もうすぐ大型連休です。新型コロナウイルスの感染が広がらないか、懸念する声も聞かれます。新規感染者数は、大都市圏などで減少していますが、その一方で地方の中には、増加傾向のところもあります。
いま、感染増加の要因の一つとして、国内の感染の主流が「BA.2」という変異ウイルスに置き換わってきていることがあげられています。空港の検疫=いわゆる「水際」では、「XE」と呼ばれる新たな変異ウイルスも見つかっていて、変異ウイルスについて、警戒が必要だという専門家の指摘もあります。
今回は、感染の現状と変異ウイルスの関係をみながら、大型連休に向けて、どのように対策を進めていく必要があるのか考えます。
新型コロナウイルスの対応が求められる大型連休は、2022年が3年目になります。
2020年は、全国で緊急事態宣言がだされていました。2021年も、東京と大阪など関西で緊急事態宣言、一部の県でまん延防止等重点措置が適用されていました。
2022年は、年の初めから重点措置が適用されましたが、病床使用率など医療提供体制の改善などを踏まえて解除され、現在、緊急事態宣言や重点措置は、だされていません。
しかし、2022年も対策が必要な連休になると考えおかなければなりません。
下の図は、直近1週間の全国の新規感染者数を人口10万人あたりでみたものです。
第6波のピークを越えた後、2022年3月に一時、増加しましたが、4月中旬以降、減少しています。
都道府県別に見てみますと、東京や大阪など大都市圏は減少傾向になっています。
その一方で、沖縄県では、増加しています。この他、今年1月から2月ころのピークを超えて、4月に入ってから過去最多になったのが、長野県です。
4月に最多になったところは、長野県を含め、岩手、愛媛など9つの県にのぼります。これまでの感染が比較的少なかったことなどが影響している可能性があると指摘され、今後の感染拡大に注意が必要です。
第4波以降、感染拡大の時期と流行したウイルスを見てみます。
▽第4波は変異ウイルスの「アルファ株」、第5波の時は「デルタ株」に置き換わりました。第6波は「オミクロン株」です。今は、オミクロン株の中で、「BA.1」と呼ばれるものから「BA.2」に置き換わっています。すでに、8割ほど置き換わっているとみられています。BA.2は、BA.1より感染力が高く、一層の感染対策が求められています。
こうした状況で迎える、大型連休。連休をきっかけに、感染を拡大させないことが大切です。
専門家は、感染拡大の要因として、繁華街の夜間人口が増えるなど「接触機会の増加」と「BA.2への置き換わり」などをあげています。感染を抑制させる要因としては、感染リスクの高い場所を避けるといった「人々の対策の取り組み」や「ワクチン接種」などがあります。
連休では、普段会わない人と会うなど、接触機会は増えると考えられます。
では、どのようにして感染拡大を抑えるのか。
BA.2といってもオミクロン株であることから、これまでと基本的な対策は変わらないと考えられています。混雑、あるいは換気の悪いところや、大声を出す場所を避ける。行動は、いつも会う人と少人数で。食事も少人数で、黙食。食べていないときはマスクをする=いわゆる「マスク会食」の徹底です。
そして、大切なのは、リスクに応じて行動を考えることだと思います。
体調が悪いなどリスクが高いと思えば、予定があっても外出を控える。帰省で、親や祖父母など高齢で重症化しやすいとされる人に会う、あるいは、高齢者施設など大勢のお年寄りのいる施設に行く計画があるなら、その前1週間ほどはリスクの低い行動を心がけ、また検査キットの活用も考えられます。
そして、専門家はワクチンの3回目接種を受けることでリスクを下げることが可能だとして、ワクチン接種の必要性を指摘しています。
緊急事態宣言や重点措置が出されていない2022年は、県境をまたいだ移動の自粛など宣言や重点措置に伴う対策の呼びかけはありません。大型連休期間中、「どう行動することが適切なのか」と悩んでいる人も少なくないと思います。政府は、国民にそうしたことを具体的に丁寧に説明することが必要だと思います。
国内で、感染が広がるオミクロン株。ウイルスの変異によって、連休、あるいはその後も難しい対策が求められる可能性があります。
日本ではBA.2への置き換わりが進み、海外でも、オミクロン株は感染の主流になっています。さらに、BA.3、BA.4、そしてBA.5という変異ウイルスも報告されています。
南アフリカでは、BA.1からBA.2への置き換わりの後、現在はBA.4に置き換わり始めているとみられています。BA.4は、BA.2より感染力が高いとされています。
今後、世界各国でひろがれば、日本でもBA.2からBA.4に置き換わる可能性があります。
さらに、2022年に入って、「複数の変異ウイルスが組み合わさった」、新たな変異ウイルスの報告が相次いでいます。
日本でも「XE」という変異ウイルスが、2022年3月、成田空港に到着した人から検出されました。XEは、BA.1とBA.2の2種類の新型コロナウイルスに同時に感染したヒトの体の中で、いわば「ハイブリッド」のように組み合わさってできたものと考えられています。
こうした変異ウイルスは、海外で、いくつも見つかっています。XAからXB、XC、4月21日現在、XTまで報告されています。
新型コロナウイルスは、従来から考えられていた、小さな変異の積み重ねだけでなく、まとまった部分が入れ替わる変異も繰り返して、新たな変異ウイルスを作り出しているとみられます。
変異ウイルスは、感染力だけでなく、重症化のしやすさ、ワクチンの効果なども変化する可能性があります。BA.4やXEなど、最近見つかったウイルスの詳細な分析は、これからです。政府や専門家は、変異ウイルスの分析とともに、変異を繰り返す新型コロナウイルスに対して、どのような対策をとっていくのか議論を加速させることが重要です。
そして私たちは、今後も、新たな変異ウイルスに対応するため、専門家などが発表する情報に留意することが大切だと思います。
大型連休や変異ウイルスによる感染拡大に備えるために、求められることとして、指摘しておきたいのが体制整備です。
コロナ対策では、医療提供体制がひっ迫しないようにして、高齢者などの重症化、死亡を防ぐことが重要です。地域の医療機関が協力して、日常医療を守りながら感染者の治療にあたり、高齢者施設で感染者が見つかったとき、すぐに専門家が支援して、クラスターを作らない、そして、早期診断・早期治療を実現する必要があります。
第6波で課題とされた、こうしたことがBA.2による感染拡大がみられた地域などで、「十分実現できていない」と指摘されています。医療機関の協力体制や高齢者施設と専門家、自治体の連携ができていない部分を洗い出して、改善しなければなりません。
毎日の新規感染者は減少傾向ですが、その数は、2021年の第5波のピークのおよそ2倍です。この状況で感染の再拡大が起こると、社会経済活動に再び強い制限をしなければならなくなる恐れもあります。
感染力が高く、一層対策が難しい変異ウイルスによる感染拡大の懸念がある中で、大型連休、そしてその後も、リスクの少ない生活を定着させることが求められています。
(中村 幸司 解説委員)
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