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参院選公示 選挙の焦点

伊藤 雅之  解説委員

参議院選挙が公示されました。ウクライナ危機が物価高など国民生活や経済に影響を及ぼし、日本の外交・安全保障政策に関心が集まる中で、7月10日の投票日に向けて、あわせて125議席を争う選挙戦が始まりました。今回の参議院選挙が持つ政治的意味とその焦点を考えます。

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【政治の流れ左右する選挙】
参議院選挙は、衆議院選挙とは違って、政権の選択に直接、つながる選挙ではありませんが、今回の選挙は、今後の政治の流れを左右する重要な意味を持っています。

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この選挙が終われば、次の参議院選挙は、2025年の夏、去年10月に選挙が行われた衆議院議員の任期満了は、2025年の秋です。衆議院の解散がなければ、今後3年間、各党の勢力は、変わらないことになります。与党優位の政治状況が続くのか、野党が反転攻勢に向けた足がかりをつかむのかが焦点です。

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参議院全体の定員は248。今回は、その半数と神奈川選挙区の欠員の補充を合わせ、125議席をめぐって争われます。

【与党にとっての政治的意味】

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与党の自民党と公明党は、参議院全体の過半数125議席を維持することを目標にしています。与党側は、今回選挙されない非改選議席が69ありますので、参議院全体で過半数を維持するには、今回56議席が必要で、この56議席が与党としての目標議席になります。与党は、政権を奪還してからの3回の参院選で、いずれも70議席以上を獲得していますから、56議席というのは控えめな数字です。与党内からは今回選挙される125議席の過半数の63議席が事実上の勝敗ラインになるという見方も出ています。
与党にとっては、目標の56議席をさらに上回って勝利すれば、衆参ともに安定した勢力で、政権運営にあたることができます。

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とりわけ岸田総理大臣にとっては、実績を積み重ねながら、2024年9月末に任期満了を迎える自民党総裁として再選、翌2025年の衆議院の任期満了をにらんだ解散の戦略を余裕もって練ることができます。
一方で、議席を大きく減らすことになれば、自民党内で批判が高まって求心力が低下し、政局が流動化する可能性もあります。

【野党にとっての政治的意味】

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これに対して、野党側はどうでしょうか。
立憲民主党は、今回の選挙で争われる125議席に注目しています。そして、野党全体でその過半数にあたる63議席以上の獲得を目指すとしています。党単独での具体的な目標議席は示さず、野党全体の数を目標にしていることに、野党第一党が置かれた厳しい状況を示しているように見えます。与党が政権奪還して以降、野党と無所属などを合わせた議席は、最も多かった3年前でも53議席ですから、63議席というのは高い目標です。

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さらに、野党側では、路線の違いが目立ってきています。
立憲民主党と共産党は、去年の衆議院選挙での協力に対する評価の違いもあって、今回は協力より、党独自の政策や勢力の拡大を重視する姿勢です。
これに対して、日本維新の会は、是々非々の路線を取り、自民党の改革への姿勢を批判する一方で、立憲民主党などとは距離を置いています。
国民民主党は、政策の実現が最優先だとして、政府の当初予算案に賛成し、与党との政策協議も進めています。ただ、政府・与党に、どこまで協力するか、野党の中で、どの党と連携を深めていくか。それぞれの党内でも温度差があります。
今回の選挙は、野党にとって、与党と対峙する一方で、主導権争いという側面も垣間見えます。そして、選挙結果によっては、今後の野党間の連携、与野党の枠を超えた連携のあり方が変化していく可能性を秘めているように思います。

【憲法論議】

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与野党の枠組みを超えた連携の可能性という点で、わたしが注目しているのが、憲法論議の行方です。
主な政党の公約を整理しますと、具体的な改正項目を示したり、例示したりしているのは、自民・維新・国民・N党。一方で、テーマによっては、改正を検討、議論するという立場が、立民と公明です。これに対して、共産・れいわ・社民は、憲法改正に反対か、今は改正する必要はないと慎重な姿勢です。
今回の選挙で、与党と憲法改正に前向きな維新・国民の、いわゆる改憲勢力が、参議院で改正の発議に必要な3分の2の勢力を確保できるかどうかが注目点です。
ただ、憲法改正の発議、国民投票に向けては、できるだけ多くの支持を得られる具体的な改正案をまとめる必要があります。ここに憲法論議のむずかしさがあります。

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憲法に自衛隊を明記するかどうかをみますと、明記すべきは、自民・維新・N党。
検討や議論するとしているのが、公明・国民。明記すべきでないという立場が、立民・共産・れいわ・社民で構図が変わります。
各党の憲法に対する基本的な立場に加えて、個別のテーマへの対応に違いもある中で、参議院選挙の結果は、具体的な項目をめぐる議論の段階に入っていくのかどうか、憲法論議の進め方にも大きく影響する焦点になります。

【政策論議を深めるには】

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さて、3年前に参議院選挙の投票率は、48.80%で、過去二番目に低くなりました。
選挙への関心、投票意欲を高めることは、各党・各候補者に突き付けられた重要な課題です。そのためには、選挙戦での政策論議をさらに深める必要があると思います。
安全保障では、防衛費の増額や反撃能力の保有が争点になっています。与党側は、具体的な内容は、選挙後、年末までに行う国家安全保障戦略などの改定や来年度予算案の編成作業で検討し、積み上げていくとしています。
また、物価高対策や経済対策に関連しても、政府・与党内には、公約とは別に、選挙後、新たに大規模な経済対策と第二次補正予算案の編成が必要だという声があります。さらに、「人への投資」や、将来的に倍増するとしている子ども政策関連予算などの具体化も、年末の来年度予算案の編成や税制改正に向けて検討し、詰めていくとしています。
こうした現状は、政策の中身よりも、与党が示した方針の具体化を、今後、政府・与党に委ねて良いかどうかが問われる形になっているとも言えます。

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今後の論戦で、各党が、安全保障では、防衛費の増額や反撃能力の保有の是非に加えて、日本にとって、何が脅威なのか、優先すべきは、装備なのか、補給や修理なのか、サイバーなど新たな領域への対応なのか。また、日本の外交・安全保障政策をどう変えるべきか、何ができて、何ができないのか、より分かりやすく示し、かみ合った議論にはできないのでしょうか。
経済対策でも、コロナの影響が残る中で、物価高などに当面、どのような対策を講じるかに加えて、グリーンやデジタルなどの攻めの政策への転換をどう図っていくのか。
そして、防衛費を含め、あふれるばかりの予算要求をどう整理するのか。特に、その財源をどう確保するのか。予算の削減か、増税か、国債に頼るのか。国民生活に大きな影響を与えるだけに、各党は、掲げる政策の効果だけでなく、財源を含めて、その課題や問題点が浮き彫りになってくるように議論を深める工夫の余地はあるはずです。そのことが国民の関心や投票意欲の向上につながっていくと考えます。

【まとめ】
今回の参議院選挙では、立候補した人545人のうち、女性は181人で、立候補者全体に占める割合は33%と、数と割合ともに、過去最高になりました。これまで参議院選挙のたびに、「参議院らしさ」とは何か、その存在意義が問われてきました。その意味では、今回の選挙で、女性議員の数だけでなく、国民の様々な意見をしっかり反映できる議員がどれだけ増えるのか。参議院が「多様性」への対応力を発揮できるかどうかも問われているように思います。 

(伊藤 雅之 解説委員)

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