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家計を直撃  物価上昇2%超え!

今井 純子  解説委員

先月・4月の消費者物価指数は、一年前と比べて2.1%上昇しました。消費税率引き上げの影響を除くと、13年7か月ぶりの大幅な上昇です。政府・日銀が目標としてきた2%の物価上昇を、数字上は達成した形です。しかし、私たちの生活には大きな打撃です。物価上昇による生活や経済への影響、そして、今後の課題について考えてみたいと思います。

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【消費者物価 結果と背景】
(消費者物価の推移)
まず、消費者物価の推移を見てみます。去年8月以降、物価は上昇に転じて、今年3月には、0.8%の上昇。それが、20日に発表された4月分はプラス2.1%と、一気に上昇率が拡大しました。物価の上昇率が2%を超えたのは、消費税率の引き上げ分が物価に反映されていた2015年3月以来。消費税の影響を除くと、2008年9月以来、13年7か月ぶりのことです。

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(エネルギーと食料が目立つが、すそ野が広がっている)
内訳をみてみますと
▼ ガソリンや灯油、電気代といったエネルギー関係が大幅に上がった他、食パンや輸入牛肉、食用油など、食料品の上昇も目立ちます。ただ、それだけではなく、家電製品や日用品、外食、サービスなどにも物価上昇の動きがでています。
▼ 調査対象522品目のうち、上昇している品目は351品目と、全体の67%=ほぼ3分の2に達し、値上げのすそ野が広がっていることがわかります。

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(物価上昇の背景)
4月の物価が急激に上がった背景には、
▼ エネルギーや原材料、そして穀物の国際的な価格が、世界経済のコロナからの回復や、天候不順の影響で、大幅に上がっていた。そこに、ロシアのウクライナ侵攻、さらに、円安が加わり、輸入価格が一段と高騰したことがあります。4月の輸入物価指数は、一年前と比べて、44.6%と大幅に上昇しています。
▼ また、去年4月以降、携帯電話の通信料金が大幅に下がった影響で、物価全体が押し下げられていた。それが、1年たって、統計上の影響が減ったことも、いっきに物価を押し上げる要因となりました。
▼ 企業の経営者からは「今回のようなコストの急増は、過去に経験がない」という悲鳴があがっています。材料を割安なものに変える。設計を見直す。物流のルートを見直す。といった努力をしてきたけれど「もう限界」ということで、値上げに踏み切る動きが広がっています。

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【今後の見通し】
では、今後、どうなるのでしょうか?
(エネルギーは、徐々に鈍化)
▼ 今、物価を大きく押し上げているエネルギー価格のうち、ガソリンや灯油については、政府が、補助金を出して、価格を抑える対策をとっています。また、電気代についても、大手電力会社で過半数の家庭が契約している規制料金プランでは、法令で上限が定められています。このため、ガソリン代は今後、そして電気代は、今年秋以降は、上昇の勢いが弱まり、物価の上昇率としては、徐々に鈍化するのではないか、との見方もでています。

(その他は、次々値上げの予定)
▼ 一方、その他の商品・サービスについては、今後も、値上げが次々、予定されています。14年ぶりの値上げ、あるいは、今年に入って2回目の値上げというものもあります。自動車や衣類についても、値上げをうかがう動きがみられます。

(食料は、秋以降も値上げ)
▼ 特に、食料については、これからウクライナ侵攻の影響が出てくるものも多くあります。例えば、海外からの輸入が90%を占める小麦。安定的に確保するために、政府が一括して輸入をして、製粉会社などへの売り渡し価格を半年ごとに見直しています。4月に17%価格が引き上げられ、今、パンやパスタなどの値上げにつながっています。それが、10月にもう一段売り渡し価格が上がり、小麦製品のさらなる値上げにつながるのではないかという懸念も出ています。
こうしたことから、「年内は、2%台の物価上昇が続く」というのが、多くの経済の専門家の見方です。では、その先は、どうでしょうか。

(日銀は「一時的」)
日銀は「今の物価上昇は、資源価格の高騰による一時的なもので、来年以降、上昇率は徐々に鈍化する」として、金融緩和を続ける方針です。そもそも、日銀が目指しているのは、賃金が上がって、消費が増え、それによって持続的に物価が上がる。という「よい形での物価上昇」です。しかし、今回は、賃金の増加を伴わない「悪い物価上昇」で、家計の負担が増えることで、消費が落ち込む。その結果、企業がそれ以上値上げできなくなるので、物価上昇は、長続きしないという見方です。

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【経済への影響】
実際、相次ぐ値上げは、わたしたちのくらし、そして経済にとっても、大きな打撃です。
(家計)
まず、くらしへの影響です。
▼ 2%の物価上昇が続いた場合、一世帯あたりの平均で、年間に換算して8万2千円の負担が増えるという試算もあります。
▼ 一方、今年の春闘での賃金引き上げ率は、連合の最新のとりまとめでは、2.1%ですが、年功序列で上がる仕組みの定期昇給分をのぞいたいわゆるベースアップ=賃金の底上げ分は、せいぜい、0.3%とか0.4%程度とみられています。これでは、物価上昇に賃金の上昇が追い付かず、家計には大きなしわ寄せです。

(消費拡大か?節約か?)
国内では、旅行や外食をがまんしてきたことで、家計全体でみると、コロナ前と比べて50兆円の貯蓄が積み上がっているというのが、日銀の試算です。まん延防止等重点措置が解除され行動制限がなくなったことで、今後、この貯蓄が消費に回り、景気の回復を後押しするのではないか。そのような期待が高まっていた。そのタイミングでの値上げラッシュで、逆に節約志向が高まり、景気回復の足をひっぱるのではないか、という懸念も広がっています。

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(企業)
また、コスト高のしわ寄せを受けているのは、家計だけではありません。
企業の間で取引されるモノの価格を示す4月の企業物価指数は10.0%と、比較可能な1981年以来、過去最高となりました。一方、コストが上がった分を、全く販売価格に転嫁できていないと答えた企業が、68%に達しているという調査結果もあります。値上げラッシュが続いていても、まだ多くの企業が値上げに踏み切れていない実態も見えてきます。
特に、中小企業の中には、コロナの影響で、過剰な借金を抱えている企業が多くあります。コストの上昇分を販売価格に転嫁できなければ、経営に行き詰る企業が増える心配もあります。

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【課題】
では、どうしたらいいのでしょうか。
企業の中でも、大企業の昨年度の決算は、全体で過去最高益となりました。特に海外で活動している大企業は、円安の恩恵も受けています。こうした体力のある企業は、
▼ とにかく社員の賃金を、物価に見合う形で、引き上げることが欠かせません。
▼ その上で、体力のない取引先の中小企業が、経営を続け、賃上げもできるよう、取引価格への適正なコストの転嫁を受け入れる配慮も大事になってきます。
そして、政府も、生活が厳しい人を支援するとともに、こうした人たちが物価上昇に耐えられる収入を得られるよう、相談窓口や、学び直し、就労の支援を一段と強化することが欠かせません。

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【まとめ】
今、苦しくても、家計や中小企業へのしわ寄せを抑えることができれば、個人消費の拡大につながるはずです。マイナスの値上げラッシュを乗り越え、プラスの循環に流れを変えていくためにも、政府、そして、体力のある大企業は、長期的な視点、社会的な視点で、前向きな取り組みに力を入れてほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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