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中国、習近平国家主席69歳に 3期目入りと直面する課題を解説

石井 一利  解説委員

中国の習近平国家主席は6月、69歳になりました。
中国共産党のこれまでの慣例では、引退を迫られる年齢ではありますが、習主席は、これを破る形で、ことし後半に開催される党大会で、党のトップを続投し、3期目入りするとの見方が出ています。
異例な続投を目指すといわれる習主席が直面している課題などについて解説します。

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【中国共産党 年齢に関する慣例「七上八下」とは】

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習近平国家主席が、69歳となり、指導部の人事を決める5年に1度の共産党大会を前に改めて注目されているのが、「7は上がり8は下がる」という年齢に関する党の慣例です。
この慣例、党大会が閉会し、新指導部が発足する時、67歳以下は指導部入りできる一方、68歳以上は指導部引退ともされています。
ことしの党大会の具体的な日程は明らかになっていませんが、現在7人の最高指導部のメンバーについて、年末時点の年齢を見てみると、習主席を含め3人が68歳以上となります。
習主席は、慣例を破る形で、党のトップとして3期目入りするとの見方が出ていて、共産党が、ことし、どのように慣例を運用し、指導部の人事を決めるのか、関心が集まっています。

【外交の課題 アメリカ】
その中国は、党大会を前に、様々な課題に直面していて、外交上の最大の懸案とも言えるのがアメリカとの関係です。

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バイデン政権は、中国を「最大の競合国」と位置づけ、中国に対抗するため、民主主義や法の支配といった価値観を共有する同盟国や友好国との連携を強化する外交方針を示し、対立は激しくなっています。
「クアッド」や、新たな経済連携「IPEF」などの枠組みを通じて、中国を包囲するような動きを加速。
これに対して、注目されたのが南太平洋の島しょ国に対する中国の働きかけです。
この地域は、2段階に分かれた米中の攻防ラインのうち、グアムなどを結ぶ、いわゆる「第2列島線」の外側に位置する国もあり、安全保障上、重要な位置にあると考えられています。
中国は、4月、南太平洋のソロモン諸島との間で安全保障に関する協定を結んだことを明らかにし、周辺国やアメリカなどから、この地域での中国の軍事的な影響力拡大につながると懸念が強まりました。
さらに、中国は、5月から6月にかけて、王毅外相が、南太平洋の島しょ国など相次いで訪問し、安全保障面などで支援する考えを示しました。
一方、この地域に強い影響力を持つアメリカは、これにあわせるように、フィジーが、IPEFに加わると発表。
対する中国は、安全保障や貿易などの分野で島しょ国との協力を進める新たな構想を打ち出していましたが、合意には至りませんでした。
中国としては、思惑が外れたかたちで、この地域で、米中のせめぎあいが激しさを増しています。
中国は、「強い国」目指すという習主席の方針のもと、アメリカと激しく対立していますが、今後、長期的な経済発展につながるのか厳しく問われるかもしれません。

【外交の課題 ロシア】

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中国にとって、ウクライナへの軍事侵攻を行ったロシアと、どのような距離をとるのかも課題です。
習主席とプーチン大統領は、習主席の誕生日とされる6月15日、電話会談を行いました。
この中で、習主席はウクライナ情勢を巡り、「独立した判断を下し、世界の平和や経済秩序の安定を積極的に推進してきた」などとして、ロシアへの制裁を強める欧米とは一線を画してきたことを強調しました。
習主席は、およそ1年早く生まれ20年以上前から最高権力を握ってきたプーチン大統領と、2013年以降、40回にもおよぶ会談を重ね、友好な関係を築いてきました。
両国は、ことし2月の首脳会談後、「両国の友好関係に限りはない」などとした共同声明を発表し、その関係が、かつてないほど緊密になったことを印象付けました。

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しかし、その直後、ロシアはウクライナに軍事侵攻。
ロシアは、苦戦し、欧米などからは厳しい制裁も科されています。
中国は、アメリカとの対立を意識し、ロシアの存在が必要だとして、みずからが欧米から制裁を科されないようにしながらも、ロシア寄りの姿勢を示しているとみられます。
ただ、中国としては、トップ同士の関係で強めてきたともいえる両国関係を、どのような距離で続ければ、自国の利益につながるか、難しい判断が続きそうです。

【外交の課題 北朝鮮】

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また、北朝鮮への対応も中国にとっては頭の痛い問題です。
中国では、誕生日の贈り物は汚職につながるなどとされ、国家指導者の略歴は生まれた年と月しか公にされていません。
しかし、2013年、キム・ジョンウン(金正恩)総書記が、習主席の60歳の誕生日に祝電をおくり、習主席の誕生日が広く知られるようになったといわれています。
その北朝鮮は、ことしに入り、弾道ミサイルを相次いで発射。
国連の安全保障理事会では、北朝鮮への制裁を強化する決議案が提出されましたが、中国はロシアとともに、拒否権まで行使し、否決にしました。
背景には、アメリカに対抗する狙いもあったとみられますが、北朝鮮を巡っては、さらなる核実験実施への警戒が強まっています。
中国は、北朝鮮に一定の影響力があるとされ、これまで朝鮮半島の非核化を主張してきただけに、核実験の実施となれば、国際社会との関係や、国内での外交方針の調整など、難しい対応が迫られそうです。

【内政の課題 コロナ対策と経済の両立】

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一方、中国国内での大きな課題は、コロナへの対応と経済発展の両立です。
習近平指導部が、看板政策として掲げる「ゼロコロナ」政策。
感染対策として厳しい移動規制を行ったことから貿易が滞り、消費も低迷するなど、経済に大きな影響を与え、国内からは不満も出ています。
外資系企業は、さらに批判的で、中国に進出しているEU加盟国などの企業でつくる「中国EU商会」の調査では、およそ4分の1の企業が、「中国への投資についてほかの市場への変更を検討している」と答えました。
こうした状況を受けて、注目されたのが、習主席の地方視察です。
視察中、国営の新華社通信は中国のSNS上に、ノーマスク姿の習主席の写真を複数投稿。
「ゼロコロナ」政策が大幅に緩和されるのではないかという観測が一時、出ましたが、結局、習主席は、政策堅持の方針を改めて示しました。

ただ、党大会を前に、「長老」と呼ばれる引退した党幹部から、ロシア寄りの外交姿勢や「ゼロコロナ」政策について、批判的な声が出ているとも伝えられています。
このため、習主席のライバルともみられている李克強首相が、地方視察でノーマスクの姿でいれば話題となり、その存在感が注目されるなど、党大会を前に、国内外の課題への対応は、党内の人事とも絡めてみられるようになっています。

【「領袖」位置づけ いっそうの権威づけか】

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人事への関心が高まるなか、習近平国家主席のさらなる権威づけの形式も焦点です。
習主席が、今度の党大会で、「偉大なる領袖」(りょうしゅう)と呼ばれた建国の父、毛沢東に使われた「領袖」に位置づけられると伝えられ、いっそうの権威付けも進むとみられています。
「領袖」を巡っては、ことし中国国内で、習主席を「永遠の領袖」と称えたほか、香港メディアは、習主席の父親が、「大衆の領袖」と呼ばれたことを紹介しています。
ただ、経済政策などに批判的な声もあると伝えられるなか、習主席が、ことし毛沢東に並ぶように「偉大」と形容されるのか、それとも、権威だけでなく、集団指導体制の見直しなどまで行い、絶対的な権力も手に入れるのか、注目されています。

中国では、党大会に向け、今後、人事をめぐる激しい駆け引きも予想されます。
69歳となった習近平国家主席が、ことしの党大会をどのように取り仕切るのか、世界が注視しています。

(石井 一利 解説委員)


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