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ウクライナ紛争がもたらす世界の食糧危機

出川 展恒  解説委員

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1か月半、停戦の見通しは立っていません。この戦争の影響で、今後、世界的な規模で、深刻な食糧不足や食糧価格の高騰が起きることが懸念されています。多くの人々の命や暮らしを圧迫し、国によっては政情不安の原因にもなりかねません。この時間は、この問題を考えます。

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解説のポイントは、▼ロシアとウクライナの紛争が、世界的な食糧危機を招く理由とは。▼具体的にどんな影響が出ているのか。▼国際社会はどう対応すれば良いのか。以上、3点です。

■最初のポイントから見ていきます。
「ウクライナでの戦争は、第2次世界大戦後、目にしたことのないような大惨事を、地域の農業と世界の食糧供給にもたらそうとしている」。
WFP・国連世界食糧計画のビーズリー事務局長は、先月29日、国連安全保障理事会でこのように述べて、世界に警鐘を鳴らしました。WFPは、世界各地で、人々を飢餓から守る活動をしています。

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ロシアとウクライナは、ともに食糧の輸出大国です。とくに、小麦の輸出量では、ロシアが世界第1位、ウクライナが第5位で、この両国で、世界のおよそ30%を占めます。とうもろこしも、両国合わせておよそ20%、食用のひまわり油は、50%以上を占めています。この両国からの食糧輸出が、戦争の影響で激減したため、供給量が不足し、戦争前からすでに高い水準にあった世界の食糧価格が、いっそう高騰しているのです。

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詳しく説明しますと、ウクライナは、国土の7割が農地ですが、ロシア軍の侵攻で畑が荒らされ、農家の人々も戦闘に駆り出されて、農作業ができなくなっています。また、収穫済みの作物も、道路や港など、輸送のためのインフラが破壊、または、封鎖され、輸出できません。加えて、ロシアからの供給に頼っていた燃料や化学肥料も調達できなくなり、生産や輸送のコストが大幅に増え、農業全体が壊滅的な打撃を受けているのです。国内消費用の小麦も大幅に不足し、ウクライナ政府は、輸出規制を実施しています。
一方、ロシアは、ウクライナを上回る食糧の輸出国ですが、アメリカやヨーロッパ諸国が、貿易や金融の制裁を実施している影響。さらには、ロシア政府が、欧米など敵対する国に対して、食糧や肥料の輸出を制限する方針を示していることで、今後、食糧輸出量が大幅に減る見通しです。

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FAO・国連食糧農業機関は、8日、主な食料品の国際取引価格をもとにした、先月(3月)の「食料価格指数」が、ウクライナ情勢などの影響で、これまでで最も高い値を記録したと発表しました。前の月(2月)と比べて、12%あまり上昇しています。中でも、小麦などの穀物は、17%も上がったほか、植物油、乳製品、食肉なども軒並み高騰しています。FAOは、世界の食糧価格が、今後さらに、最大で20%上昇し、必要な食糧を調達できなくなる国が増えて、4年後の2026年にかけて、最大で1300万人が栄養失調に陥るおそれがあると警告しています。

■次に第2のポイントです。

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具体的に、どんな国や地域で、どんな影響が出ているのでしょうか。当然のことながら、食糧を自給できず、経済的に貧しく、紛争が起きている国で、最も深刻な影響が出ます。そして、ロシアとウクライナからの輸入に頼ってきた国です。両国からの小麦の輸入が全体の30%を超える国が、およそ50カ国あり、その多くは、中東、アフリカの国々です。
▼7年にわたって内戦が続く、アラビア半島のイエメンでは、小麦の40%をウクライナとロシアから調達していましたが、戦争と制裁の影響で、食糧の搬入が凍結されてしまいました。WFPによりますと、「飢餓」、すなわち、十分な食糧が得られず支援を必要とする人々が、今年の後半には、イエメンの人口のおよそ3分の2にあたる1900万人に達する見通しです。このうち「飢きん」と呼ばれる状態、すなわち、命を失うおそれもある最も深刻な状況に置かれた人々が、現在の5倍の16万人にまで増えると予測され、その多くは、5歳未満の乳幼児です。現地で支援にあたるWFPでは、小麦の新たな調達先を探す一方、1人あたりの食糧の配給量を減らす方法で急場をしのいでいます。
▼また、人口およそ1億人のエジプトは、世界最大の小麦の輸入国で、およそ80%を、ロシアとウクライナから輸入してきました。この国では、小麦粉を原料にした、平たいパンが主食ですが、政府は、人口の3分の1を占める所得の低い人たちを対象に、多額の補助金を出して、非常に安い価格に抑えてきました。ところが、今回の戦争で小麦の価格が高騰し、輸入が困難になりました。備蓄の小麦で賄っているものの、価格高騰が続けば、財政破綻を招くおそれがあります。政府は、補助金の対象外となっているパンについては、価格の上限を定め、値上がりを抑え込む方針です。エジプトでは、11年前、当時のムバラク政権が民衆の抗議運動で倒された背景に、パンなど食糧価格の値上がりもあったとされ、現政権は、この問題に神経をとがらせています。
▼一方、南米のブラジルやペルーでも、ウクライナ情勢の影響が出始めています。食糧や燃料の価格が急激に上がり、低所得の人たちの暮らしを圧迫しています。このうち、ペルーでは、先週、民衆の抗議デモが広がり、警官隊との衝突で死傷者も出て、政府が非常事態宣言を出しました。
▼インド洋の島国スリランカでも、物価高騰に抗議する民衆が激しいデモを行い、大統領の辞任を求めています。新型コロナウイルスの感染拡大に加えて、ウクライナ情勢が招いた経済の悪化が背景にあると見られます。

■このように、食糧や燃料の不足や急激な値上がりは、世界各地で、政情不安を起こす可能性があるため、国際社会全体で、すみやかに対策をたてる必要があると思います。具体的に、どう対応すれば良いのでしょうか。

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▼もちろん、根本的な解決のためには、ウクライナでの戦争を、一刻も早く終わらせることが重要です。少なくとも、停戦の実現が不可欠ですが、そのための外交交渉は、大勢のウクライナの一般市民が殺害された影響もあって、停滞を余儀なくされています。
▼戦火がすぐには収まらないにしても、世界各国が、できるだけ、食糧の生産や貿易を維持し、サプライチェーンが寸断されないよう守ることが大切です。自国の食糧を確保するため、輸出を制限したり、関税を引き下げたりする政策は、国際価格をつり上げる結果を招くため、慎まなければなりません。
▼次に、これまで、ロシアとウクライナからの輸入に頼ってきた国は、別の調達先や、代わりとなる作物を探すこと。また、食糧備蓄を活用し、各国どうしで融通しあうことも必要です。
▼そして、何よりも、世界的な食糧不足や価格の高騰によって、紛争や貧困に苦しむ人々の命が失われるおそれがあることに留意し、国際社会全体で、こうした地域や人々への食糧を確保し、人道支援を急ぐ必要があります。
新型コロナウイルスとの闘いにも共通することですが、世界全体を巻き込み、多くの人々の命を危険にさらす食糧危機は、各国が自国の利益ばかりを考えるのでは、克服できません。国際的な協力体制をつくり、食糧の生産や流通に関する情報を共有して、有効な対策を、できるところから実施してゆくことが大切だと思います。

(出川 展恒 解説委員)

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