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つながる社会のリスク~KDDI大規模通信障害

竹田 忠  解説委員

世の中のいろんなモノやサービスが、
スマホやインターネットでつながる、便利で効率的でデジタルな社会。
それが、いかにもろいのか、今回、我々は思い知らされました。
KDDIで起きた過去最大規模の通信障害。
会社側は2日から続く障害の全面的な復旧のめどは
尚、時間を要して5日になるという見通しを示しています。
異例の事態です。

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そこできょうは
① 繰り返される大規模障害
② 利用者への補償は
③ つながる社会をどう守るのか
この3点について考えます。

【 広がる影響 】
まず、通信障害が発生したのは、2日の午前1時35分ごろ。
「au」や格安ブランドの「UQモバイル」「povo」といった
KDDIの回線を利用する通話や通信が、突然、つながりにくい状態となりました。

影響はたちまち広がりました。

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・通信がうまくできなくなったことで
いわゆる〇〇ペイと呼ばれるスマホ決済も利用しにくくなりました。
・KDDIの回線を使っている一部のATMでは
お金がおろせなくなったり、
・宅配などの物流管理にも影響が出ました。
・また、大津市では、消防車が出動する事態となりました。
猛暑による熱中症が心配される中、
携帯での119番通報がかかりにくくなっているとして
携帯が通じない場合は固定電話を使うよう呼び掛けるためで、
各地で様々な影響がでました。
結局、復旧作業には、およそ40時間かかり、影響は最大3915万回線に上りました。

【 社長会見 】
KDDIの高橋社長は記者会見で
「会社の歴史上、一番大きな障害だと捉えている」と述べるとともに、
「社会インフラを支えるサービスを提供する立場である通信事業者として、
深く反省している」と陳謝しました。

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【 繰り返される大規模障害 】
そもそも、なぜこのような障害が起きたのか?
会社側の説明によると、発端は、通信設備の定期交換でした。

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ルーターと呼ばれる中継設備の一部を
新しいものに切り替える作業で不具合が起き、
およそ15分間、通信が遮断されてしまいました。
このため、切り替えをやめて、すぐにもとの設備に戻しましたが、
この間、つながらなかった大勢の利用者が一気にかけなおす事態となり、
通信がこみあってつながりにくくなりました。

このため、会社側では通信の量を抑えるため、
接続を50%規制する措置をとりました。
つまり2回に1回しかかからなくしたわけです。
利用者からすれば、さらにつながりにくくなったとして
混乱に拍車がかかるという悪循環に陥りました。

実は、これとほぼ同じことが去年も起きていました。
それが、去年10月、大きな被害をもたらした
NTTドコモの大規模な通信障害です。
この時も、設備の切り替え作業で不具合が発生して、
それによって通信が混雑し、大規模な障害へと発展しました。
一つの不具合が、連鎖的に障害を広げていくという同じパターンでした。

このドコモの通信障害が起きた時、事態を重くみた総務省は、
KDDIなど他の通信会社に対して緊急点検を要請していました。

そうしたことがあったのに、なぜ防げなかったのか、という質問に対し、
高橋社長は
「ドコモの障害の後に、全てを見直したが、甘かった」と述べて
ドコモの教訓を生かすことができなかったという見解を示しました。

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【 説明不足と賠償責任 】
また、今回の障害をめぐっては
会社側の説明が不十分だという批判があがっています。

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というのも、今回の障害は、猛暑と台風接近という、
携帯電話のライフラインとしての重要性が一層強まっている中で発生しました。
それだけに利用者からは、
復旧のメドはいつ頃なのかという重要な情報がなかなか伝えられず、
直接、ショッブで尋ねても対応がまちまちで、
あまりに不親切だという批判がネットなどにあがりました。

こうした中、総務省では急遽、次官級の幹部を、直接KDDIに派遣し、
連絡対応にあたらせるという異例の事態となりました。

高橋社長は会見で
「障害の現場に総務省が来られるのは初めての経験です。
 我々のお客様対応について、非常に申し訳ないと思っています」と述べました。

【 利用者への補償は 】
今後は、通信障害の大もととなった15分間の通信遮断の原因究明、
そして総務省による処分がどうなるのか、
こうしたことが大きな焦点になりますが、
もう一つ、重要な論点が、利用者への補償がどうなるのか、という点です。

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KDDIの個人向け携帯電話サービスの約款では、
▽サービスを全く利用できないか
▽同程度の状態が
24時間以上続いた場合は「損害を賠償する」と規定されています。

これについて高橋社長は会見で
「個人 法人を問わずご迷惑をおかけした。そのあたりを検討して決めたい」
と述べましたが、具体的な対応については
「一律に補償させていただくということはまだ回答を持ち合わせていない。
障害の内容をもう少し見た上で検討していく」と答えるにとどまっています。

ちなみに去年、大規模な通信障害を起こしたNTTドコモにも同じような約款がありますが、
復旧まで29時間かかったものの、
完全に利用できなかったのは2時間20分程度だとして、補償はしていません。

KDDIは、今回の障害について、
「利用できない」ではなく、「利用しづらい」という言い方をしていて
賠償の対象となるかどうかは不透明です。

【 IOT社会のリスク 】
そして、最後に今回の通信障害で明らかになったのは
いわゆるIOT社会で、
様々なモノとサービスがつながっていることの便利さとリスクです。

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たとえば中部電力では通信機能付きのスマートメーターが機能しなくなり、
家庭の電力使用量を計測できなくなりました。
猛暑の中、節電対策の要が機能しなくなったわけです。

また、象徴的な事例がコネクテッドカー、いわゆる、つながる車に影響が出た問題です。
コネクテッドカーは事故などの緊急時に
外部に自動でつながり、連絡する機能がある車ですが、
この機能が一部の車で使えなくなりました。

こうなりますと、気になってくるのは
今後、自動運転がさらに発展していった場合に
もし、同じような通信障害が起きれば一体どうなるのでしょうか?

また、遠隔医療の取り組みも次第に増えていますが、
そこで通信が途絶えてしまったら、どうなるんでしょうか?
これは命と安全に関わる問題です。

まずは、通信障害を起こさない、
再発防止を徹底させる、ということが必要ですが、
それでも、今回のようなことが起きた場合に
どうやって安全を確保するのか?
事故や問題が起きても、その限られた条件の中で
安全策を確保するいわゆるフェールセーフのような検討が必要になってきます。

たとえば、通信障害が発生した場合、
人命にかかわるおそれがある、自動運転や病院での設備などの場合は
いざという時に備えて複数の通信回線を持つことを義務づける、
といった検討も必要になってくるかもしれません。
デジタル化や5Gで、社会がさらにつながればつながるほど、
つながらない時の安全をどう確保しておくのか、
そこが問われているのだと思います。

(竹田 忠 解説委員)


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