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ウクライナ侵攻で関心高まる 参議院選挙 安全保障の論戦は

田中 泰臣  解説委員

2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、私たちは軍事大国が隣国に武力侵攻するのを目の当たりにしました。
日本は、今のままの安全保障でよいのかどうか、国民の関心が高まっています。
今回の参議院選挙で安全保障分野についてどんな論戦となり、私たちはどこに注目すればよいのでしょうか。

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《論戦の中心は防衛費》
今回の選挙では安全保障分野を公約の前面に打ち出す党が多くなっています。
論戦の中心となっているのは防衛力の強化、そのための防衛費の増額をめぐるものです。各党の公約は以下です。

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自民党は「NATO諸国の対GDP比目標2%以上も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」。
野党第一党の立憲民主党は「着実な防衛力整備を行う。総額ありきではなく、メリハリのある防衛予算で防衛力の質的向上を図る」。
与党の公明党は「専守防衛の下、防衛力を着実に整備・強化する。個別具体的に検討し、真に必要な予算の確保を図る」。
日本維新の会は「GDP比2%を一つの目安として増額を目指し防衛体制を総合的に強化する」。
国民民主党は「領土と主権を維持するために自衛隊の予算を不断に見直し、必要な防衛費を増やす」。
一方、共産党は「平和と暮らしを壊す軍事費2倍化の大軍拡を許さない。外交による平和」。
れいわ新選組は「専守防衛と徹底した平和外交によって周辺諸国との信頼醸成を強化する」。
社民党は「防衛力大幅増強の動きに反対」。
NHK党は「GDP2%程度へ引き上げるべき」。

《注目は“2%„》

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この中で注目されるのが「GDP比2%」という数値です。
日本の防衛費は、近年は5兆円台。年々増加しているものの、長年GDP=国内総生産の1%程度で推移しています。2%というのは、NATO=北大西洋条約機構の加盟国が8年前、2024年までに達成するとして合意したものです。
これに消極的とされ、1.5%ほどとなっている加盟国の1つドイツは、ロシアのウクライナ侵攻で方針を転換。毎年2%以上に引き上げることを決めました。
NATO基準というのがあり、日本でいえば防衛省の予算に加えて海上保安庁の予算なども含めますが、それで換算しても日本はGDPの1.24%となります。
各党の主張を見ますと、高い数値目標を掲げることで防衛力の大幅な強化に踏み出す。数値ありきではなく防衛力の整備や強化を進める。防衛力強化ではなく外交によって平和を実現する。大きくはこの3つに分かれ、与党間でも野党の間でも温度差や違いがあります。

《何を優先すべきか》
この防衛費をめぐる議論。増額か否かは大きな論点ですが、それに加えて日本の安全保障にとって今、何を優先するべきなのかを議論することが重要だと思います。

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防衛力強化を訴える党は、宇宙やサイバー、先端技術の研究開発など、いわば新たな分野への対応が必要だと強調しています。実は防衛省はそれらに加えて、今持っている力をきちんと使えるようにすること。特にミサイルなど弾薬の確保は大きな課題だとしています。
これまでは限られた予算の中で、主要装備品と言われる戦闘機や艦船などの導入を優先し、弾薬の確保は後回しにしてきたとしています。
いわば発射する装置はそろえたものの撃つ弾が足りないというもので、中には仮に戦闘が始まってもすぐ続けられなくなってしまうほど不足しているものもあるそうです。
組織的に戦闘を続けられる能力を「継戦能力」と言いますが、防衛省はウクライナ侵攻を見ても、その能力に弾薬の確保は欠かせないとしています。
各党には、防衛費の増額を訴えるのならば、どのような理由で何を優先して整備すべきだと考え、それをどう実現していくのか。そして必要な財源をどう確保していくのか、しっかりと示すべきだと思います。
一方、防衛費の増額に反対するのならば、今の安全保障環境への備えをどうするのか、外交による取り組みだけで十分なのかどうかを示し、有権者の判断を仰いでほしいと思います。

《弾道ミサイルへの対処は》
もう1つ注目されるのが弾道ミサイルへの対処をめぐる議論です。
北朝鮮は今年かつてない頻度でミサイルの発射を繰り返しています。

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今月5日には、8発ものミサイルを発射。今年に入って弾道ミサイルやその可能性があるものを発射したのは16回と、すでに1年間の回数として最も多くなっています。その発表でたびたび出てくるのが、「変則軌道」。軌道が変わるミサイルです。防衛省は、変則軌道など北朝鮮のミサイル技術の進展は著しく、ミサイルを撃ち落とす「迎撃」が困難になってきているとしています。
そこで出てきているのが、いわゆる「敵基地攻撃能力」です。
敵のミサイル発射基地などを破壊する能力のことで、これまで政府は一貫して、憲法上認められるもののアメリカ軍が担うとして、持たないとしてきました。
これについて自民党は今年4月、「反撃能力」と名称を変え保有すべきと政府に提言。公約に盛り込みました。
与党の公明党は公約に直接の記載はありません。ただ党幹部は、保有に一定の理解を示しています。
選挙後に政府・与党内の調整が本格化する見通しで、今回の選挙の論戦でも注目すべき課題と言えます。
これについて野党の主張には違いが見られます。

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公約で、日本維新の会、国民民主党、NHK党は、それぞれ名称は違いますが保有・整備すべきという立場。
共産党、社民党は保有に反対。
れいわ新選組は不可能だとしています。
立憲民主党は公約に直接の記載はありません。党幹部は、慎重に検討する必要があるとしています。

《「抑止力」と「専守防衛」2つの論点》

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この課題をめぐっては2つの大きな論点があると思います。
1つは「抑止力」です。安全保障の世界では相手に攻撃をやめた方がよいと考えさせる力のことを指します。能力を保有すべきと主張する党は、その抑止力の強化のために必要だとしています。
はたして能力を持つことが、軍備増強を進める周辺国への抑止力となるかどうか。抑止力のために、どこまでの装備を持つのか。それがいわゆる「軍拡競争」とならないかなどは重要な論点だと思います。
もう1つは「専守防衛」です。「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その内容も必要最小限にとどめる」という、戦後日本が一貫して守ってきた防衛の基本方針です。

反対する党は、能力の保有は、その専守防衛から逸脱するとしていて、保有すべきとする党とは主張が真っ向からぶつかっています。
何をもって攻撃を受けたとみなすのか。先制攻撃とはならないのか。想定される事態を示すなどして可能な限り具体的な議論をしてほしいと思います。

《各党の訴えに注目を》
この新たな能力の保有、また防衛費のあり方についても、政府は、年末までに国家安全保障戦略などを改定する中で結論を出すことにしています。
見てきたように、日本の安全保障政策にとって大きな転換となりうるもので、今回の選挙は、それを前に有権者が判断できる機会とも言えます。
それだけに各党には、選択肢を提示するような分かりやすい明確な主張を期待したいと思いますし、私たち有権者もその訴えに注目していくことが大切ではないでしょうか。

(田中 泰臣 解説委員)

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