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国連安保理の機能不全と北朝鮮の核・ミサイル開発

池畑 修平  解説委員

6月25日は、朝鮮戦争が勃発した日です。
今から72年前、1950年のことです。
かなり過去の歴史ともいえますが、今なお、休戦状態のままで正式には終わっていないという意味では、現在の話です。
そして、もう一つ、国連安全保障理事会と北朝鮮との関わり方という観点からも、現在につながっているといえます。

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朝鮮戦争は、北朝鮮軍が電撃的に北緯38度線を越えて韓国側に侵攻したことで始まりました。
もともと戦力面で劣っていた韓国軍は、不意をつかれて総崩れに。

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しかし、アメリカのトルーマン政権からの要請で、開戦から23時間後には国連安保理が招集され、北朝鮮軍の即時撤退を要求する決議が採択されました。
当時の通信事情を考えれば、極めて迅速な動きでした。

なぜ、安保理はすぐに決議を採択できたのでしょうか。
実は、1950年当時、拒否権を持つ5つの常任理事国のうち、中国を代表していたのは、蒋介石率いる国民党政権で、アメリカと良好な関係にありました。
一方、毛沢東率いる共産党政権は国連に加盟していませんでした。
そして、ソビエトは、共産党政権が中国の代表として安保理の常任理事国になるべきだと主張し、安保理をボイコットしていて、このときの会合にも出席しなかったのです。

つまり、北朝鮮と密接な関係にあり、韓国に対する侵攻にも事前に理解を示していた中国共産党とソビエトが不在であったからこそ、安保理で拒否権の行使がなく、アメリカの意向が通りやすかったわけです。
その後、この決議が土台となって、アメリカを中心に18か国で結成された国連軍が朝鮮半島に送られます。
国連軍は、韓国南部まで進んでいた北朝鮮軍の背後を衝く形で上陸して戦況を一変させ、国家消滅の危機にあった韓国を救いました。
ひるがえって、現在、核とミサイル開発を加速する北朝鮮に対して国連安保理が有効な歯止め策を打ち出せていないのは周知の事実です。

相次ぐ弾道ミサイルの発射を受けて、先月、安保理では、北朝鮮に対する制裁を強化する決議案の採決が行われましたが、中国とロシアが拒否権を行使して否決。
北朝鮮に対する制裁決議案が拒否権によって退けられたのは初めてでした。

この事態を受けて、今月には、拒否権を行使した常任理事国にその理由説明を求める初めての国連総会が開かれました。
常任理事国による拒否権の乱用に歯止めをかけようという狙いです。
しかし、ここでも中国とロシアは「制裁の強化は問題の解決につながらない」と主張した上で、先の決議案を提出したアメリカに対して「無責任だ」などと強い批判を繰り広げました。

ウクライナ情勢と同様、ここでも、「アメリカ対中ロ」という対立構図で、安保理が機能不全に陥っている現状を世界に見せつける結果に終わったといえます。

このように安保理が動けなくなっている状況は、北朝鮮指導部にとって明らかに好都合です。
中国とロシアが安保理から自分たちを守ってくれていると映るので、ほとんど何も憂いなく核・ミサイル開発を加速させようと考えているようです。
ロシアがウクライナ侵攻をめぐって核戦力を誇示して欧米側を威嚇しているので、なおさらです。

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北朝鮮は、キム・ジョンウン総書記出席のもと、朝鮮労働党中央軍事委員会の拡大会議を23日まで開き、軍の前線部隊の作戦任務に「重要軍事行動計画」を追加するとした上で、「戦争抑止力をいっそう拡大・強化するための重大な問題を審議し、承認した」としています。
「前線部隊の任務への行動計画の追加」。
「戦争抑止力の拡大・強化」。
こうした文言は、「核弾頭を搭載した短距離ミサイルを前線部隊で運用することに関わっているのではないか」という見方が韓国で強まっています。
というのも、北朝鮮は、最近、戦場での使用を想定した戦術核の開発を進めていると主張するようになっているのです。

もし、北朝鮮が7回目となる核実験に踏み切ることがあれば、それは、爆発の威力は比較的小規模な戦術核用の実験になるという見方も出ています。

このように、国連安保理の機能不全が北朝鮮の核・ミサイル開発にとってまたとない好機になってしまっているという状況ではありますが、国連という枠組みの中で各国に打つ手がないというわけではありません。

まずは、これまでに中国とロシアも賛成して安保理で採択された北朝鮮への制裁決議をしっかり履行するよう、今一度、各国が足並みをそろえる努力をすることです。

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北朝鮮に対する制裁決議は、11本あり、その内容は、徐々に厳しくされてきました。
現在では、各国に対して、北朝鮮から石炭や鉄鉱石などを輸入することを禁止し、北朝鮮への原油や石油精製品の輸出には上限を設けています。
また、自国内に滞在している北朝鮮労働者は北朝鮮に送還することも求めています。
核・ミサイル開発につながる外貨の獲得を封じようとしているわけです。
しかし、実際には、制裁逃れが後を絶ちません。
安保理の制裁委員会専門家パネルが今年4月に公表した報告書によりますと、コロナ禍の中でも海上で船舶から船舶に物資を移す「瀬取り」と呼ばれる手口の密輸はなくならず、中国がおよそ55万トンの石炭を輸入したという指摘や、石油精製品の輸出上限が破られたといった分析があります。
北朝鮮労働者に関しても、中国、ロシア、アフリカ、東南アジアで、送還されずに働き続けているケースが確認されたということです。
新たな制裁決議の採択が難しくても、すでに採択された決議に基づく制裁が厳格に履行されれば、北朝鮮に対する圧力になるはずです。

その上で、北朝鮮をめぐる中ロの拒否権行使を防ぐための取り組みが重要です。

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とりわけ中国への働きかけがポイントだと思います。
かつて北朝鮮の核問題をめぐる6か国協議の議長国という役割を引き受けた中国は、非核化を目指して一定の調整努力をしたという経緯があります。

北朝鮮が核実験を行うと中国東北部でも揺れが観測されて人々が不安感に襲われるという状況もあり、ミサイルの発射実験は黙認している中国指導部も、核実験には強く反対してきました。
もし、北朝鮮が再び核実験を実施することがある場合、日本を含めた各国は、制裁決議案の採決で拒否権を行使しないよう、全力で働きかける必要があります。
その際、決議案の内容に関して丁寧な調整をし、中国側の意見も反映させることも必要になると思います。
先月、アメリカが提出した決議案に中国が強く反対した理由の一つが、そうした事前の調整がないまま提出されたことでした。
一方、ロシアに関しては、ウクライナ侵攻が続いている限り、安保理で米ロが十分な意思疎通を図れるかは疑問です。
北朝鮮に関するどのような決議案でも反対するかもしれません。
ただ、もし中国に拒否権行使を思いとどまらせることができれば、ロシアに対しても強いプレッシャーにはなります。
北朝鮮をめぐって、中国と2か国で拒否権を行使するのはともかく、ロシア1か国だけで行使するのは大きな負担です。
言ってみれば、中ロの結びつきの強さを逆手に取る形で、まずは中国を説得することでロシアも牽制するわけです。

安保理をめぐっては、そもそも、中国とロシアだけでなく、アメリカ、イギリス、フランスの5つの常任理事国だけが拒否権という特権を持っていることが今の時代にそぐわないという議論が、以前からあります。
しかし、安保理改革が進展する道筋は見えていません。

ロシアのウクライナ侵攻とともに、北朝鮮の核やミサイル開発でも、安保理が「平和の番人」という使命を今後も果たせないようであれば、戦後の極めて重要な国際秩序である国連システム全体がいっそう揺らぐのは避けられそうにありません。

(池畑 修平 解説委員)

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