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「沖縄と自衛隊」 沖縄戦から77年に考える

田中 泰臣  解説委員

沖縄県民の4人に1人が命を落とした沖縄戦から77年。二度と悲劇を繰り返してはいけないという願いとは裏腹に、沖縄周辺の安全保障環境は厳しさを増し自衛隊の配備が進められています。

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《平和への誓い 新たに》
沖縄戦で旧日本軍の組織的な戦闘が終わったとされる6月23日。
沖縄では「慰霊の日」として戦没者を追悼しています。遺族などは戦没者の名前が刻まれた「平和の礎」の前で手を合わせていました。
多くの人が平和への誓いを新たにした沖縄。しかし周辺の安全保障環境は厳しさを増しています。

《沖縄周辺では今》

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中国の武力による統一の可能性が指摘される台湾から沖縄県の与那国島まではわずか111キロ。このところ中国はその台湾周辺で軍事的な圧力を強めています。
空母遼寧は先月、沖縄本島と宮古島の間を通過し太平洋に出て、戦闘機などが300回以上、発着したのが確認されました。
また中国軍の戦闘機など、のべ30機が1日の間に台湾の防空識別圏に進入したと、台湾国防部が発表しました。そして沖縄県の尖閣諸島周辺では今週も中国海警局の船が日本の領海に侵入しています。一方、アメリカ軍もミサイル巡洋艦が台湾海峡を通過するなどしています。複数の防衛省幹部は「台湾有事になれば沖縄も無関係ではいられないだろう」と話します。

《進む“備え”》

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こうした中、防衛省は沖縄への部隊配備を急いでいます。すでに沖縄本島をはじめ、宮古島や与那国島に配備されていますが、与那国島には新たに、有事の際に相手の通信を妨害する電子戦部隊の配備を予定しています。石垣島や沖縄本島中部には、艦船や戦闘機などの攻撃から守るためのミサイル部隊。太平洋側での監視体制強化も必要だとして、北大東島には、移動式レーダーの配備を検討しています。

与那国町の糸数町長は取材に、「与那国島は台湾の離島のような位置にあり、悲しいかな、その現実から逃れられない。島にミサイル部隊も配備してほしいと思っている」と話します。米軍基地が注目されることが多い沖縄。自衛隊の「基地の島」という側面も強まってきています。

《沖縄県民の思いは》
進む沖縄への自衛隊配備。しかし沖縄の人たちは受け入れに、複雑な感情も抱いてきました。

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初めて部隊が沖縄に配備されたのは今から50年前。アメリカの統治が終わり、本土に復帰した年でした。配備された那覇などでは激しい反対運動が起きました。
地元出身の元自衛官として、受け入れに協力していた石嶺邦夫さんは、隊員は市役所から住民登録を拒否され、地元の成人式に参加させてもらえないこともあったと言います。これだけ強い反発が起きた背景。その1つには自衛隊が、沖縄戦で住民を巻き込んだ地上戦を行った旧日本軍と同一視されたことがあります。
石嶺さんは、「日本軍は住民を守らなかった。自衛隊も同じだろう」と何度も聞いたと話します。沖縄戦の体験者から長年聞き取りを行っている沖縄国際大学の石原昌家名誉教授は「日本兵に避難していた壕から追い出された」「米軍のスパイとみなされて殺されかけた」といった証言を聞いています。そして自衛隊の初配備の際に繰り返し聞いたのが、「自衛隊は住民を守らないだろう」という言葉でした。少なくとも、沖縄戦を知る世代を中心に、戦争の記憶につながるものを受け入れたくないという感情が強かったと言えます。

《県民の意識は変化》
一方でそうした県民の意識、年月を経るにつれて変化しています。

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今年、NHKが沖縄県の18歳以上を対象に行った世論調査の結果です。
沖縄への自衛隊配備について尋ねたところ、日本の安全にとって、「必要だ」と回答した人は37%。「やむを得ない」は47%でした。
今年の調査とは、調査方法が異なるため、単純な比較はできませんが、過去の調査結果のうち復帰から3年後の1975年と2012年を見ると、「必要」「やむをえない」ともにそれぞれ増えています。自衛隊に対する県民の意識が変わっていったことがわかります。

《変化の要因には?》
その要因には、安全保障環境が厳しさを増していったことや、世代交代が進んだことに加えて沖縄ならではとも言える、自衛隊の活動があると思います。
その1つが、自衛隊機による救急患者の搬送です。夜間や悪天候でドクターヘリの飛行が難しい場合に、医療体制が整っていない離島から沖縄本島に救急患者を運びます。本土復帰の年から活動を続け、今年4月、出動件数は1万回に達しました。

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もう1つが、沖縄戦による不発弾の処理です。「鉄の暴風」とも言われるほど、沖縄戦では大量の砲弾が撃ち込まれました。一部が不発弾となり、過去には住民が死傷する爆発事故も起きています。3年前、子どもが投げて遊んでいたのが不発弾だったということもありました。不発弾が見つかると、警察から要請を受けて専門の処理部隊が出動。起爆装置である信管を取り除くなどして運び出し、爆破処理などを行います。これまでに処理したのは約1850トン。
処理の際の事故は起きていません。
不発弾といういわば沖縄戦の負の遺産。その処理によって自衛隊への理解が深まってきた面がある一方、沖縄の人たちが、自衛隊に頼らざるを得ない厳しい現実を示しているとも言えます。

《有事の際 自衛隊は?》
今、沖縄に部隊が配備されているのは、主として有事に備えるためのものです。最後に、沖縄戦の体験者などから出ていた「有事の際に自衛隊は住民を守ってくれないのでは」という懸念について考えたいと思います。

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防衛省は有事の際、自衛隊の主たる任務は、日本への武力攻撃の排除で、それこそが、住民の生命・財産を守ることだとしています。
ただ自衛隊は、住民の避難に協力できる可能性もあります。国民保護法、それに基づく基本指針では、市町村が避難誘導を行うとしていますが、自衛隊についても「侵略を排除する活動に支障の生じない範囲で、可能な限り国民保護措置を実施する」と定められています。市町村は自衛隊に避難誘導を要請できる、ともなっていて防衛省も輸送艦やヘリなどを最大限活用したいと話しています。
また指針では、特に沖縄県の住民の避難については、離島という特性を踏まえて、国の特段の配慮が必要だとしています。沖縄戦の経験から、部隊が増強されるほど危険が増すと思っている人もいます。政府には、沖縄の人たちのそうした思いにも配慮し、有事の際に自衛隊がどのような役割を担う可能性があるのか、市町村との連携なども含めて丁寧に説明することが求められるのではないでしょうか。

《最も大切なことは》
今年3月、沖縄戦の犠牲者の遺骨や遺品の収集をしているボランティアグループは、激戦地だった沖縄本島南部の壕の中で、動員された学徒のものと見られる、
学生帽につけていた校章を見つけました。
77年前、沖縄で戦争によって将来ある若者も含め、おびただしい数の犠牲者が出たのは間違いありません。その沖縄周辺で今、軍事的な緊張が高まり、「備え」が必要なのもまた多くの人が認めるところだと思います。ただ最も大切なことは、沖縄を再び戦地としないことです。そのためには何が必要なのか、政府には、絶えず考えていくことが求められていると思います。

(田中泰臣解説委員)

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