4月1日から、「大人」と「子ども」の線引きが変わります。
民法の改正による成人年齢の引き下げ。そしてもう1つが改正少年法の施行です。
少年法は、犯罪行為をした20歳未満の少年を対象に、大人とは違う司法手続きで更生・立ち直りを促すものです。
今回の改正は「厳罰化」とも言われますが、一方で、更生を促し、再犯を防止する効果が弱まることも懸念されています。
改正によって変わることと、その影響を考えます。
はじめに、少年法について簡単に説明します。
子どもは未成熟で、感情を抑えられなかったり、周りに影響されたりして、犯罪行為をしてしまうこともありますが、その反面、柔軟性もあります。
人生の早い段階で立ち直らせれば再犯の防止になり、本人のためにも社会のためにもなるという考え方に基づいて、特別な手続きを定めた法律が少年法です。
対象は、犯罪や犯罪のおそれのある行為をした20歳未満の少年です。
「少年」という表現ですが、女性も含みます。
まず、大人の場合の手続きを説明します。
犯罪行為をすると、逮捕・起訴され、公開の刑事裁判で裁かれ、有罪なら刑務所で服役します。
一方、少年は、逮捕された後、家庭裁判所に送られます。
そして非公開の少年審判を受け、ほとんどの場合、刑罰ではなく「保護処分」を受けます。
「保護処分」は3種類あります。
いずれも、生活面の指導など教育や指導が中心です。
罰としての刑務作業が中心となる大人とは対照的です。
一方で、「少年法は甘い」という見方もあります。
少年が起こした事件の被害者や遺族などからは「大人と同じように責任を負わせるべきだ」という声が上がっています。
今回の少年法の改正の直接のきっかけは選挙権年齢と成人年齢の18歳への引き下げですが、背景には、「少年法は甘い」という厳しい見方もありました。
それでは、4月1日から何が変わるのか?
18歳と19歳は「特定少年」という名称で17歳以下と区別され、大人と同じ刑事裁判の対象が広がります。
少年はほとんどが刑罰ではなく「保護処分」を受けますが、例外があります。
殺人や傷害致死など「故意に人を死なせた罪」に問われた場合は、原則として家庭裁判所から検察に「逆送」、送り返され、刑事裁判で有罪になれば刑罰を受けることになります。
この「原則逆送」の対象が、強盗や放火、強制性交など、法律上の刑の期間が「懲役・禁錮1年以上の罪」に広がります。
そして、「特定少年」が逆送されて起訴されれば、実名報道を禁じる規定も適用されなくなります。
検察は、裁判員裁判の対象になるような重大事件では実名を公表することを検討していて、あとは報道各社の判断になります。
さらに、有罪判決を受けた場合の扱いも変わります。
これまで、少年に対して、死刑や無期懲役より低い「有期刑」を言い渡す場合、刑の長さは最長で15年でした。
これが「特定少年」に関しては大人と同じ「30年」になります。
これは何を意味するのでしょうか?
15年を超えるような刑は、ほとんどが、人を死なせる、あるいは、複数の人に重大な危害を加えるケースです。
つまり、4月1日からは、重大な事件を起こすと、18歳や19歳も大人と同じ責任を負うことになるのです。
これは、厳しい制裁を設けることで犯罪を抑止すべきだという被害者や遺族の思いが反映された形と言えます。
この重みを、当事者だけでなく、さまざまな形で子どもに関わっている私たち大人もきちんと認識する必要があります。
そして、少年法の目的である再犯防止にどんな影響が出るのかについても考える必要があります。
上記のように、原則として刑事裁判になる対象が広がります。
裁判で有罪になれば、行き先は、少年院ではなく刑務所になります。
少年院と刑務所は目的が異なります。
少年院は、先ほど説明したように、更生のための指導や教育が中心です。
個別に担当の教官がついて、本人と関係を築きながら、なぜ罪を犯したのか、これからどう生活すればいいのか、自覚を促します。
日中は勉強や職業訓練を受け、夕方以降は寮で過ごしながら、集団生活のルールや人との接し方を学び、教官も泊まり込んで指導します。
「育て直し」と表現されることもあります。
一方で刑務所は、「育て直し」の場ではなく、「罰を受ける」場です。
職業訓練や教育プログラムもありますが、あくまで罰としての刑務作業が中心です。
夕方以降は自由時間なので、少年院のように教官が泊まり込むような指導はできません。
本人の更生のために使える時間や内容は限られています。
このグラフは、少年の再犯に関するものです。
少年院を出た人のうち、再び罪を犯し2年以内に少年院に入ったり刑務所に入ったりする割合、「再入院・入所率」は、11.1%。
横ばいか、緩やかに下がる傾向にあります。
少年法の仕組みが一定程度、機能していることがうかがえます。
今回の改正によって一部の少年がその仕組みから外れることで、再犯を防ぐ効果が弱まることを懸念する声もあります。
法務省は、対策として、少年院のノウハウを刑務所に取り入れる方針です。
例えば、今年から全国2か所の刑務所で受刑者を数十人のグループに分け、集団の中で人との接し方を学ばせつつ、教育の時間も増やすことにしています。
また、懲役刑と禁錮刑を一本化した「拘禁刑」を設ける刑法の改正案も国会に提出されています。
成立すれば、刑罰の内容が変わり、再犯防止に向けた指導や教育プログラムに、より力を入れることができるようになります。
そして、刑務所を出た後の「受け皿」も重要です。
住む場所や働く場所がなければ、再び犯罪に走るリスクが高まるからです。
この点については、民間で新たな動きが出ています。
企業が受刑者の職業訓練や刑務作業に関わるようになっているのです。
先日、都内で、企業を対象に刑務所との連携を考える催しが開かれました。
この中で、IT大手ヤフーの事例が報告されました。
ヤフーは2018年度から山口県美祢市の刑務所で、ネット販売のノウハウを学ばせる職業訓練を行っています。
地域の特産品などをどうPRすればネットで売れるのか、受刑者たちがチームを組んで話し合いながら、社会で通用するスキルを学びます。
ヤフーがこの事業に参入したのは、「社会課題の解決」が目的です。
最近、企業の間では、利益の追求だけでなく社会貢献や社会課題の解決を重視する動きが広がっています。
法務省によると、ここ数年、再犯防止を「社会課題」と捉えて刑務所での事業に関心を持つ企業が増えているということで、今回の催しも定員を超える申し込みがありました。
一方で、表立って関わるのを避ける企業もあるといいます。
事件の加害者を支援するような形になることに対して、「株主や関係者の理解が得られないのではないか」という懸念があるからです。
企業が関わる動きがどこまで広がるのかは未知数です。
この催しの運営にあたった「インフォバーン」の小林弘人代表取締役は「刑務所は多くの企業にとって遠い存在だが、刑務所とともに循環型農業など社会課題に取り組めば、地域貢献にもなり本業にも生かせるメリットがある。きっかけづくりが重要だ」と話しています。
もちろん、これは企業だけが考える問題ではありません。
犯罪、そして再犯は私たち全員に関わります。
社会全体でどう受け皿を作るかが問われています。
今回の改正は、5年後に見直しも検討することになっています。
効果や影響を検証しながら、「厳罰」と「更生」について考え続けていく必要があります。
(山形 晶 解説委員)
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