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参議院選挙の争点~外交 不透明感増す国際社会、日本の行方は

岩田 明子  解説委員

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中国による海洋進出や、北朝鮮による挑発行動など、日本をとりまく安全保障環境が厳しさを増す中、ロシアによるウクライナ侵攻により、国際秩序は大きく揺らいでいます。参議院選挙の争点、きょうは外交について考えます。

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▼先週、岸田総理大臣は、G7首脳会議とNATO首脳会議に出席しました。
国政選挙の期間中に、総理大臣が日本を留守にしたのは、2010年以来です。
また、日本の総理大臣が、加盟国ではないNATO首脳会議にも出席したのも初めてです。
▼背景には、ウクライナ侵攻で、国際秩序が大きく揺らぐ中、中国とロシアが軍事協力を深め、ロシア、中国、北朝鮮と同時に向き合わなければならない、日本の特殊な事情があります。

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▼岸田総理は一連の首脳会議で、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と繰り返し、「国際社会の最大かつ共通の戦略的課題は中国だ」と名指ししました。

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▼NATOは今回、12年ぶりに「戦略概念」を更新し、ロシアについて「真の戦略的パ ートナーシップ」から「脅威」と位置づけを転換。初めて「中国」にも触れました。
▼さらに「新時代の日NATO協力」として、中国への対応を強めるため、これまでの
日本とNATOの具体的な協力内容をまとめた文書を大幅に改訂。サイバー、先端技術、海洋安全保障などの分野で協力を進め、防衛当局間の連携を進める方針も確認しました。

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▼では、混迷深まる国際情勢の中、各党は、今回の選挙でどのような外交方針を掲げているのでしょうか。
▼自民党は、ウクライナ情勢を踏まえ、「毅然とした外交」を前面に打ち出し、普遍的価値に基づく国際秩序の維持・発展に主導的役割を果たすとしています。
▼野党第一党の立憲民主党は、「わが国は日米同盟の強力な抑止力のもとにあり、さらなる同盟関係の信頼、連携強化に取り組む」と日米同盟を基軸とする方針を鮮明にしています。「台湾有事の回避」にも触れています。
▼公明党も「日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図る」としています。
またロシアを強く非難した上で、G7をはじめとする国際社会と緊密に連携し経済制  裁を強化するとしています。「中国とは双方の懸念を率直に指摘できる関係を維持」としています。
▼日本維新の会と国民民主党も、「日米同盟を基軸」としています。
このうち日本維新の会は「尖閣諸島、台湾への力による現状変更の試みは容認しない」 とし、国民民主党は「同盟国、友好国と戦争を始めさせない抑止力強化」としています 。
▼共産党は、ウクライナ侵略に乗じて「日米同盟の抑止力強化」を大合唱している
と批判し、「力対力の軍事ブロック的対応をやめ平和外交に徹するよう求めています。
▼れいわ新選組は、「アメリカ追従の外交政策の脱却」、「専守防衛と外交努力による
 問題解決を基本とする」などとしています。
▼社民党は、「日米安保体制ではなく、対等な友好協力関係を定める「平和友好条約」 への転換」を盛り込み、NHK党は、「中国、ロシア、北朝鮮が日本にとって脅威だ」などとしています。

▼各党とも外交の重要性を強調していますが、日米同盟については、「日本外交の基軸」とする立場の政党と、「アメリカ追従の外交政策を改めるべき」とする政党で立場が大きく違います。ただ、アメリカとの関係を重視する政党の間でも、安全保障面でアメリカとの協力をどこまで進めるか、これまでの日米の役割分担を見直すかどうかをめぐっては、温度差があり、これまでのところ、必ずしも議論はかみ合っていないようです。

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▼一方、選挙戦を通じて、各党は、中国に対して、人権の重要性を主張するなど毅然とした態度で臨むべきという点では、おおむね一致しています。
▼では、中国の現状を具体的に見てみます。
日本との関係では、東シナ海のガス田開発をめぐり、中間線の中国側の海域で、掘削を行うための機材などを設置したり、海警局の船が尖閣諸島沖の領海侵入を繰り返しています。おとといも尖閣諸島沖の接続水域に入りました。
さらにロシア軍の艦艇と日本列島を周回するような航行も確認されています。
▼一方、国際社会では、3月以降、ロシアを擁護するために、40か国以上の途上国に働きかけたことが指摘されています。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」における開発金融は、途上国に対する影響力への源泉となっているものと見られます。

▼中国の融資契約には、中国の債権を優先的に返済させたり、中国と政治的対立が生じた場合に、繰り上げ償還を義務づけたりする条項も散見されます。
▼ここ数年、中国への警戒感は、イギリスやフランスなど欧州各国でも強まり、艦艇の派遣や共同訓練などを通じて、インド太平洋地域に関与する姿勢を強めていました。ところが、新型コロナに続いてウクライナ侵攻が長期化する中、途上国の債務問題は深刻化し、欧州の関心が、地理的に遠い中国から離れてしまうのではないかと政府は懸念しています。

▼他方で、中国の市場規模は大きく、日本にとって重要な貿易相手国。緊密な経済関係にあることは間違いありません。経済安全保障の確保という観点も含め、中国との関係をどう整理するのか。9月の日中国交正常化50年のタイミングを見据えながら、途絶えている対面での首脳会談など、いかにして意思疎通を進めていくのか。参議院選挙後に持ち越された日本外交の課題の一つです。

▼またロシアによるウクライナ侵攻は、中国だけでなく、北朝鮮の動向にも影響を及ぼしそうです。というのも北朝鮮が核武装の重要性を再確認する機会となってしまった可能性があり、安全保障上の懸念が増しているからです。

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▼対北朝鮮政策をめぐる公約で、与党側は「核ミサイルの完全な放棄を迫る」「日米、日米韓で緊密に連携し、北朝鮮の非核化を目指す」などとしています。野党側には「国際社会と連携して断固たる措置を実施する」「日朝間で直接交渉を目指す」などとする党もあります。

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▼政府は、核兵器を含む全ての大量破壊兵器の、「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄を実現する」という立場。他方で対話の窓を開いていることも重要だとしています。岸田総理自身、拉致問題の解決に向け、キム総書記と直接向き合う決意を示しています。
▼ただ、国連安保理では、北朝鮮への制裁を強化する決議案に、中国とロシアが拒否権を行使し、国連の機能不全が露呈したのもまた事実。
今後は、安保理を含む国連改革や機能強化に向けた議論を進めることが必要で、国際社会の課題に向き合うための、グローバル・ガバナンスのあり方についても真剣に考えていかなければなりません。

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▼その文脈では、日米韓の枠組みが対北朝鮮政策で再び動き出したことは注目点です。今回、日米韓3か国の首脳が、およそ5年ぶりに対面で会談し、北朝鮮の核の脅威に共同で対処することを確認しました。その際、バイデン大統領は「世界が私たちを必要としている。結束すれば何でもできる」と強調したそうです。
また先月には、2017年12月以来行っていなかった、弾道ミサイル発射に対処するための共同訓練を再開することでも一致しました。
▼今後は、日米韓を軸に、欧州諸国と連携を強化しながら、抑止を強化していくことが現実的な方法とも見られ、その前提として、日韓関係の正常化に向けた交渉の行方も注目されます。

<まとめ>。 
▼冷戦集結後、最大の岐路に立たされている国際秩序の中で、いかにして存在感を発揮していくのか。選挙戦では、安全保障とくに防衛費などに議論が集中しました。一方で、日本の外交戦略をどう描いていくのかについても、さらに具体的な論戦が求められます。

(岩田 明子 解説委員)


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