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海賊版サイト 漫画の被害深刻 無くならないワケ

名越 章浩  解説委員

漫画やアニメなどを違法に公開する海賊版サイトに対し、日本と海外の著作権保護団体などが共同で対策にあたるための国際組織が、新たに設立されました。
巨大化する海賊版サイトの現状と、撲滅のために何が必要かを考えます。
(名越章浩 解説委員)

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【海賊版サイトとは】

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海賊版サイトは、アニメや漫画、映画などの作品を、著作者や出版社、製作会社などの許可を得ずに勝手に複製して、インターネット上に公開しているサイトのことです。
「無料」「見放題」などとうたって、閲覧者の数を増やし、多額の広告収入などを得ていて、著作権保護団体によりますと、特に悪質なものだけでも、現在32の海賊版サイトがあるということです。
3年前にサイト運営者が著作権法違反の疑いで逮捕された「漫画村」は、サイトが閉鎖される直前、月間のアクセスが1億7000万回にものぼっていました。

【何をすれば違法?】 
他人のコンテンツを許可なくアップロードするのはもちろん違法です。
そして、違法にアップロードされたものだと知りながら、私たちがダウンロードすれば、それも違法です。
漫画村の事件の後、日本では著作権法が改正され、違法なダウンロードの対象範囲を、それまでの音楽や映像に加えて、漫画や書籍、論文などすべての著作物に拡大したのです。
また、「海賊版サイト」に利用者を誘導するサイト「リーチサイト」も対象とし、規制を強化しました。

【海賊版サイト 深刻な被害の実態】
ところが、サイトの運営者は、巧妙にサイトの名前を変えたり、著作権を持つ会社や個人とは別の国に拠点を持ったりして、違法な海賊版の市場は世界規模でむしろ巨大化しています。

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特に被害が深刻なのが漫画です。
出版社などで作る団体が、アクセスの多かった海賊版サイトを調べたところ、被害額は、去年1年間で少なくとも1兆円を超えると試算され、前の年の5倍近くに急増していました。
漫画の正規の販売額がおよそ6700億円ですから、いかに損害が大きかったかが分かるかと思います。

こうした被害は、漫画だけでなく、アニメや映画、音楽など、様々なコンテンツに共通する問題です。
本来、作者が得られるはずだった利益が不当に奪われ続けると、クリエイターの収入が落ち込み、新作を生み出せなくなります。ひいては、私たちも、優れた作品に出会えなくなってしまい、豊かな文化、心の潤いが奪われるおそれもあるのです。

【国際組織で対応】

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こうしたことから、日本の出版やアニメの会社などで作るCODA=(コーダ)「コンテンツ海外流通促進機構」が、アメリカや東南アジアなどの著作権保護団体に呼びかけ、「国際海賊版対策機構」を4月26日に設立しました。
今後、各国の内部手続きが進み次第、違法なサイトを調査し、各国の捜査機関に情報提供する仕組みを整えていくことにしています。

【撲滅に“4つの壁”】
しかし、その道のりは決して平たんではありません。
著作権問題に詳しい、福井健策弁護士は、サイトを1つなくすだけでも途方もない労力が必要で、立ちはだかる大きな壁が4つあると指摘します。

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1つは、「海外のサーバー問題」です。
違法サイトの多くは、東欧や南アジアの特定の国の事業者が提供するサーバーを利用しています。
こうした国には、利用者の名前を明かさない、匿名性を売りにしている事業者があり、ここが海賊版サイトの温床になっているのです。
さらに、著作権保護への意識は、国によって温度差があるため、摘発しようにも、そのサーバーがある国での法執行が難しくなっているといいます。

2つ目の壁は、「検索エンジン」です。
検索エンジンは、世界中の情報を検索して手に入れられる便利さがありますが、一方で、違法な海賊版サイトの情報まで表示してしまいます。
このため、出版社などは、悪質で大規模な海賊版サイトについては、検索しても表示されないような措置をとるよう、検索エンジンの事業者側に要望しています。
しかし、今でも表示されるサイトが多く、徹底に時間がかかっているのが現状です。

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3つ目の壁は、違法なサイトを野放しにしている「ドメイン事業者」です。
ドメインとは、インターネット上の住所にあたる情報で、例えば、NHKの公式HPであれば、「nhk.or.jp」の部分にあたります。別の会社が同じ住所を持たないようにドメインは世界で唯一のもので、世界各地にあるドメイン事業者がこれを管理しています。
しかし、福井弁護士によると、海外のドメイン事業者の中には、違法だと指摘されても、そのまま使わせ続ける事業者があるということです。

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そして4つ目の壁は、違法なファイルを削除しない「中継サーバー事業者」です。
海賊版サイトには世界中からアクセスが集中するため、おおもとのサーバーだけではパンクしてしまいます。
このため、中継サーバー事業者が提供する「コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)」と呼ばれるサービスを利用する海賊版サイトが少なくありません。
このサービスは、元のサイトのサーバーから送信されたデータを一時的に複製。
その複製データを、世界各地に設置されたサーバーに置くという仕組みで、こうすることにより、負荷が分散化され通信速度が維持されることから、正しく使用する人にとっては、安定的に通信できる便利なサービスです。
しかし、海賊版サイトの違法なファイルまで複製してしまいます。
このため、福井弁護士らはファイルの削除を求めていますが、一部の中継サーバー事業者で削除しない状態が続いているということです。

ただ、4つの壁として挙げたIT関連の事業者には、海賊版サイトを根絶するための法律上の義務まではないケースもあります。
このため、福井弁護士は、「本当に悪いのは海賊版サイトの運営者だと言って、あまり自分たちで対処しない。結局、問題が防げていない」と語ります。

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結果的に少しずつ無責任な状態が海賊版サイト側に悪用されているというワケです。
IT企業が提供する優れた機能のサービスは、いまや世界の人々のインフラとなっています。
信頼されるインフラとして、あらゆるIT企業が、違法なサイトに毅然とした態度で臨み、より責任ある行動を示してほしいと思います。

【利用者の責任も大きい】
一方で、海賊版サイトを「儲かるビジネス」にしてしまった利用者の責任も見過ごすことはできません。
2019年に行われた総務省の調査では、海賊版サイトを利用した「経験がある」という人は、回答を寄せたおよそ2000人のうち、半数近く(47.5%)にのぼっていました。
著作権の理解不足から合法だと信じて利用する人や、違法と知らずにダウンロードを繰り返す人もいます。こうした行動が、不正なサイトに手を貸しているということを改めて強調しておきたいと思います。
ただ、違法なサイトと正規のサイトとの区別がつかないという人もいるかもしれません。
そこで1つの目安となるマークがあります。

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政府広報オンラインより

漫画・雑誌・書籍分野の正規の配信サイトに掲載されるABJ(エービージェイ)マーク。
音楽・映像分野の正規の配信サイトに掲載されるエルマークです。
文化庁は、正規の配信サイトはこのマークを目印にして利用してほしい、と政府広報オンラインなどで呼び掛けています。

海賊版サイトの中には、悪意のあるアプリを巧妙にダウンロードさせ、最終的にウイルスに感染させるものもあります。
サイトの利用者自身が被害を受ける可能性があることも含め、海賊版の問題点を理解する必要があります。
日本が世界に誇れる豊かな文化を守り、新たな創作物が生み出される環境を維持していくためにも、私たち自身が当事者であるという意識を持ち、犯罪に手を貸すことのないよう機運を高めていく必要があると思います。

(名越 章浩 解説委員)

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