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通常国会閉会 参院選へ残された課題

権藤 敏範  解説委員

通常国会が閉会しました。国会開会中に始まったロシアのウクライナ侵攻は、国内にも様々な影響を与えています。石油などの価格の高騰は身近な食料品にも及び、北朝鮮や中国の動向も背景に安全保障への関心も高まっています。多くの課題に政治はどう向き合い、何が課題として残されたのか、参議院選挙の焦点も考えます。

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【物価高】

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ウクライナ情勢による物価高は止まらず、食料品などの値上げは家計を直撃しています。このため、政府は3月、賃上げなどの分配政策も盛り込んだ過去最大の今年度予算を成立させ、翌4月には原油高への緊急対策を決定。5月末には補正予算も成立させました。政府は、一連の対策で物価の上昇率が欧米諸国に比べて抑えられており、効果は出ているとしています。
これに対し、立憲民主党は、補正予算が予備費の積み増しと原油高対策にとどまった点を問題視し、政府の対策は不十分だと批判。今の物価高を「岸田インフレ」と呼び、6月10日には、野党4党で消費税率を当分の間、5%に引き下げる法案を提出しました。
岸田総理は、記者会見で、「物価・賃金・生活総合対策本部」を立ち上げ、迅速かつ総合的な対策に取り組む考えを示しました。ただ、物価高の長期化も懸念される中で、どのような対策を講じていくのか、それは支援が必要な人に届くのか、選挙でも論点になるでしょう。

【安全保障】
ウクライナ情勢は安全保障への関心も高めました。北朝鮮の相次ぐミサイル発射や中国の軍備拡張など日本を取り巻く環境が厳しさを増していることも背景にはあります。

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こうした中、岸田総理は、5月、防衛費の「相当な増額」を打ち出します。6月7日に決めた、ことしの経済財政運営の指針「骨太の方針」では、防衛力を「5年以内」に抜本的に強化すると明記。防衛費の具体的な水準には触れていないものの、NATOの加盟国がGDPの2%以上を目標としていることを例示しました。これは防衛費を「GDPの2%も念頭」とする自民党の提言も踏まえた表現です。
ただ、防衛費を仮に「GDPの2%」にするには新たにおよそ5兆円が必要とされ、野党の「総額ありき」という指摘に、政府は「必要な予算を積み上げていく」としています。ただ、大きな転換となりうるだけに、どの分野に重点を置き、何を増強するのか、そして財源をどうするのか、国民の理解を得るためにもより具体的な議論が必要になります。

【憲法論議】

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ウクライナ情勢は憲法をめぐる議論にも影響を与えています。
衆参の憲法審査会ではこれまで国民投票法などの手続き論が中心でしたが、今国会での議論は、緊急事態における国会の出席のあり方から始まり、議員任期の延長など国会の機能維持へと進みました。憲法9条を含む安全保障全般や参議院選挙の合区についても意見が交わされました。
特に衆議院憲法審査会は、1国会では最多の16回開催され、3月には、緊急時に限り国会でのオンライン審議が憲法上可能だとする報告書を議決。審査会として初めて憲法の条文に関して見解を示しました。
岸田総理は、参議院選挙の後に国会での憲法論議を本格化させたい考えです。ただ、強い意欲を示していた安倍政権で進まなかった憲法改正が進展するのか、選挙で、憲法改正に前向きな、いわゆる改憲勢力の行方とともに焦点となります。

【野党】

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さて、今国会では、野党の分断が際立ったのも大きな特徴です。
象徴的なのが、予算と内閣不信任決議案への各党の対応です。3月には、国民民主党が原油高対策の実現を条件に今年度予算に賛成。野党としては極めて異例の対応で与党からも驚きの声が上がりました。国会最終盤には立憲民主党が岸田内閣に対する不信任案を提出しましたが共産党などが同調しただけで、与党に加え日本維新の会や国民民主党も反対し、否決されました。
分断の背景には各党の思惑があります。立憲民主党は、「批判ばかり」というイメージを払拭するため、国会論戦も「提案型」を掲げて臨みましたが党勢は上向かず、最終盤になって対決姿勢を強めました。その立憲民主党と同じ旧民主党の流れをくむ国民民主党は、今年度予算に続いて補正予算にも賛成し、与党と原油高対策などで異例の政策協議を続けています。日本維新の会は、政権に是々非々の立場で臨んできましたが、岸田政権には批判を強める場面が増えました。共産党は、野党の結束を呼びかけますが、外交・安全保障政策の違いなどもあり野党で「一枚岩」とはならず、れいわ新選組は独自色を強めています。

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分断は、参議院選挙に向けた選挙協力にも表れています。選挙戦全体の勝敗のカギを握るとされる全国に32ある定員が1人の「1人区」では、前回と前々回の選挙ではすべての選挙区で自民党の候補と野党の統一候補が1対1で対決する構図となりました。しかし、今回は野党側が候補者を一本化して与党と対決するのは11選挙区にとどまっています。
野党各党の路線が、選挙のあとも変わらずに分断がさらに深まるのか、それとも連携を模索するのか。巨大与党に対峙し、政権監視という重要な役割を果たしていく上で何が必要か、各党の戦略と覚悟が問われることになります。

【政府・与党】

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国会では、参議院選挙を直後に控えているにも関わらず、法案審議は、終始与党ペースで進みました。これは対決法案を避けて絞り込んだためで、政府・与党が重視する「こども家庭庁」設置法や経済安全保障推進法など政府提出のすべての法案が成立しました。実に26年ぶりのことです。
選挙を前に、「具体策が分からない」と指摘されていた岸田総理が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けた実行計画も示されました。
国会序盤には、新型コロナのオミクロン株による感染急拡大が起きましたが、安倍・菅政権とは異なり、岸田政権は高い支持率を維持してきました。政府は、感染対策と社会経済活動の両立を図り、6月からは外国人観光客の受け入れも再開しました。ただ、感染拡大のリスクは常に抱えており、岸田総理は、「内閣感染症危機管理庁」を設置し、有事と平時にメリハリをきかせた体制をつくる考えを示しました。この組織の発足も含め今後のコロナ対策が実効性のあるものになるのか問われます。

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また、政府・与党が避けたかったのが、自らの失点で批判票が野党に流れる事態です。選挙制度をめぐる発言が議長としての資質に欠けると批判された細田衆議院議長への不信任決議案は否決されましたが、6月10日には、吉川赳・衆議院議員が18歳の女性に飲酒をすすめたなどと報じられて自民党を離党。野党側はいずれも説明責任を果たしていないとして批判していくものとみられます。
政治への信頼という点では、文書交通費の名称を変え日割りでの支給に改めましたが、透明性の確保に不可欠な「使いみちの公開」は見送られました。政治とカネの問題が相次いできただけに政治の透明化にどう取り組んでいくのか国民の厳しい目が注がれています。

【まとめ】
参議院選挙は、6月22日に公示されます。選挙に向けて与野党の対立は激しくなるでしょうが、今国会で積み残された問題にどう向き合い、こたえていくのか。与野党が自らの主張を繰り返すだけでなく、かみあった議論で、国民の理解を深め、信頼を勝ち得ていけるのか。与野党双方に突き付けられた課題だと考えます。

(権藤 敏範 解説委員)

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