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ロシア 長引くウクライナ侵攻 経済制裁の効果は

神子田 章博  解説委員 安間 英夫  解説委員

(神子田:経済担当)
ロシアのウクライナ侵攻は、東部戦線で攻防が続き、長引く様相を見せています。侵攻をやめさせようと西側諸国が打ち出した経済制裁の効果はどうなっているのか。きょうはこの問題についてロシア担当の安間委員とともに考えていきたいと思います。

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(神子田)
安間さん、軍事侵攻から3か月あまりがたちましたが、一向に終わる気配が見えませんね。

(安間:ロシア担当)
戦闘は長期化するとの見方が強まっています。

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ロシア軍は先週から東部のルハンシク州の最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強め、双方の攻防が激しくなっています。アメリカのシンクタンクは「ロシアの攻撃はピークとなり、ウクライナ軍が反撃を強めるチャンスがある」と分析し、双方の攻防はこう着状態になるとの見方があります。

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(神子田)
西側諸国はロシアの軍事侵攻をやめさせようと、早くから経済制裁の動きを強めています。ここで制裁の内容とねらいについてみていきます。

まずエネルギーです。日米欧のG7=主要7か国は、エネルギー大国ロシアの国家財政に打撃を与えようと、ロシア産の石炭と、ロシアの輸出総額の20%あまりを占める石油について禁輸する方向で合意しました。G7に加えEU=ヨーロッパ連合としても、海上で輸送する石油のすべてを禁輸することで合意。EUのロシア産石油の輸入の3分の2が止まります。ただロシアからの輸出額の10%弱を占める天然ガスに関しては、ロシア産への依存度が大きいドイツや日本が早期の禁輸は難しいとしています。

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一方、金融面では貿易などの送金で使われる国際的な決済ネットワークからロシアを締め出すとしたうえで、日米欧の中央銀行が、ロシアの外貨準備を凍結。ロシア経済を孤立させて通貨ルーブルを暴落させ、かつ、外貨準備でルーブルを買い支える力を削ぐ。ルーブル安になることで、ロシアが海外から輸入するモノの価格があがって、強烈なインフレを招く。その結果、ロシア国民の間から軍事侵攻への反発を引き起こす狙いがうかがえます。しかし実際には、ルーブルは一時1ドル150ルーブル前後まで値下がりしたものの、その後は、回復に転じ、軍事侵攻前を上回る水準に値上がりしています。

(神子田)
安間さん、ロシアへの経済制裁では、日本をはじめ先進各国もインフレの加速という犠牲を払っているわけですが、この制裁、実際のところロシアはこたえているのでしょうか。

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(安間)
たしかにあまりこたえていないように見えます。欧米が制裁を強めても抜け穴があるからです。世界でもロシアに厳しい制裁にとっているのはG7やEUが中心で、中国、インドをはじめ多くの国は制裁を科していません。

まずエネルギー面ですが、ロシアからの石油の輸出は、一時落ち込んだものの、4月の輸出量はウクライナへの侵攻以前の水準にまで回復しました。内訳では、制裁に参加しているEUとアメリカ、イギリスであわせて日量124万バレル減りましたが、制裁に参加していない国々では、中国が制裁では問題を解決できないなどとしてこれまでの水準を維持しているほか、インドとトルコであわせて91万バレル増やし、減少した欧米の分を買い支えるかたちとなりました。また、原油の禁輸措置は、国際的な原油価格を高止まりさせ、ロシアの収入を支えるかたちとなり、天然ガスについても大口取引先のドイツなどへの輸出が続いています。
このためロシアの戦費の確保につながるエネルギー収入を減らすという試みはまだ十分な効果を発揮していません。

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一方通貨ルーブルに関しては、ロシアの中央銀行が、やり手と言われる総裁のもとで、通貨防衛のため、▼一時、政策金利をそれまでの2倍ちかい20%にしたり、▼ロシア企業が輸出で受け取った外貨の大半を3日以内にルーブルに換金するよう規制したりしたことなどがルーブルの買い支えにつながっていると言われます。

プーチン大統領は「欧米などの制裁は事実上の侵略だ」と述べて強気の姿勢を示しています。ただルーブルの相場は政府の介入で人工的に作り出されているという見方が強いほか、ことし4月の消費者物価も17%あまりまであがり、とくに食料品の値上がりが激しく、国民の生活に影響が出ています。また世界銀行はことしのGDPをマイナス11.2%と予測していて、決して楽観はできません。プーチン大統領は、実際には、ドイツやフランスの首脳との電話会談で、途上国などへの穀物輸出を再開するのとひきかえに経済制裁の解除を求め、苦しい胸の内をうかがわせています。

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(神子田)
政府の制裁とは別にロシア経済に打撃を与えそうなのが外国企業のロシアからの撤退です。
ロシアに進出していた日本や欧米の企業の間では、ウクライナ侵攻を受けて、ロシアから撤退したり、事業を一時停止する動きが広がっています。JETRO=日本貿易振興機構が先月ロシアへ進出した日本企業に今後のロシアでの事業展開の見通しをたずねたところ、▼事業を拡大する、または維持すると答えた企業は前回2月の調査に比べて大幅に減ったのに対し、▼縮小するは27ポイント増えて30%にのぼりました。さらに▼4%の企業が今回新たに設けた選択肢「撤退する」と答え、日本企業のロシア離れが進む兆しがうかがえます。その背景には、アメリカが半導体などハイテク製品のロシア向けの輸出を禁止するなど事業環境が不安定なことや、ロシアとのビジネスの継続が国際社会から非難を受ける懸念があります。一方、ロシアの当局は、先進国からの部品調達ができないことを理由に現地で生産を停止している日本企業に対し、他の国で生産されるもので代替できないか問いただしてくるなど、ロシア離れの動きに神経をとがらせている様子がうかがえるということです。

(神子田)
安間さん、外国企業のロシア離れについてロシア側はどう受け止めているのでしょうか。

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(安間)
プーチン大統領は「制裁はかえってロシア経済を強くする」と述べて、平静を装っています。

この背景にあるのは、ロシアの人たちの経済危機に対する忍耐力がきわめて強いことです。ソビエト崩壊後の1990年代には、最大年率26倍というハイパーインフレの厳しい経済危機がありました。しかし食料品が不足したり価格が上昇したりしても、「ダーチャ経済」と呼ばれる、郊外型菜園の食料の自給自足で乗り越えてきた経験があります。

また2014年のクリミア併合の際にも欧米などから経済制裁を受けましたが、プーチン政権は逆にヨーロッパからの食品の輸入を禁止し、自国の農業を保護するかたちで発展させました。プーチン大統領にはこうした自信があるのでしょう。

しかし今やロシアは、かつて東西冷戦時代の社会主義経済やその後の混乱の時代とは異なり、グローバル経済に組み込まれるかたちで経済発展を遂げており、それがいきなり切り離されると、これまでにない打撃を受けることを認識しておくべきでしょう。
食料は菜園で供給できるかもしれませんが、製造業は、西側企業の部品や資本、最新技術が入らなければ付加価値の高いものを生み出すことはできません。
航空機、高速鉄道、自動車の部品、半導体などは欧米からの輸入であり、いずれ深刻な部品不足に陥ることがロシア国内でも懸念されています。
ロシアの軍事侵攻に対して毅然とした態度を示すため、経済制裁は必要です。ただ今のところ、侵攻をやめさせるための決定打にはなっておらず、制裁の効果を検証し、ねらいをはっきりさせていくことが必要と考えます。

(神子田)
エネルギー大国への制裁は、その規模が大きくなればなるほど、制裁をかける側の傷もまた深いものとなります。戦況が長引く中で、制裁の効果がこれまで以上に問われることになります。きょうはロシア担当の安間委員とともにお伝えしました。

(神子田 章博 解説委員 /安間 英夫 解説委員)

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