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外国人観光客受け入れ再開~コロナ感染拡大は防げるか

神子田 章博  解説委員

政府は新型コロナの水際対策で止めていた外国人観光客の入国を今月10日からおよそ2年ぶりに再開しました。コロナ禍で落ち込む国内の旅行関連業界から期待が高まる一方、新たな感染の拡大につながらないようにするにはどうしたらよいか、課題も指摘されます。この問題について考えていきたいと思います。

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解説のポイントは3つです。
1)受け入れ再開の背景と具体的な方法
2)求められる感染防止対策
3)経済効果をどう生み出すか

(1) 受け入れ再開の背景と具体的な方法

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政府が外国人観光客の受け入れに踏み出したのは、コロナ禍で落ち込んでいた旅行関連産業を回復させ経済を押し上げることが狙いです。オーストラリアがすべての国と地域から渡航者の受け入れを再開し、韓国も今月からビザの発給を再開するなかで、観光先としてアジアの国々に後れをとるわけにはいかないという判断もあったものとみられます。

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ただ、受け入れは感染防止に配慮して当面限定的なものとなっています。
国や地域ごとに現地の感染状況や出国前の検査が機能しているかなどを総合的に判断し、感染リスクを評価。アメリカや韓国、イギリスなどリスクが低いと判断したあわせて98の国と地域は、ワクチン接種をうけていなくても、入国時の検査や自宅などでの待機措置を免除するとしています。ただし、入国時のサーモグラフィーによる検温で発熱が確認された場合などは、検査や宿泊施設での待機を求めることもあるということです。
 また国内を旅行している間の感染対策を徹底するため、旅行者には旅行会社などの添乗員つきのツアーに参加することを求めています。
 さらに外国人の入国者の1日あたりの上限についても、ビジネス目的も含め2万人に抑え、感染への影響をみながら徐々に拡大するとしています。

(2) 求められる感染防止対策 

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では懸念される感染拡大を防ぐためにどのような対策がとられるのでしょうか。
政府は、ツアーを組む旅行会社などに対し、感染防止のためのガイドラインを設けました。ガイドラインでは、旅行会社が海外の旅行者にツアーを販売する際に、マスクの着用や手指の消毒など感染防止対策を徹底することや、日本での入院や治療に備えて民間の医療保険に加入することについても同意を得ることなどを求めています。

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そして旅行中には、英語によるパンフレットを示すなどして、浴場でおしゃべりをしないとか、交通機関を利用したり観光スポットを訪れる際にはほかの人との間隔を空けるなど具体的な感染防止対策を説明したうえで、体調に異変があった場合はもれなく報告するよう徹底を求めています。海外ではすでにマスクを着用しなくてもよくなった国や地域もある中で、日本では、ワクチンだけでは感染を100%防止できないとして、マスクの着用でより効果的な感染防止に努めていることを説明し、どのようなケースでマスクが必要となるのかなど日本の感染対策について丁寧に説明していく必要があります。

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問題はツアー中に感染者が見つかったときです。先月30日、観光庁が実施した試験的な団体旅行で、タイから大分県を訪れていた観光客が新型コロナウイルスに感染したことがわかりました。観光庁はツアーを中止したうえで、感染した客を宿泊療養用のホテルに移ってもらい、同行していた3人の客が濃厚接触者にあたるとして、別のホテルで待機させる措置を取りました。
ガイドラインでは、こうした事例も踏まえ、ツアー客の感染に備えた規定も盛り込まれています。旅行業者側は、外国語で対応が可能な医療機関や、移動手段などについての情報をあらかじめ集め、いざ感染者が出た際の速やかな対応をとれるようにしておくこと。さらに帰国後に感染が確認されたケースも含め、濃厚接触者をあとから追跡できるように、旅行中のツアー客の行動の履歴を保存するよう求めています。

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感染症の専門家からは、入国時の検査や待機を免除することで感染者を水際で見つけるのが難しくなることや、感染力の強い変異株が国内に持ち込まれるリスクを懸念する声も出ています。ガイドラインで求めた感染防止策をきちんと徹底できるかが重要なカギとなります。

(3)経済効果をどう生み出すか

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次に、外国人観光客の受け入れ再開がもたらす経済への影響について考えていきます。
 追い風となっているのが円安です。円相場はコロナ前のおととしの1月には1ドル108円台だったのが、今週は一時1ドル135円とおよそ25%も円安となっていて、海外の人にとっては買い物や食事などが格段に割安となり日本に来やすくなるというメリットがあります。実際に各国で日本観光に備え早くも自国通貨を円に両替する人が増えていると伝えられています。また「世界経済フォーラム」が先月発表した観光競争力ランキングで、日本は初の世界第一位になりました。交通インフラの利便性や、自然や文化など豊かな観光資源、治安の良さなどが評価されたもので、多くの外国人が日本を訪れることが期待されています。

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 しかし、外国人の受け入れの上限は当面、1日2万人で、これを年間に換算すると730万人程度にとどまります。コロナ前の2019年の訪日外国人の数が3188万人に達したのに対し遠く及びません。また受け入れがツアー客に限られているため、個人での旅行を好むとされる欧米各国からどれだけ旅行に来てもらえるかも未知数です。さらにかつて訪日外国人の30%を占めていた中国は、いわゆるゼロコロナ政策の一環として、国内の旅行会社が国外への団体旅行の手配するのを禁じているほか、国外から戻ってくる人に対し、2週間など一定期間決められた宿泊施設での隔離を求めています。このため中国からの観光客の復活は、しばらくは望めません。 このように、当面の経済効果は限定的だという見方が一般的です、
しかし、私は、先が見え始めたこの時期に、将来の日本の観光産業の発展を見据えてやるべきことがあると思います。

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政府はコロナ禍になる前、観光立国をめざすとして、2020年に訪日する外国人の数を4000万人、日本での消費額を8兆円という目標を掲げました。しかし2019年の時点で訪日外国人の数は目標のおよそ80%に達したのに対し、消費額は4兆8000億円と60%の達成率にとどまりました。今後消費額を増やすにはどうしたらよいでしょうか。
ひとつのヒントになるのがアメリカの大手オンライン旅行代理店の調査結果です。海外の人々の間では人気のある観光地より人里離れた場所を好む人が増え、全体の6割近くに上るというものです。観光客による消費は、旅の付加価値や滞在日数の長さに応じて増えていくとされます。

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日本国内でも、例えば自然豊かな山間地の集落にある古民家を活用して宿泊施設を整備し、その土地の観光資源を生かしアウトドアも取り込んだレジャーのメニューを用意するなど、長期に滞在してもらうための知恵をしぼる必要があります。さらに一回の旅行で100万円以上を消費する富裕層の旅行者を増やすため、東京大阪などの大都市以外にも超高級ホテルを誘致していくことも必要です。あわせて全国各地の観光地の魅力を海外に向けて効果的に発信し、経済効果を全国にゆきわたるようにする戦略を練ることも、いまとりくむべき課題です。
ただ外国人観光客の受け入れ再開が国内での感染拡大を招くことになれば、旅行客も増やせず将来の青写真の実現も遠のいてしまいかねません。逆に、コロナの感染を抑え込んでいるという評価が高まれば、それが日本の新たな魅力にもなることでしょう。
日本は観光立国の再建にむけ、大事な一歩を踏み出すことになります。

(神子田 章博 解説委員)


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