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欧州 ロシア依存から脱却できるか

二村 伸  解説委員

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ロシアのウクライナ侵攻から3か月たちました。EU・ヨーロッパ連合は、対ロシア制裁の一環としてエネルギーのロシア依存から脱却するため、再生可能エネルギーの普及やエネルギー調達先の多様化などを進める新たな計画を18日発表しました。しかし、脱ロシア依存は各国の事情により必ずしも足並みが揃っているわけではありません。ロシア産に代わるエネルギーの確保は日本にとっても切実な問題だけにヨーロッパの取り組みの行方が注目されます。ロシア依存からの脱却に向けたヨーロッパの現状と課題、そして日本はそこから何を読み取ることができるか考えます。

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この地図はウクライナへの侵攻後、ロシアからの船舶による化石燃料の流れを示しています。左上が日付と時間で、赤が石油、黄色が天然ガス、黒が石炭です。フィンランドに拠点を置くエネルギーや環境に関する調査機関が船舶の動きや各国の取引などをもとに作成したもので、ウクライナ侵攻中もおびただしい量がロシアから輸出されていることがわかります。これに加えてヨーロッパにはパイプラインで大量の天然ガスや石油が供給されています。この調査機関によれば侵攻後EUがロシアに支払ったエネルギーの代金はおよそ540億ユーロ、日本円で7兆3000億円をこえています。ロシアの資源収入の7割がヨーロッパからと言われ、ロシアが軍事侵攻につぎ込んでいる費用の少なからぬ額をEUがまかなっているのです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「他人が流した血でビジネスをしている」とロシアからエネルギーを購入し続けるヨーロッパを批判しています。

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EUはロシアのウクライナ侵攻前まで、天然ガスと石炭の輸入の4割、石油の4分の1をロシアに依存していました。侵攻後、EUはロシアの収入源を断つため2027年までにロシアからのエネルギーの輸入を全面的に停止する方針を打ちだし、石炭はことし8月に輸入を停止することで合意しました。しかし、石油は年末までに輸入を禁止する方針を示したもののロシアへの依存度が高いハンガリーが、「経済の破壊につながる」として強く反対し、合意には至っていません。天然ガスの禁輸はドイツをはじめ各国の事情によりさらに難航しています。

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そうした中でEUは、ロシア依存から脱却するための提案を今月18日発表しました。▼注目されるのは再生可能エネルギーの普及を進め、2030年のエネルギー消費に占める割合を45%まで引き上げることです。EUは去年7月、32%の目標を40%に引き上げたばかりで、それをもう一段引き上げることにしたのです。具体的には、太陽光発電量を現在の2倍以上に増やすため、2027年までに既存の建物を含むすべての商業用の建物と公共の建物に太陽光パネルの設置を義務付け、29年までには新築の一般住宅にも設置を義務付けます。さらに再生可能エネルギーで作る「グリーン水素」の生産目標を2030年に1千万トンに引き上げることを提案しています。▼この他、2030年の省エネ目標を従来の9%から13%に引き上げることや、▼エネルギー調達先の多様化を進めるため、EUが直接交渉や契約をして加盟国が共同で購入する仕組みを設けることも提案しています。そしてこれらの計画を実現させるために2027年までに官民あわせて2100億ユーロ、日本円で28兆円あまりが必要だとしています。
ヨーロッパ委員会のフォンデアライエン委員長は、「ロシアの化石燃料から自立するためより高い野心をもつ」と述べました。脱ロシア依存と同時に脱炭素化を進めるまさに野心的な計画ですが、再生可能エネルギーの普及には時間がかかるだけに代わりのエネルギーを確保できなければロシア依存からの脱却は不可能です。今月末に開かれるEU臨時首脳会議でどのような議論が交わされるのか注目されます。

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ロシアへの依存度がもっとも高いのがドイツで、天然ガスの輸入の55%をロシアに頼ってきました。侵攻後ロシアへの依存度は低下し、24年には輸入を全面的に停止する方針ですが想定通りいくか疑問視する声もあがっています。ドイツはこれまでパイプラインで天然ガスを輸入してきたため、国内に液化天然ガスの受け入れ・貯蔵のための基地がなく急きょ建設が始まったばかりで、すぐには海上での輸入ができません。今月20日、中東のカタールとエネルギー関連の協力を強化することで合意し、ショルツ首相は「十分な量のLNGを確保できる」と評価しました。しかし輸入が始まるのは来年になる見通しで、それまで供給不安を抱えることになりそうです。冷戦時代にも止まることのなかったロシアからのパイプラインによるガスの供給が止まれば影響は甚大です。
ドイツの経済研究所は、今すぐ供給が止まればドイツ経済に今後2年間で30兆円の打撃となり、来年の経済成長率はマイナスになるとの見通しを示しています。それだけにロシア依存からの脱却は慎重に進めざるを得ないのです。
石炭の火力発電を増やす国も少なくありません。ギリシャは今後2年間石炭を50%増産する他、火力発電所での石炭の利用期間の延長を決めました。石炭への回帰は脱炭素化のスピードを遅らせかねないと懸念する声も聞かれます。また、原子力を見直す動きも見られますが、推進派と脱原発派とで足並みは乱れています。

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ロシアはこうした各国の足元を見透かしてエネルギーを武器に圧力をかけています。
代金をロシアの通貨ルーブルで支払うことを拒否したポーランドとブルガリアに続いて21日NATOへの加盟を申請したフィンランドへのガスの供給も停止しました。今後もロシアとヨーロッパの駆け引きが続くものと見られ、市場への影響が懸念されます。
ロシアへの依存を断ち切るためには国際社会の結束が不可欠です。
▼その1つの手段として、エネルギーを各国が融通しあう仕組みを早急に構築することが必要です。日本も3月から4月にかけて石油の備蓄放出を行いましたがこうした各国間の協調が今後ますます重要になってきます。ロシア産に代わるエネルギーの確保には資源国の協力も欠かせません。LNGは世界の輸入の7割を占めるアジアとEUの争奪戦になりかねないだけに、中東やアフリカなど資源国の生産能力を高めるための支援も求められます。
▼さらに制裁をより効果的なものにするために、ロシア産の石油やガスが欧米諸国の代わりに中国やインドなど制裁に加わっていない国々に向かわないようにすることも重要です。制裁で安くなったロシアの石油をインドや中国が大量に輸入しているとも伝えられます。これらの国を粘り強く説得し、資源の流れを監視することも必要でしょう。▼日本は欧米と比べロシア依存からの脱却が遅れているだけに足並を揃えるよう求められることも予想されます。ウクライナ危機を日本のエネルギー安全保障の転機とするように思い切った政策が必要ではないでしょうか。EUが進めているような再生可能エネルギーの普及と省エネ、そしてエネルギー調達先の多様化にスピード感をもって取り組むことも重要です。日本は中東の石油への依存度が突出して高くリスクが指摘されてきましたがいっこうに改善されていません。今回の危機を教訓に、課題を将来の世代に先送りしないよう官民あげて取り組んでほしいと思います。

(二村 伸 解説委員)

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