島根原発2号機について、島根県の丸山知事が、きょう、再稼働への同意を表明。
ウクライナ危機によるエネルギーの供給不安や電気料金の高騰を受け、再稼働を急ぐなど原発のさらなる活用を求める声が高まっており、関係者は今回の地元同意をこれまでになく歓迎。
ただ今週も、裁判所が北海道の泊原発の再稼働を認めない判決。
原発のさらなる活用というのであれば、安全面の課題に対応し、エネルギー政策上の位置づけをはっきりさせることが大前提。
まず再稼働を巡る状況を見た上で、高まる原発活用の声、対応すべき課題は、
以上3点から原発の課題について水野倫之解説委員の解説。
丸山知事「産業や生活のため現状では原発が一定の役割を担う必要がある。やむを得ないと考え容認することにします。」
島根原発2号機の審査は、地震や津波の評価などに時間がかかっていたが、中国電力が対策を強化したことを受けて去年9月に合格。
きょう知事が同意したことでおもな手続きは終了し、審査開始から9年近くを経て再稼働への見通しが立ったことに。
きょうの地元同意について松野官房長官は原発が重要電源との認識を示した上で「再稼働にあたり地元の理解が得られたことは重要であると考えている」と述べ、歓迎の意を。
背景にはここ数か月で一変した電力事情あり。
ウクライナ危機で燃料が高騰、電気料金が過去5年で最高を更新し続ける中、エネルギーの脱ロシアに向け日本もロシア産の石炭原油の段階的輸入禁止を決定。
また3月にひっ迫警報が出た電力需給は、この夏も綱渡りで、政府は来月、7年ぶりに国民に節電を要請する方針。
加えて脱炭素も待ったなし。
政府はその点、原発は大規模電源で供給力があるほか、燃料のウランも一旦輸入すれば長く利用できる国産に準じるエネルギーで、運転中はCO2を出さないことから、供給力確保やエネルギーの脱ロシア、そして脱炭素にも貢献できると説明し、期待寄せる。
ただ再稼働は政府の思惑通りには進んでいない。
全国33基の原発の内、17基が審査に合格するも、地元の同意が得られないなどの事情もあり、再稼働したのは10基のみ。
現状原発は電力の4%を賄うにとどまり、政府の2030年の目標20~22%をあと8年で達成するのはかなり困難な情勢。
そうした中、今回の地元同意で島根原発があらたに再稼働できる状態になったわけで、関係者にとっては特別な意味があるわけ。
そして今、この島根原発にとどまらず、再稼働を急ぐなどさらなる原発活用を求める声が高まっている。
与党だけでなく野党の一部からも再稼働を急ぐことに加えて、建て替えを求める声も上がり始めている。
経団連も、建て替えを含む新規の建設方針を明示するよう政府に求めている。
そして松野官房長官もきょう、安全性を最優先に基準に適合した場合に再稼働を進めるのが方針だとした上で、「エネルギーの供給制約や燃料価格の高騰が続く中、最大限活用していくことが必要だ」と。
こうした原発活用の動きはエネルギーの脱ロシアを急ぐヨーロッパが先行。
EUのヨーロッパ委員会は原発を、地球温暖化対策に役立つエネルギーと位置づけました。脱原発のドイツなどは反発しましたが、ウクライナ危機が起き、原発活用の動きが加速。
すでに電力の70%を賄っているフランスは、次世代型原発6基を2050年までに建設する計画を明らかに。
ベルギーは2基の運転を10年延長させると。
そしてイギリスも最大8基建設し、2050年に25%賄うとするエネルギー計画を発表。
ただヨーロッパが積極活用だからと言って、福島の事故を起こした日本もただちにというわけにはいかない。
ヨーロッパ各国はエネルギー全般について議論し、再エネをさらに拡大するなどエネルギー計画を見直す中で原発を位置付けなおしている。
これに対して日本はこれまで政府が突っ込んだ議論を避けてきたため、将来的に原発をどう使っていくのかあいまいなままに。
同じく脱炭素電源の再エネをどこまで拡大するかにもかかわってくるだけに、今こそ、原発の課題へどう対応するのかを議論し、その位置づけを決めていく時。
中でも安全確保は最も重要な課題。
今週、北海道電力の泊原発の津波対策が基準を満たしていないとして裁判所が再稼働を認めず。このように原発ごとの安全性を再確認していくのはもちろんだが、ウクライナ危機ですべての原発に突き付けられた新たな課題が。原発攻撃への対応。
福島の事故後、テロ対策が義務化され、あらたに電源やポンプ、制御室を設けるなど対策が進められている。ただこれは航空機を衝突させるなど国家ではない組織の行為を想定したもので、国家によるミサイルなど武力攻撃は想定されていない。
規制委員会の更田委員長も「兵器による攻撃を受けたら放射性物質の拡散は避けられない」と述べている。
今、原発はおもに警察や海上保安庁が警備。
しかし地元は懸念を強め、全国知事会は北朝鮮がミサイル発射を繰り返しているとして、自衛隊が迎撃態勢をとるよう政府に要請。
ただ迎撃装置の配備は逆に攻撃の口実を与えることになりかねないとの意見も。
いずれにしろ議論を急ぎ対応策を決めていかなければ。
そして、政策上の位置づけもはっきりさせなければ。
エネルギー基本計画では原発を「可能な限り依存度を低減する」と言いつつ、脱炭素電源として「必要な規模を持続的に活用していく」とブレーキとアクセルを同時に踏むようなあいまいな位置づけにしており、2050年以降どうするのかも示していない。
これは政府が示す原発のシミュレーション。
原発の運転は原則40年に制限されていることから、建設中の3基も含めても2050年には3基分しか残らない。また例外規定ですべて60年運転しても2050年以降はかなり減る。
このため大手電力は建て替えや新設が不可欠と訴えるが、政府は「想定していない」と言う。ただこれも「現段階では」との但し書き付きで、ますますはっきりしない。
政府があいまいにする背景には、原子力に対する厳しい世論。
NHKの3月の世論調査でも、原発の運転再開に賛成が22%、反対が27%。
前回2017年からは反対が11ポイント減ったものの、依然として賛成を上回る。
安全への懸念に加え、制御室への不正進入や金品受領問題など不祥事が絶えず、電力会社や政府への不信が依然として根強いことも影響しているとみられる。
原発を使い続けるのであれば、いかに信頼回復を図るのかその道筋を示すことも大前提。
現状、技術が確立した脱炭素電源は再エネと原発しかない。原発の位置づけがはっきりせず目標達成できないなら、再エネを相当上積みしなければならない。
エネルギー事情が一変した今こそ、原発をいつまでどのように使うのか、安全の確保や信頼回復をどのように進めるのかを検討する議論の場を設け、その方向性を国民に示していかなければならない。
(水野 倫之 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら