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参院選の争点 経済政策

神子田 章博  解説委員

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参議院選挙の争点、今回は経済政策についてとりあげたいと思います。
今年の参議院選挙は日本がここ何年も経験したことのない激しい物価高の中で行われます。

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日本の消費者物価は、去年の夏以降上昇に転じ、4月は1年前に比べてプラス2.1%と、消費税率の引き上げの影響を除くと13年7か月ぶりに2%を超え、5月も同じ水準で高止まりしています。背景にはロシアのウクライナに対する軍事侵攻で原油価格が高止まりしていることなどがあり、電気代は18.6%、ガソリン代は13.1%も上昇、家計を直撃しています。

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一方で、企業が原材料などを購入する際のモノの価格を示す「企業物価指数」も、円安による輸入コストの上昇を背景に、4月は1年前に比べ10%の上昇と1981年以降で最も高くなり、5月も9.1%の上昇で高止まりしています。こうした中、製造業や農業や漁業の従事者の中には、原材料や肥料や燃料の値上がりを価格に十分に転嫁できておらず、とりわけ体力の弱い中小企業の経営悪化が心配されています。

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逆に、コストの上昇分の価格への転嫁が進めば、さらなる消費者物価の上昇につながるおそれもでてきます。
生活を脅かす物価高の問題に各党はどう対応しようとしているのか。それぞれの公約をみていきます。

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「自民」は、「燃油価格の激変緩和措置を継続するとともに、大きな影響を受ける業種への支援をきめこまかく行う」など。
「公明」は、「下請けなど弱い立場にある中小企業が適正な取り引きを通じて収益を確保し賃上げできるよう取り組みを強める」などとしています。
一方、野党各党は、国民の負担を軽減するために、消費税の引き下げや廃止を主張しています。

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このうち、「立民」・「国民」・「共産」が消費税率を5%に引き下げることを。
「維新」は、軽減税率を8%から段階的に3%に引き下げることなどを
「れいわ」は消費税の廃止を、社民は消費税率を3年間ゼロにすることを。
「NHK党」も消費税引き下げを政府に求めていくことをそれぞれ公約に掲げています。

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これに対し「自民」・「公明」は消費税について、年金など社会保障の財源を確保するためにいまの税率を維持すべきだという立場です。
去年の衆院選に続いて、消費税率をめぐる与野党の主張が対立しています。
さらに野党各党は、家計の負担の軽減にむけて、ガソリン価格の抑制や、現金の給付などの政策を掲げています。

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「立民」はガソリン税の上乗せ部分の課税を停止するトリガー条項の発動によるガソリン減税など総合的な原油価格高騰対策。
「維新」はガソリン税減税や社会保険料減免などを最優先で実施することを。
「国民」はトリガー条項の凍結解除によるガソリン価格の値下げに加えて「インフレ手当」として一律10万円の現金給付を。
「共産」は生活が困っている人などに一律10万円の特別給付金の支給を。
「れいわ」は、ガソリン税をゼロにするほか、春夏秋冬の季節ごとに10万円の一律現金給付を。
「社民」は生活困窮者に緊急に特別給付金10万円の支給を。
「NHK党」は社会保険料の引き下げを政府に求めていくなどとしています。

ただ税率などを引き下げれば、その分財政収入が減ることになりますし、給付を増やすには新たな予算を確保する必要があります。その財源をどうまかなうのか。ほかの予算を削るのか、別の税の税率を引き上げるのか、あるいは国債の発行つまり借金で賄うのか。与野党各党ともに、政策の実現にむけた具体的な道筋を示すことが求められています。

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さて、このところ国民の間からは、物価が急激に上がる一方で、賃金が上がらないことが、生活を一層苦しいものにしているという声が聞かれます。
実際に今年4月の働く人一人当たりの現金給与総額をみると、去年に比べて1.3%増えたものの、物価の上昇を計算に入れ、実際にどれだけのモノやサービスを購入できるかを示すいわゆる実質賃金で見ると、マイナス1.7%。つまり収入が実質的に減っていて、それだけ家計の負担が増していることを示しています。このまま賃金が上昇しなければ、消費が落ち込み、景気が悪くなる。逆にここで賃金があがれば、消費が拡大する好循環につながる可能性が出てくるという大事な局面にあります。

では各党は、賃金の引き上げにむけた対策や経済政策についてどう考えているのでしょうか。

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「自民」は「人、技術、新しい事業を起こすスタートアップへの投資を拡大して国民の所得を増やし、本格的な賃金増時代を創る」などとしています。
「公明」は「持続的な賃上げに向けて学者などを中心とする中立的な第三者委員会を設置し、適正な賃上げ水準の目安を明示する」などとしています。
一方野党側です。

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「立民」は「時給1500円を将来的な目標に、中小零細企業を中心に公的助成しながら最低賃金を段階的にひきあげる」
「維新」は「すべての国民に無条件で一定額を支給するベーシックインカムまたは給付つき税額控除を導入し、チャレンジのためのセーフティネットを構築する。」
「国民」は「積極財政と金融緩和で消費や投資を活性化し、労働需給を好転させることで、物価を上回る賃金アップを実現する」
「共産」は「大企業の内部留保に課税し、賃上げに向かわせる。中小企業支援とセットで最低賃金を時給1500円にする」
「れいわ」は「全国一律で最低賃金を1500円にし、中小零細企業には国が賃上げ分を補償する」
「社民」は「企業の内部留保を放出させ、正規労働者のみならず、すべての労働者の賃上げにつなげる」
「NHK党」は、「規制を緩和して国民の経済活動をより自由にしていく」などとしています。
 
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 最後に、今回の選挙では、物価高の一因となっている円安、そしてその円安を招いたと指摘される日銀の金融政策も争点のひとつとして浮上しています。
円安の背景には、日銀が物価上昇率2%を達成するまで、マイナス金利政策や市場から巨額の国債を購入するいわゆる異次元の金融緩和政策を続けるとしている中で、金利を大幅に引き上げているアメリカとの間で金利差が拡大。投資家の間で、より金利の高いドルで資金を運用しようと円を売ってドルを買う動きが強まっていることがあるとされています。
その円安にも押し上げられて、消費者物価は日銀が目標としてきた2%を超えていますが、黒田総裁は今の物価上昇は経済の好循環を伴ったものではないとして、金融緩和を継続する構えで、それが円安に歯止めがかからない要因だと指摘する専門家もいます。

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 こうした中で野党の間では「立民」と「共産」が異次元の金融緩和の見直しを公約にかかげる一方、「国民」は緩和継続を求めるなど対応がわかれています。見直しを求める党の中には、物価安定目標を2%とした日銀と政府の取り決めも見直す公約をかかげるところもあります。岸田総理大臣は、金利の引き上げは景気に大きな影響を及ぼしかねないとしています。
国民の間からは目の前の2%を超える物価上昇に対し受け入れがたいという声も聞かれ、2%の物価目標を掲げてきた日銀の政策が妥当だったのか、参院選をきっかけに改めて問い直される形となっています。

目先の物価高への対応に加え、賃金の上昇をもたらす成長をどう実現し、経済の好循環を生み出していくのか。各党には政策を具体的にわかりやすく示すことが求められています。

(神子田 章博 解説委員)

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