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加速するEVシフト~自動車産業の試練

神子田 章博  解説委員 鈴木 啓太  解説委員

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(神子田)
脱炭素社会の実現にむけて、EV電気自動車へのシフトが日本でも加速しています。メーカー各社は、EVの車種を拡充。政府もEV購入者への補助金を大幅に引き上げ普及を促そうとしています。きょうは自動車業界の動向を取材してきた広島放送局の鈴木解説委員とともに、日本のEVシフトの現状と課題について考えていきたいと思います。
鈴木さん、メーカー各社のEV化にむけた動きはどうなっていますか?

(鈴木)
今年はこれまでにないタイプのEVが市場に相次いで投入される年となります。
日産自動車が今年1月、初めてのSUV=多目的スポーツ車のEVを投入したほか、夏までに「三菱自動車工業」と共同で開発している軽自動車サイズのEVの販売を始める予定です。またトヨタ自動車とSUBARUも今年中(なか)ごろ、会社としては初めての量産型のEVの販売に乗り出します。

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また長期の目標としては、トヨタが2030年には、世界で30車種のEVを投入し、EVの新車販売台数を年間350万台にする計画を打ち出しています。日産も2030年度までにEV15車種を含め、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車など、電動車あわせて23車種を投入する計画をかかげています。またホンダも2040年までに世界で販売する新車をすべてEVと水素を燃料とする燃料電池車にする目標を打ち出しているほか、連携しているGM=ゼネラル・モーターズと共同で新しいEVを開発すると今週、発表しました。マツダも2030年までに生産するすべての車をハイブリッド車や電気自動車などにする計画を掲げています。さらに、新たなビジネスチャンスを期待して、異業種からの参入も相次いでいます。4年前からEVの開発を進めてきたソニーグループは、新しいEVの開発や販売でホンダと提携し、新しいブランドを立ち上げる方針です。

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(神子田)
このように日本メーカーがEVシフトを急ぐ背景には、欧州各国で進む脱ガソリンの動きと、中国メーカーの台頭があります。ヨーロッパではEU=ヨーロッパ連合が、ガソリンを使用する車の新車の販売を、日本の得意とするハイブリッド車も含め、2035年に事実上禁止する方針を打ち出しています。またガソリン車大国アメリカでも、2030年には販売の50%をEVや燃料電池車などにするとしています。こうした中で、日本のEV化の動きは遅れをとっています。

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こちらは、世界の主要国・地域ごとにみた、販売台数に占めるEVの割合の推移です。とくに2020年から欧州と、中国で急速に比率を伸ばしているのに対して、日本は0.8%程度にとどまっています。

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なかでも中国は去年の電気自動車の販売台数が290万台あまりにのぼったほか、価格が日本円でおよそ50万円の低価格のEVも開発され、新興国の市場拡大を狙う構えです。このままでは日本メーカーは欧州と中国メーカーの挟み撃ちにされる形で、世界のEV市場で大きく後れを取るおそれが強まっているのです。
こうした中で日本は、今後の目標について、2035年にEVのほかに、ハイブリッド車、燃料電池車も含めて100%にするとしています。EVだけで100%としなかったのは、モーターを動力とするEV化を急速に進めれば、エンジンなどの部品をつくってきた企業の仕事が激減し、雇用を悪化させるおそれがあるからです。

鈴木さん、広島は、大手自動車メーカーもありますし、自動車部品メーカーも集積していますので、EVシフトで大きな影響を受けているようですね?

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(鈴木)
広島県では製造品出荷額の3割近くを自動車産業が占めているだけに、電動化は地域経済に与える影響は大きなものとなります。まず部品メーカーの対応ですが、現状では、準備が着々と進んでいるとは言えません。その理由を聞いてみると「目の前の仕事で手いっぱいで、開発にあてられる人材も時間もない」とか、「電動化のスピード感が見通せず、動き出せない」と言った答えが返ってきます。
 ただ、その一方で、先を見据えて動きだした部品メーカーもあります。
呉市にあるグループ全体の売り上げの9割近くがエンジン関連部品という、従業員およそ1000人の中小企業の事例です。鉄を曲げる特許技術を持ち、金属リングの分野で世界的なシェアをほこりますが、EVが普及すれば、売上の落ち込みにつながると危機感を強めています。この会社では、ことしに入って新たな研究施設を設けて、EV向けの部品の開発に取り組んでいます。必要な技術を得るため、他社との技術連携も検討しています。この会社の八代一成社長は、「固有の技術に強みを持っていたが、今後はそれだけでは十分ではなくなる。絶えず変化が求められるなかで、先行して取り組んでいきたい」と話しています。

(神子田)
EVシフトにむけて地域経済全体としては、どういう動きがでてきているのでしょうか?

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(鈴木)
主力産業が衰退すれば、地域経済の活気が失われかねないと、地元の金融機関にも新たな動きがでてきています。広島銀行では、去年夏から取引先の部品メーカーの電動化の支援に乗り出しています。自動車メーカーのOBや関連企業に出向経験のある専門知識を持った5人のスタッフが必要な技術や設備、人材などの相談にのっています。長年の取引で、部品メーカーのことを詳しく把握している強みを生かして、解決策をともに考え、時には、銀行のネットワークを生かして、部品メーカーどうしの技術連携の橋渡しをしたり、開発にあたるエンジニアを紹介したりして、電動化に向けた第一歩を踏み出せるようにサポートしていこうとしています。この銀行によりますと、将来を見据えて技術を生かして医療機器や農業用機械といった異なる業種に参入するケースも出ていますが、自動車部品のように大量の受注があるケースは少なく、新たな経営の柱づくりには難しさがあるということです。
すそ野が広い自動車産業は、地域経済や雇用にも大きな影響を及ぼします。脱炭素の取り組みが待ったなしの課題となる中、部品メーカーだけでなく、地域全体で将来を見据えた取り組みが求められていると思います。

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(神子田)
政府もこうした自動車産業の事業構造の転換を支援しようとしています。広島や名古屋、群馬など自動車産業の集積地に相談窓口を設け、企業がもつ技術がどのような業態に応用できるかや、新たな経営戦略の立案を支援するほか、実際に業態転換を決めた中小・中堅企業に関しては、新たな設備の導入に補助金を出し、中小企業の場合は、必要な資金の半分、最大で1億円を補助することにしています。さらに現在の二倍の航続距離をもつ次世代の電池の開発を支援したり、急速充電ができる充電設備をいまの5倍に増やすための補助を行っていく方針です。

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さらにEVを購入する際の補助金もこれまでの二倍余りの最大85万円に、軽自動車のEVは最大55万円に引き上げられました。
一方で、日本での車の電動化をめぐって考えなくてはならないのが、EVに供給する電力のおよそ4分の3が火力発電によってつくられている問題です。これではCO2の排出削減につながるか疑問だとする声も上がっています。脱炭素社会の実現にむけては、単にEVの普及にとどまらず、エネルギー政策をトータルで考えてゆくことも求められています。

自動車の電動化は、部品を供給する中小企業も含めてメーカーにとっては大きな試練となります。国内の雇用を維持しながら海外メーカーとの競争にどう打ち勝っていくか。新しい時代のモノづくりの底力が問われることになります。

(神子田 章博 解説委員/鈴木 啓太 解説委員)

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