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ウクライナ危機で燃料価格高騰 再び電力ひっ迫も?  揺らぐ電力の安定供給 高まる原発活用論

水野 倫之  解説委員

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ウクライナ危機を受けて、政府は火力発電の燃料にもなる石炭のロシアからの段階的禁輸を決め、電気料金への影響が懸念。
加えて国内では発電所が足りず、東京電力管内では今年度冬に電力が足りない可能性もあり、安価で安定した電力の供給体制が危ぶまれ、
原発活用論も高まっている。
▽上がり続ける電気料金
▽揺らぐ電力の安定供給
▽安定供給と脱炭素をいかに両立するか
以上3点から、ウクライナ危機を受けての電力供給の課題を水野倫之解説委員が解説。

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まずは電気料金、大手電力の家庭用の来月分は過去5年で最も高くなる。
東電の場合平均的な家庭の電気料金は1年前は6800円余りだったが、上がり続け、来月分は8505円と、最も高い料金を更新する状況が続く。

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原因はウクライナ危機で燃料価格がさらに上昇しているから。
原油は一時130ドル台の高値に。
天然ガスも先月アジアのLNGスポット価格が過去最高値に。
そして同じように先月最高値をつけた石炭。今後も上がり、電気料金のさらなる上昇につながる懸念が広がる。

日本がロシアへの制裁で石炭の段階的な輸入禁止を決めたから。
現在の日本は全電源の3割を石炭火力が担い、天然ガスに次ぐ主力電源。
石炭の多くはオーストラリア産だが、次いでロシアからも13%頼る。
禁輸方針を受け九州電力などが今年度、ほかの国から調達すると。
こうした動きはヨーロッパでも広がっており、石炭価格がさらに上昇する可能性。

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電気料金だけではない。
ほかからの調達がうまくいかず必要量が確保できなければ、電力需給のひっ迫に拍車がかかることも懸念。

というのもただでさえ日本の電力供給体制はぜい弱になっているから。
先月、東電と東北電力管内に初めて電力需給ひっ迫警報が出され、東電管内は大規模停電の一歩手前まで。
福島沖の地震で火力発電所が故障していたところに寒波で電力需要が急増、悪天候で太陽光発電も低下し、供給が不足した。
電気は需要と供給が一致しないと大規模な停電になるおそれがあり、政府と東電は国民に節電を呼び掛けぎりぎりで回避。
こうした事態、今後繰り返されるかも。
先週経産省が発表した今年度の電力需給の予想によると、発電所の復旧が遅れるため、冬に寒さが厳しくなれば、東電管内で電力が足りなくなるという。
電力の安定供給には3%の予備率が必要だが、来年1月に-1.7%、2月に-1.5%とこのままでは大規模停電が避けられない状況。

こうした状況に加え石炭禁輸で必要量が確保できなければ、予備率がもっと厳しくなることも予想。

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ただ需給ひっ迫の背景にはウクライナ危機以前からの構造的課題。
福島の事故を受けて政府は電力の自由化と再エネの拡大を進めてきた。
ただ再エネは太陽光だけがこの10年で20倍以上と急拡大したが、天候に左右されやすく、東電管内では晴れる日は1800万kW、大型発電所18基分発電するが、
悪天候ではほとんど発電しない。また夜間も発電できないためその不足分を補う役割を火力発電所が担う。
しかし太陽光が増える日中は出力を落とす必要があり、その結果採算が悪化。
競争が激しくなる中、古い火力を中心に毎年200万から400万kW、大型発電所2基から4基分が休廃止され、いざという時の電力の供給余力がなくなってしまっている。

このようにもともと脆弱だった安定供給体制が、ウクライナ危機でさらに不安定になるおそれがある。

ではこの状況にどう対応すればいいのか。
ここで忘れてはならないのは温暖化防止へCO2の排出削減も待ったなしだということ。
電力の安定供給を維持しつつ、化石燃料への依存を減らし脱炭素も進めなければならない難しい対応を迫られることに。

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ただ短期的には電力不足を回避しなければならず、節電とともに当面の燃料を確保しなければならない。しかし状況は各国とも同じで奪い合いとなれば、さらなる価格の高騰を招きかねない。
ここは日本を含めた主要国が協調して資源国へ働きかける必要。
また冬に向けて、休止中の発電所の再開も必要。ただ準備に半年程度はかかるため、政府は今から電力会社と協議を始め、支援策も検討していかなければ。

その上で脱炭素を進めるため、再エネの導入を加速することが必要。
再エネは国産エネルギーで、自給率アップにもつながる。
現状まだ20%で、2030年の政府目標の36~38%達成にはあと8年で倍近く増やさなければ。
ただこれまで太陽光に偏りすぎた点を教訓に、風力や地熱にも力を入れてバランスよく拡大し、発電量の変動を抑えていく必要。
加えて発電した電気をためる蓄電池のコスト低減など、再エネの弱点を補強する技術開発を急がなければ。

そしてこの際、使い続けるのかどうかはっきりさせなければならないのが同じく脱炭素電源の原発。
エネルギーのロシア依存度が高いヨーロッパではエネルギー計画の見直しが進められる中で原発を位置づけしなおし始めた。

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イギリスは再エネ拡大とともに8基の原発の新設を明らかにしたほか、フランスが6基新設、ベルギーは2基の運転の10年延長を決めた。
ただドイツは今年中の原発ゼロを変えず、再エネを80%まで増やすと。
国によって違うものの早々と議論を進め、方針を決めている。

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これに対し日本は原発への依存度を可能な限り低減し、新設や増設も想定しないと。一方で審査に合格した原発の再稼働を進めるというブレーキと
アクセルを同時に踏むような、使い続けるのかどうかはっきりしない政策が続く。
政府は2030年に原発で20~22%を賄う目標をかかげるが、現状は4%で目標にはほど遠く、ウクライナ危機などを受け与野党や経済界からは既存の原発を
速やかに再稼働させることや、新設増設を求める声など原発活用論がこれまでになく高まっている。
しかし原発を活用するのというのであれば安全性の確立が大前提。
ウクライナ危機では原発への武力攻撃のリスクが現実のものと。
新基準はテロ対策は求めているが武力攻撃は想定しておらず、あらたな課題への対応が必要。
また原発でのI D不正利用など不祥事も続いており、国民の信頼は回復していないという課題も残されている。

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政府は世論を気にしてか、原発を今後どうするのか明確な方針を示してこなかった。
しかし目標達成が困難となればその分再エネの上積みなどを早急に検討しなければならないわけ。
日本も今こそ、課題にどう対応し原発を使い続けるのかどうか、議論を進め方向性を示す時だと思う。
政府は去年あらたなエネルギー基本計画を策定したが、その後ウクライナ危機という予期せぬ事態が起き、エネルギーを巡る情勢は激変。
そうした中で電力の安定供給と脱炭素を両立させる戦略はどうあるべきか、政府は検討を急ぎ、国民に示していかなければ。

(水野 倫之 解説委員)


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