まっていて、この秋、50兆円規模の第二次補正予算を編成するよう求める意見や、防衛費を5年以内に倍増し来年度予算では少なくとも6兆円程度を確保すべきとする声もあります。年末の予算編成作業が本格化する中で、両派の対立が再燃した際どう調整していくのか、岸田総理の手腕が問われます。

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また憲法論議も課題です。今回自民・公明両党に加え、憲法改正に前向きな日本維新の会や国民民主党の議席をあわせた「改憲勢力」で、改正を発議するのに必要な参議院全体の3分の2の議席を占めたことで、数の上では発議の条件が整いました。ただ4党の間でも9条の扱いなど個別の項目やスピード感には温度差があるほか、改憲の旗振り役だった安倍氏の死去がどう影響するのか見通せず、議論が加速するかは不透明です。さらに国民投票で否決されればその後の発議が困難になり、政権の命運に直結する可能性も高いとみられるだけに、岸田総理は憲法改正に強い意欲を示しつつ、「中身で一致できる勢力が3分の2集まらないと発議できないというのが現実だ」とも述べています。このため発議にあたってはできるだけ多くの政党の支持を得られることを目指し、与野党の枠組みを超えた連携も含め様々な展開も予想されます。

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こうした政策課題に岸田総理が取り組むにあたって、焦点となるのが9月末までに行われるとみられる内閣改造・党役員人事です。去年10月、新自由主義的な政策からの転換や修正を掲げて就任した岸田総理ですが、参議院選挙までは持論を封印し、安全運転に終始してきたように映ります。また自らが率いる岸田派は党内第4派閥にとどまっていることもあり、主要政策や人事の決定の前には党内有力者と面会して方針を伝えるなど、各派閥などとの良好な関係構築に腐心する場面もみられました。今回選挙には勝利した一方で、保守派のリーダーであり、党内のとりまとめ役として頼りにもしてきた安倍氏を失った今後、岸田カラーの政策をいかに具体化し、実行に移していくのか。党内の力関係に微妙な変化が生じるのは避けられないとの見方も出る中、今後の人事で官房長官や幹事長など政権の骨格をどのように整え、各派閥とのバランスや距離感をどうとるのか。とりわけ党内の4分の1、90人を超す最大派閥の安倍派の後継者も含めた今後の動向、そして2年後2024年に控える自民党総裁選での自らの再選戦略も念頭に入れながら、慎重に検討を進めるものとみられます。

最後に、民主主義と選挙について考えます。安倍氏が襲撃された翌日も多くの候補者などが街頭などで選挙活動を続けたのは、主義主張や立場を超えた、暴力に屈しない姿勢そのものでした。
ただ今回の選挙の投票率は52点05%。戦後2番目に低かった前回3年前こそ上回ったものの依然として低いレベルに変わりはなく、選挙の正当性さえ問われかねない事態が続いています。戦後日本が大事にしてきた民主主義を守り、次につないでいくには、有権者の揺るがぬ決意、強い意思が不可欠です。わたしたちはこれを機に、投票の意義、有権者としての権利と役割について、今一度考え直す必要があるのではないでしょうか。

(曽我 英弘 解説委員)

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