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参院選の争点~少子化対策・子育て支援

牛田 正史  解説委員

いま日本は、子どもを巡るいくつもの課題を抱えています。
出生数は減少に歯止めが掛からず、子どもの貧困率は高い水準が続き、虐待の件数は増加の一途を辿っています。
7月10日に投票が行われる参議院選挙では、少子化対策、それに子育て支援が焦点の1つになっています。
この国は子どもたちをどう守っていくのか。政治に求められる対策を考えます。

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まずは、子どもをめぐる現状から見ていきます。
何といっても「少子化」の進行です。

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出生数、つまり1年間に生まれた子どもの数は減少傾向が続き、一向に歯止めがかかりません。2016年に100万人を下回り、去年(2021年)は新型コロナの影響も受けて、81万人に減りました。
この10年間では23万人、そして20年間では35万人もの減少となっています。
かつてない深刻な事態を迎えていると言えます。
少子化が進む背景には、「晩婚化」や「未婚率の上昇」など様々ありますが、中でも経済的な面など「子育てへの不安」が大きな要因とも指摘されています。
賃金が伸びず、不安定な雇用のため、子どもを産むことを諦める人もいます。

では実際に今、子どもを育てている家庭で、厳しい生活を送っている人はどれくらいいるのでしょうか。
それを示す1つのデータが「子どもの貧困率」です。

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17歳以下の子どものうち、貧困状態にあるとされる割合です。最近はやや改善していますが、それでも2018年には13.5%、およそ7人に1人の割合にのぼっています。
さらに母子家庭や父子家庭といった、ひとり親世帯の場合、貧困率は48.3%まで上昇します。
これをOECDの加盟国で比較してみると、日本はデータのある36か国中35位と、2番目に深刻な水準となっています。
また、この貧困率の水準には達していなくても、生活が苦しいという子育て世帯も少なくないと見られます。

子育てへの不安が広がる中、今回の参議院選挙では各政党とも、経済的な支援策を相次いで打ち出しています。その公約の一部をご紹介します。

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「自民党」は子どもがいる世帯に支払われる児童手当や育休給付の拡充、
「立憲民主党」は児童手当の延長や増額などを掲げています。
この児童手当については、「れいわ新選組」や「NHK党」も、所得制限の撤廃などを掲げています。
また、出産費用の負担を減らす公約も多く見られます。
「公明党」は出産育児一時金の増額、
「日本維新の会」は出産の実質無償化などを掲げます。
さらに教育費用についても、「国民民主党」や「社民党」は高校までの教育の無償化。
そして「共産党」は、給食費など義務教育にかかる費用を無料にするなどとしています。
このようにそれぞれの各党が、出産や子育てにかかる費用の、負担の軽減を掲げています。

ただ、今の子どもを巡る問題は、虐待やいじめ、それに引きこもりなど様々あり、今お伝えした経済的な支援だけでなく、別の対策も必要になってきます。

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それは困難を抱える家庭を、行政が直接支援する「個別支援」です。
例えば児童虐待の現場で考えてみます。
いま、虐待の相談対応件数は年々増加し続けています。
この急増をどうすれば抑えられるのか。
児童相談所の担当者が口をそろえて言うのが「虐待に至る前の早期支援」の強化です。
虐待に至る家庭では、貧困やドメスティックバイオレンスのほか、親が精神的に不安定だったり、子どもの発達が遅れていたりするなど、支援が必要な様々な問題が関わっているケースも見られます。
そこに行政の担当者が直接アプローチし、早期に支援することが何より重要です。

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こうした個別支援などの強化に向けて、国の新たな動きがありました。
子ども政策の新しい司令塔となる「こども家庭庁」を、来年4月に設置することを決めたのです。厚生労働省や内閣府の部局を集約し、少子化問題のほか、貧困や虐待、それにいじめなどの対策を一層強化していくとしています。

ここで肝心なことがあります。対策を強化するためには、個別の家庭と向き合う自治体などの支援体制も拡大しなければならないという点です。
国がいくら支援を強化しようとしても、それを実行する人がいなければ、前には進みません。

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その支援体制ですが、まだ十分とは言えません。
実際に対策を強化しようとしても、人材の確保がネックとなる事態も出てきています。
例えば、子育て世帯への支援を強化するために、国が6年前から自治体に設置を促している「子ども家庭総合支援拠点」という組織があります。
妊娠の時期から、子どもが自立して社会に出るまで、継続的に支援にあたる組織です。
去年4月までに設置した自治体は635の市区町村で、まだ全体の約4割となっています。
その理由の1つに、「必要な専門職員などが揃わない」ということが要因に挙げられています。

また、児童相談所で対応にあたる職員も人手不足が続いています。
児童福祉司と呼ばれる専門職員は増員が進んでいるものの、1人あたり平均で40件以上を担当し、東京や大阪では70件を超えています。「限界に近く、個々の支援に十分な人を割けない」という声も少なくありません。

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また、体制をめぐる課題は人数だけではありません。
子育て世帯の相談に応じる部署では、多くの自治体で、年度ごとなどに契約を結ぶ、いわゆる「非正規雇用の職員」が中心を担っています。
ここで民間のシンクタンクが行った調査をご紹介します。
自治体全体では、正規職員が60%以上を占めていますが、子どもの家庭福祉分野で相談支援を担当する部署では、会計年度任用職員と呼ばれる非正規職員の方が多くなっています。
1年ごとの任用であるため、人も集まりづらく、経験豊かな職員も増やせないと話す関係者もいます。
また、「国が自治体に出している補助金の中には、主に非正規職員が対象になっているものもあり、正規職員の増員に繋がる支援を拡充してほしい」という声も、上がっています。
財政難の自治体も多い中、今後、国が果たす役割は大きく、今回の選挙でも、体制の強化を公約に掲げる政党も相次いでいます。

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ここまで、子育て世帯への「経済的な支援」や「個別支援」の強化についてお伝えしてきましたが、これらを進めるには「予算」が必要になります。
実は日本は、子どもに掛ける予算が、まだ少ないという指摘もあります。
GDPに占める子どもに関する公的支出の割合、つまり、子どもの政策にどれだけお金をかけているかを比較したデータを見てみると、日本は1.73%と、アメリカよりは多いものの、フランスやイギリスなどヨーロッパの先進国よりも低くなっています。
こうした現状の中、今回の選挙戦では、多くの党が子ども関連予算の拡大を公約に掲げています。

ただし予算を拡大するならば、財源が必要となります。それはどこで確保するのか。
また先ほどもお伝えした通り、対策の強化には人が必要です。その人材はどう増やすのか。
各党はより具体的な方法を示してもらいたいと思います。

子育て支援を強化し、少子化を食い止めなければ、日本はますます縮小していきます。
子どもが減るということは、それだけ社会の支え手が減り、活力の低下にもつながります。
未来を担う子どもたちへの投資、それが今まさに、政治に求められています。

(牛田 正史 解説委員)


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