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熱海土石流1年~盛り土の防災対策は

松本 浩司  解説委員

28人が犠牲になった静岡県熱海市の土石流は、上流の谷に危険な盛り土が造られることを行政が止められず、長年放置されてきたことが大きな被害につながりました。背景には、以前から指摘されていた法律や条例の抜け穴があり、被害を受け国は全国一律で盛り土を規制する法律をつくるなど対策強化に乗り出しています。土石流から1年、対策はどこまで進み、どのような課題があるのかを考えます。

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解説のポイントは
▼盛り土問題の構造的な背景
▼新たな盛り土・建設残土規制
▼今後の課題

【盛り土問題の構造的背景】
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1年前の7月3日、熱海市で起きた土石流では27人が亡くなり、1人の行方がわからなくなっています。静岡県の調査で発生源は上流の谷に造成されていた違法な盛り土と見られています。不動産会社が13年前から土を運び込み、市などの再三の指導を無視し、計画の3倍を超える高さまで盛られていました。民事裁判で土地の所有者などの責任が問われる一方、行政の対応を検証した県の第三者委員会は県と市の連携不足など「組織的な対応の失敗があった」と報告しています。

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盛り土の崩落被害は過去にも相次いでいて、NHKの取材で去年までの20年間に人や道路などに被害が出たものだけでも22件にのぼっていました。

また熱海の土石流を受けて国は住宅などに被害が出るおそれのある全国の盛り土を総点検した結果、対象になった3万6000か所のうち排水設備など防災上の対策が確認できないものや、必要な届け出がなされていないケースなどが1,089件あることがわかりました。

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問題のある盛り土がここまで増えてしまった背景に何があるのでしょうか。

盛り土には道路や宅地などの土台になっているものや、「建設残土」つまり工事で出た土を処分するためのものなどさまざまなものがありますが、問題が大きいのは処分のための盛り土です。建設残土の大部分は再利用するなど適切に処理されていますが、一部が山間や郊外に違法に捨てられたり、防災対策が不十分なまま積み上げられたりしているのです。

背景にはまだらな規制があります。盛り土は宅地や森林、農地など土地の用途によって異なる法律や自治体の条例で規制されていました。しかし規制内容に濃淡があって規制の緩い地域に建設残土が集中して持ち込まれるため、自治体からは以前から全国一律の規制を求める声があがっていました。

【新たな対策①~盛土規制法】
熱海市での被害を受けて国はようやく全国一律の規制に乗り出しました。
大きくふたつの部分に分かれ、ひとつは盛り土そのものの規制、もうひとつは建設残土の規制です。

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まず盛り土そのものへの対策として、従来の法律を大幅に作り替えた「盛土規制法」が5月に成立しました。
この法律では
▼まず盛り土を「規制する区域」を設定します。熱海のように盛り土が崩れたときに人家などに被害が出る区域を都道府県知事などが指定し、そこで盛り土をする場合には「許可」が必要になります。

▼そして盛り土を行う場合の災害防止のための一律の許可基準を定めます。その基準通りに造られているかどうか、造成の途中と完成後に行政が検査を行います。

▼盛り土のある土地の所有者や造成した事業者の責任を明確にするほか、

▼違反した場合の罰則が、これまでの1年以下の懲役または50万円以下の罰金から、3年以下の懲役、法人の罰金は最大3億円と大幅に引き上げられます。

課題はどうでしょうか。

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これまでより大きく踏み込んだ内容ですが、
▼「規制区域」の決め方や「許可基準」の具体的な内容は国がこれからガイドラインをつくって自治体に示すことになっていて、それによって効果は大きく左右されます。例えば規制区域は広く設定される見込みですが、新たな漏れや抜け穴ができないようにする必要があります。
▼また自治体の負担が増えるのは確実で、無理なく運用できる体制を考える必要があります。

【新たな対策②~建設残土の規制】
次に建設残土の規制です。法改正はせず運用を見直します。

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民間の工事の場合、元請けの建設会社の責任が重くなります。
多くの工事は発注者がいて元請けの建設会社、多くの下請け建設会社、そして発生した土を運ぶ運搬事業者と重層的な構造になっています。運搬事業者はトラック1台分でいくらなど決まった価格で土砂を引き受けるため、利益をあげるために持ち込み費用が安い不適切な処分場所に運び入れるケースも少なくないとされます。このため元請け会社に残土の最終的な処理まで確認するよう求めます。

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具体的には、元請け会社は残土処理場など運ぶ先と量などを記載した計画書をつくることになっていますが、その処理場がきちんと許可を得ている施設かどうかや、実際にそこに運び入れたかどうかを受領書などで確認することが義務付けられる見通しです。またそれらの内容を建設現場に掲示し、対象の工事も拡大されます。

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一方、発生する残土の8割を占める公共工事では、発注者である国や自治体などが残土を運ぶ場所を指定する仕組みがあります。国の工事はほぼすべて、国側が運ぶ先を指定して運び入れていますが、都道府県や政令市、市区町村は9割から7割ほどにとどまっていて、これを徹底するとしています。

さらに民間の工事でも大規模な工事を継続して発注する発注者に対しては、公共工事と同様に残土を運ぶ先を指定することを求めるとしています。

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しかし残土の規制にも多くの課題が残っています。
まず残土を受け入れる処理場が地域によって不足していることです。残土は廃棄物が混ざっていないものは再利用できる資源であり、土を必要としている現場とのマッチングを進めたり、処理場の情報の共有を進めるなど官民で検討し確保を図ることが課題です。

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また民間工事の場合、発注者と元請け会社が工事費用を一括して契約していて、残土の量が予測より増えるなど処理費用がかさんでもその分を出してもらえなかったり、重層構造のなかでコスト削減のため下請け会社や残土の運搬事業者が請負金額の値引きを強いられるケースも少なくないと指摘されています。故意に不法投棄などをする悪質な事業者はきびしく取り締まる必要がありますが、残土の処理にかかる費用を適正に価格に反映し、発注者も責任を持つようにしていくべきでしょう。

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【課題】
各地で非常に早い梅雨明けが発表されていますが、最近は梅雨が明けたあと、真夏でも前線が停滞して梅雨末期のような豪雨がひんぱんに発生し大きな被害が出ています。水害や土砂災害などへの備えが求められますが、総点検で問題が見つかった問題のある盛り土の安全や避難対策に万全を期す必要があります。

そして被害を食い止められなかった熱海市の土石流の教訓を受け止め、危険な盛り土そのものをなくしていく、増やさない取り組みが求められています。

(松本 浩司 解説委員)

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