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世界難民の日 ウクライナ危機で難民。避難民1億人超 日本が求められること

二村 伸  解説委員

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札幌の夜に青く浮かび上がった時計台。

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岩手県陸前高田の「奇跡の一本松」も世界の平和を願ってライトアップされました。

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そして東京スカイツリー。世界難民の日の6月20日、全国41か所が国連のシンボルカラーのブルーにライトアップされました。

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難民保護と支援への理解を求めるとともに行き場を失った難民たちを励ますメッセージでもあります。

2000年に国連総会で「世界難民の日」が設けられて以来、日本でこれほど難民への関心が高まったことはなかったのではないでしょうか。ロシアの侵攻からまもなく4か月。ウクライナで家を追われた人は1400万人に達し、世界全体では迫害や紛争により移動を強いられた人が初めて1億人をこえました。命からがら逃れた人たちの保護と支援は十分行き渡っているのでしょうか。難民の現状と日本の支援の課題について考えます。

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世界難民の日を前に国連難民高等弁務官事務所が発表した最新の状況です。人種や宗教、政治的意見などを理由とした迫害や紛争により移住を強いられた人は、去年末時点で過去もっとも多い8930万人。この10年で2.5倍に増えました。このうち国外に逃れた難民が2710万人、国内避難民が5320万人です。
これに今年2月のロシアのウクライナ侵攻後、家を追われた人をあわせると1億人をこえ、食料不足やエネルギー価格の高騰が続けば状況がさらに悪化するおそれがあります。

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ウクライナから国外に逃れた人は770万人に上ります。ポーランドでは今も120万人近くが避難生活を送り、ドイツやチェコなど他の国々に移動した人も数多くいます。ウクライナに戻る人も増えていますが、住宅や道路をはじめ病院や学校が甚大な被害を受け、支援なしに生活できない状況です。戦火がおさまっても国際社会の長期的な支援が欠かせません。
ウクライナ周辺の国々では日本のNGOも支援活動を続けています。政府や企業と連携して国際的な支援活動に取り組んでいるNGO、ジャパン・プラットーフォームは、政府と企業から寄せられた40億円をもとに加盟する19団体が活動中か活動の準備を進めていますが、課題も見えてきたと言います。1つは、移動する避難民が増え、自分で必要なものを購入できるようにするため現金の支給が重要な支援の手段となっていますが、日本政府が国際機関やNGOに拠出した資金では現金の支給は認められていないことです。また、海外のNGOはすでにウクライナ国内で支援活動を行っていますが、日本の場合は入国が認められていないためウクライナ国内で直接支援できず、各国NGOとの調整にも影響が出ているということです。「顔の見える支援」のためにも現地の声に耳を傾け効果的な支援策を考えてほしいと思います。

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一方、日本国内には先週末までに1316人以上が入国しました。政府は日本に身寄りがない人にもビザを発給し、ホテルなどの一時滞在施設を提供しています。施設を出る際には16万円、その後も1日に2400円を支給しています。自治体や企業も住居や就労の機会を提供し、学校でも受け入れが進んでいます。入管庁によれば支援の申し出は1600件をこえています。難民に閉鎖的と言われてきた日本で、官民あげてこれほど受け入れに積極的なことはかつてなかったことで、国際社会の一員としての責務を果たそうという政府の方針は評価できると思います。

ただ、忘れてならないのは日本と同じアジアでも多数の人が保護を求めていることです。

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去年8月イスラム主義のタリバンが実権を握ったアフガニスタンでは、女性の教育や就労が制限され、旧政権や外国の大使館などで働いていた人たちが身の危険にさらされています。日本政府は緊急避難措置として入国を希望する人を受け入れ、日本に滞在していた人たちの滞在期間の延長を認めました。きょうまでの入国者は740人に上りますが、大使館とJICAの現地職員とその家族以外は、受け入れ先の身元保証がないとビザが発給されません。日本に行けずタリバンをおそれて知人の家に身を寄せるなどして潜伏生活を送っている人もいるということです。
ミャンマーの人たちはさらに厳しい状況にあります。ミャンマーでは去年2月に軍のクーデターにより民主化を求める活動家やジャーナリストが弾圧され、国外に逃れた人や祖国に戻ることができない人が大勢います。しかし、日本への入国は難しく、すでに日本で暮らしていた人も十分な支援は得られていません。ウクライナ避難民の受け入れは国際社会の一員として非常に重要なことですが、同時にそれ以外の人たちにももっと目を向ける必要があると思います。

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迫害や紛争から逃れてきても必ずしも難民として認定されるわけではありません。申請後、結果が出るまで平均4年。認定されるのはほんの一握りです。去年の難民認定は74人。人道上の配慮から在留を認められた人は580人で、数字だけ見ると前の年を大幅に上回りましたが、それ以上に多くの人たちが保護を求めています。日本の難民認定率は去年0.7%。他の先進国と比べると極端に低く、難民として認定されず拘束や強制送還に怯えている人が大勢います。

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いま難民認定を待つ人たちが不安を募らせているのが、申請中の強制送還を可能にする法改正の動きです。政府は去年、入管法、正確には「出入国管理及び難民認定法」の改正案を国会に提出しました。入管施設での収容の長期化が国際的な問題となり、本国への速やかな送還を目的に、難民認定の申請を3回以上した人は手続き中であっても強制送還できることや、送還を拒む人に刑事罰を科すことなどが盛り込まれました。野党や市民団体の強い反対もあって法案は取り下げられましたが、ウクライナ避難民の保護を理由に再び法案を提出する動きが見られ、難民支援にあたる弁護士は現行の入管法のもとでもウクライナ避難民の保護は可能であり、ウクライナを名目に同じ法案を通すことは認められないと反発しています。難民認定申請中の送還は難民条約違反だと国連も指摘しています。
難民の認定をめぐっては先月、注目すべき判決がありました。札幌高裁が控訴審判決で、2回目の申請でも難民認定されなかったトルコ出身の20代のクルド人男性の不認定処分を取り消したのです。札幌高裁は「帰国すれば迫害を受けるおそれがあり、難民に該当する」と判断しました。
また、去年日本で難民認定された4人は2回目以降の申請で、人道配慮により在留を認められた人の2割にあたる123人が2回の申請でも認定されなかった人たちでした。難民認定率が低いことが複数回の申請につながっている理由でもあり、過去には3回目、4回目の申請で難民認定された人がいることからも、法改正の前に司法の判断を真摯に受け止め、本来難民として認定すべき人を見逃していないか検証することが先決ではないでしょうか。
2月以降、ウクライナ支援の寄付が増える一方で、アフガニスタンやシリアの難民向けの寄付が減っているということで、関心の低下が危惧されます。ウクライナ避難民への支援の輪を他の難民や避難民にも広げ、支援を必要とする人を社会全体で支える、海外ではあたりまえのことが日本でも実現することを望みます。

(二村 伸 解説委員)


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