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電力不足の中の参院選 争点の電力・エネルギー問題に各党の訴えは

水野 倫之  解説委員

日本の電力が足りない。
東京電力管内では先週、電力需給ひっ迫注意報が発表。停電という最悪の事態は回避されたが、夏に限らず次の冬も不足する見通しで、電力不足は慢性的なものに。
今回の参議院選挙では、この電力・エネルギーも大きな争点。
各党は電力をどう確保すると訴えているのか。そして原発には頼るのか頼らないのか。
電力・エネルギー問題について各党の訴えなどを水野倫之解説委員が解説。

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まず、日本の電力需給、近年で最も厳しい状況。

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先週東電管内に出された注意報は、4日続いた。
電力は停電とならないよう、使う量に対して発電量を3%余分に確保する必要あり。
この余力が5%を切ったため注意報が出され、企業や家庭の節電もあり停電は回避された。

この電力不足、直接の原因は記録的な猛暑に、発電所の準備が間に合わなかったため。
早い梅雨明けによる猛暑で、電力需要はこの時期としては東日本大震災以降最大に。
これに対し発電所は真夏前で修理中が多く再開が間に合わなかった。

ただそもそも日本の電力が抱える構造的な問題が背景に。
火力発電所が、脱炭素や自由化の影響で毎年数基のペースで廃止され、日本の発電能力が大幅に低下してしまっている。
火力の廃止は予想できたこと。政府はその分を再エネと原発で補おうとした。
しかし再エネは買い取り価格の設定や環境影響評価などの制度設計がうまくいかず、太陽光は増えても風力などが増えず。
また原発も審査が長期化し電力会社の不祥事もあって、再稼働は政府の思惑通りには進んでいない。
その結果いざという時の発電量が減り、政府の最新の予想では、今月の電力の余力は東北から九州の電力管内で3.7%と、予断を許さない状況。
さらに冬はもっと厳しく、1月は、東京と東北が1.5%、中部から九州も1.9%と危機的。加えてウクライナ危機で日本が権益を持つサハリン2の先行きが不透明になるなどエネルギーの供給不安も。そこで政府は全国に節電を要請。
電力不足解消の見通しはたっていない。

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現状政府の計画では2030年に向けて、脱炭素を進めるため火力を減らす一方で、再エネと原子力を現状より大幅に増やす方針。

こうした日本の電力の問題に、各党はどう対応しようとしているのか。
発表された公約を見ると、多くの党で一致するのが、国産で脱炭素電源の再エネの拡大。

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自民党は安定供給に向けて最大限の導入を図ると訴え、与党の公明党も早期の主力電源化に取り組むとしている。
野党も、立憲民主党が2050年に100%、国民民主党が2030年代に40%以上、共産党と社民党も2030年までに50%などと数値目標を掲げるほか、日本維新の会は再エネ導入へ規制見直しを不断なく行うとし、れいわ新選組は自然エネルギー100%達成までガス火力でつなぐとしている。
ただNHK党は、現時点で主要なエネルギー源になりえない現実を直視すべきとしている。

このように多くが再エネ拡大を訴えるものの、増やすのは簡単ではなく、各党ともその方法が具体的ではない。

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再エネの主力太陽光は夕方以降出力が減るため、昼間の電力を貯める蓄電池の整備も必要。また最近は山林を切り崩して設置される例も増え、全国184の自治体で規制条例が制定され、地域との共生が課題に。
陸上の風力も環境影響評価に時間がかかることもあり、0.9%をまかなうにとどまる。政府は洋上風力の計画を進めるものの、実現には長期間かかる。
このほか地熱も、温泉業者など関係者との調整が必要なこともあり増えていない。
さらに今後再エネが増えた場合、その電力を大消費地に送るための送電網の整備も必要だが、莫大なコストがネックに。

再エネ拡大にはこうした課題を克服する必要があり、各党は、地域や関係者の理解をどう得ていくのか。また蓄電池開発をどう加速させ、送電網整備にかかるコストを誰がどのように負担していくのかなど、具体的に示していかなければ。

そして各党の主張が大きく異なるのが原発への対応。
電力不足以外にも電気料金が毎月のように上がり続け、経済界を中心に原発活用を求める声がこれまでになく高まっており、今回の選挙では野党の中にも活用に積極的なところがある。

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自民党は安全が確認された原子力の最大限の活用を図るとしている。
ただ与党の公明党は当面の再稼働は認めつつも、将来的に原発に依存しない社会を目指すとしている。
そして野党の中でも、日本維新の会と国民民主党、NHK党が再稼働を容認し、維新の会は地域に情報委員会を設置して合意形成の場を作るとし、国民民主党は次世代炉への建て替えも提言。
これに対し立憲民主党は新増設を認めず原子力に依存しない社会を実現すると訴え、共産党やれいわ新選組が即時ゼロや禁止、社民党もすべての原発を速やかに停止するとしている。

既存の原発についてはこれまでも政府が再稼働を目指してきた。ただ再稼働したのは10基で全電源の4%をまかなうにとどまる。
その背景には依然として安全性に懸念を持つ国民世論や、原子力への信頼回復が進んでいないことが。

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安全面では裁判でたびたび地震対策などの課題が指摘され運転が止められているほか、ウクライナ危機では原発への攻撃が現実のものとなり、全国知事会は自衛隊が迎撃態勢をとるよう求めている。
また大手電力の原発部門でテロ対策の不備など不祥事も続いており、地元では福島の事故の教訓がいかされていないのではないかと、疑問の声も。

原発活用を訴えるのであれば、ウクライナ危機を受けた安全確保の具体策や、信頼回復に向け何に取り組んで地元の理解を得ていくのかなど、具体的に示していかなければ。
また原発を即ゼロにするというのであれば、どのような段取りでゼロにするのか。
またこれまで再稼働した原発のかわりにどうやって電力を確保するのかについても説明が必要。

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ただ再エネの拡大や原発のあらたな再稼働は、この夏や冬には間に合わない。
即効性のある電力不足対策は事実上節電しかなく、いかに家庭や企業に取り組んでもらうかが大きな課題。
電力会社の中には節電に自発的に取り組んでもらうために、節電に応じた利用者にポイントを付与する新しい節電方法を取り入れるところが出始め。
ただ全国におよそ750ある電力の小売りのうち取り組み始めたところはまだ少ないのが課題。こうした取り組みをいかに広めていくのか、またそもそも国民にどうやって節電への理解を得ていくのか、各党はこの夏や冬を乗り切るための対策も説明してほしい。

電力は暮らしに最も身近で、経済活動の根底を支える重要なエネルギー。しかしそれが足りない状態はしばらく続く見込みで、国民の間に懸念も。
今回の選挙では有権者が電力問題でもしっかり選択ができるよう、各党が公約実現の道筋をはっきり提示し、議論が深まることを期待したい。

(水野 倫之 解説委員)

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