NHK 解説委員室

これまでの解説記事

政府が7年ぶりの節電要請 電力不足を乗り切れるか 新しい節電方法デマンドレスポンスは

水野 倫之  解説委員

j220610_1.jpg

政府は、この夏電力需給が厳しいとして、7年ぶりに節電を要請。3月に需給ひっ迫警報が出され停電の一歩手前まで
行ったが、その後も発電所の復旧が進まず、ウクライナ危機による燃料供給の不安もあり、電力が不足するおそれがあるから。

▽厳しい電力需給とその構造的背景
▽老朽火力の現場は
▽期待される新しい節電方法・デマンドレスポンスについて
以上3点から水野倫之解説委員が電力不足を解説。

j220610_2.jpg

政府は今週開いた関係閣僚会議で、厳しい電力需給を示した。
電力の安定供給には需要に対して、発電量を3%余分に確保する必要。
ところが来月、厳しい暑さになると、東北・東京・中部電力管内で余力が3.1%とわずか0.1ポイント上回るだけの綱渡り状態に。
また西日本の電力管内も3.8%にとどまる。

さらに冬はもっと厳しく、来年1月は東電管内で-0.6%。
このマイナスは電気が足りないことを意味。電気は需要と供給のバランスがとれないと停電する仕組みで、
このままでは広域停電が避けられない。
ほかの6電力管内も1.3%と相当厳しい状況。

これを受けて政府は、7年ぶりの節電要請。
対象は全国、期間は7月から9月まで。
3%をかろうじて上回るものの発電所のトラブルやウクライナ危機による燃料供給のリスクを考えると予断を許さないから。

それにしてもなぜ電力不足が続くのか。
直接的には3月の福島沖地震で損傷した発電所の復旧の遅れ。
ただそれ以前からの構造的問題が。

j220610_3.jpg

政府は震災以降、再エネ拡大を進めてきたが、買い取り価格の設定や環境影響評価の範囲など制度がうまくいかず、
太陽光は増えたものの、風力などはあまり増えなかった。
その結果、太陽光の発電が減る夕方以降や悪天候の時に、別の手段で発電し需給を調整する必要があり、
その役割を一部の火力が担うように。しかし調整にしか使われなくなって稼働率が落ち採算が悪化。脱炭素の流れもあり、
電力会社は効率の悪い老朽火力を中心に休止や廃止を急ぐように。
毎年大型火力2機から4機分が休廃止され、いざというときの発電能力が足りないわけ。

政府は電力が足りなくなった経緯を検証し、こうした構造を抜本的に改善するため、再エネを、風力も含めてバランスよく
増やしていくための買取価格の設定や環境影響評価の在り方など制度の改革を進めていかなければ。
また火力の休廃止も含め、発電所の稼働状況について常に把握しておくことも不可欠。

ただまずはこの夏に間に合う対策が必要で、政府は休止中の火力発電所の再稼働の呼びかけも。

それにこたえようとしている千葉県にある姉崎火力発電所を取材。東電と中部電力の火力を引き継いだJERAが運営、
老朽化で去年4月までに6基すべてを停止し、廃止する計画。
しかし再稼働要請を受け、5号機の再開準備が。
ところが発電所長は開口一番。
「再稼働はしたくない、というのが実情」
いったいどういうことなのか、内部を案内してもらうと。
配管やポンプなどいたるところでさびが目立つ。
さらに、重要機器の上には、覆いが。これ、雨漏り対策。
老朽化で雨漏りがひどく、屋根全体を直すと、億単位のコストがかかるため覆いでしのいでいる。
ほかにもタービンに油を入れ直すなど、一旦休止した発電所の再稼働はかなりの時間と人員、そしてコストがかかるため、
経営上のメリットは多くないとことで、安定供給の責任を果たすため再稼働の準備を進めるとのこと。

このように休止した発電所の再開は簡単ではなく、電力不足を老朽火力だけに頼るのは困難。

そこで重要なのが利用者側の対策、節電だというわけ。
3月のひっ迫警報でも最終的には節電で停電を回避したわけで、即効性のある電力不足対策は事実上節電しかない。
ただ当時は警報の遅れもあって節電が進まず、停電の一歩手前までいった。

どうしたら節電が進むのか。
ここで私が注目したいのは、利用者が楽しみながら自発的に取り組むことができる、デマンドレスポンスと呼ばれる
新しい節電方法。
その仕組み。

j220610_4.jpg

まずは電力会社と利用者がスマホのアプリでつながる。
そして電力のひっ迫が予想される前日、利用者に時間帯を指定して節電の取り組みを呼び掛ける通知をアプリに送る。
利用者は節電し、その達成度合いに応じてお金にも代えられるポイントがもらえるというもの。

最近、リアルタイムで電力の使用状況が把握できるスマートメーターが普及。例えば東電管内ではほとんどの世帯に
設置済みとなり、こうしたインセンティブ付きの節電方法が可能になった。

j220610_5.jpg

去年導入された九州電力のデマンドレスポンスに参加している、鹿児島県の主婦に話を聞いた。
例えば2月のある日、夕方30分間の電力使用量の目標が示された時に、どんな節電をしたかというと。
「床暖房を使っているので、ちょっとそこの部屋にいない間は床暖スイッチを切るとか。」
結果0.8kWhの節電に成功。8ポイントつまり8円獲得。
この1年半で59日間このシステムで節電に参加し、749円貯めることができた。
「無理しないで自分でできる工夫が1円2円になるんだったらそれはすごいことだなって。うれしいし」
うまく節電できなかった場合、電力会社から上手な節電方法のアドバイスがもらえる点も参考になるという。
この取り組みには2万5000世帯以上が参加。1世帯1日あたり平均1kWhの節電効果があると。
3月の東電のひっ迫時の節電量の半分以上は一般家庭によるもの。
1軒の節電量は多くなくても、塵も積もれば山と。
このデマンドレスポンス、即効性があり電力不足への有効な対策になりうると、政府も期待を寄せる。

ただ課題も。この仕組みを導入する電力会社はまだ多くない。
経済産業省のアンケートで、回答した85%の会社がデマンドレスポンスを導入していなかった。新たにシステムを
構築する必要があることや、具体的な方法がわからないという答えが多かった。

ただ徐々に広がりつつはある。
例えば新電力の東京ガスは7月から本格的に始める計画で、10万世帯目指し参加者を募集中。
政府も期待を寄せるのであれば750社ある電力の小売り会社に対して、デマンドレスポンスの実例を紹介する機会を設けるなど、
導入を早急に働きかけていく必要。
またすでに導入している会社も、知らない契約者も多いことからもっと積極的に呼びかけて参加者を増やす努力を。

停電は命にも関わるだけに、絶対に避けなければ。
政府は電力の構造的問題の解決と同時に具体的な節電方法を今から分かりやすく国民に伝え、そして私たちも電力に関心を持ち、
いざという時に対応できるよう、今のうちから効率的な節電方法を身に着けておくようにしたい。

(水野 倫之 解説委員)

関連記事