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東日本大震災から11年 くらしと伝承への支援を

中島 俊樹  解説委員 二宮 徹  解説委員

震災関連死も含め、およそ2万2200人が犠牲になった、東日本大震災から11年。風化が懸念されるあの日の教訓と、くらしや伝承に求められる支援について考えます。

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<復興の進捗状況は?>
国が30兆円以上を投じた被災地の復興は、この一年、ハード面ではさらに進みました。復興道路と呼ばれる「三陸沿岸道路」は、仙台市から八戸市まで359キロの全線が去年12月までに開通。所要時間は5時間あまりと、およそ3時間20分も短縮されました。また、防潮堤も、東北と関東の430キロあまりの完成率が92%に達しました。

<被災地の安全や防災意識は?>
インフラの整備は大きく進みましたが、防潮堤で海が見えなくなり、住民の防災意識に影響しないか、という課題もあります。

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こちらは宮城県石巻市にある防潮堤です。高さ9.7メートルあります。ただ、この高さでも、震災クラスの津波は防げず、あくまで避難する時間を稼ぐものです。やはりより高いところ、遠いところに避難することが必要です。しかし、ことし1月、避難の課題を感じさせる出来事がありました。

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トンガの海底火山の噴火で津波警報や注意報が出されたとき、沿岸の多くで避難指示が出ました。対象は全国でおよそ23万人でしたが、実際に避難所に避難した人は最も多い時でわずか2522人。自宅の2階以上や車中避難の人が含まれず、多くの地域が注意報だったことを差し引いても、東北も含めて少なかったという印象です。宮城県東松島市で避難しなかった人の1人は、「防潮堤ができた安心感があったかもしれない」と話していました。
ハード面がどれだけ整備されても、想定を超える災害は来る、という震災の教訓を改めて思い出さなければならないと思います。

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去年12月、国は新たな大津波の被害想定を発表しました。
日本海溝・千島海溝の地震による津波です。北海道から東北の沖合を震源とする地震で、いずれも300年以上起きておらず、「切迫している」とされています。特に日本海溝の地震では、東北・北海道を中心に10メートルを超える大津波が襲い、最悪の場合、住宅22万棟が全壊、死者は19万9000人に上るとされています。
ただ、避難意識が高まり、避難施設の整備などを進めれば、犠牲者は8割抑えられるといいます。自宅や仕事先から避難する場合の場所やルート、家族などで連絡を取り合う方法などについて、話し合ってほしいと思います。

<被災者は復興をどう感じているのか?>
こうした中で、被災地では、復興はどう受け止められているのでしょうか。

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NHKが被災地にお住まいの方に伺ったアンケートの結果です。
復興の状況について、復興は完了した、思ったよりも進んでいると答えた人が43%いた一方で、思ったよりも遅れている、全く進んでいないと答えた人は36%でした。
また、震災10年の去年と比べて、行政やNPOの支援が増えた、どちらかと言えば増えたと答えた人は3%だったのに対し、減った、どちらかと言えば減ったと答えた人は25%にのぼりました。
これらの回答からは、仕事や生活が震災前の水準に戻った人と、売り上げや収入が戻らない人など、二極化している実態と、国の政策でも節目とされる10年を過ぎ、支援が縮小した影響が窺えます。

<孤立が大きな課題>
震災から5年が過ぎた際も、集中復興期間とされた5年がたったことを理由に自治体への応援や企業・ボランティアの支援が減り、孤立や健康の問題が表面化してきました。そして、今、震災で自宅を失った人たちが住む災害公営住宅を訪れると、10年が過ぎた影響を感じます。

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宮城県では災害公営住宅に暮らす3人に1人は、ひとり暮らしの高齢者です。見守り活動をしてきた各地の社会福祉協議会などにアンケートをしたところ、昨年度に比べて財源や人員が減ったという回答が6割あまりに上りました。
加えて、新型コロナの影響が深刻です。私たちは被災された方からこの1年などについて手紙を募りました。そのうち宮城県亘理町の災害公営住宅に住む80代の女性の手紙には、「今はコロナで集会所も休みです。朝 9時からラジオ体操があるので毎日通っています。それが一番の楽しみです。1日誰も来ない日何日もあり言葉が出てきません。名前も出てきません。ほんとうに淋しいです」と書かれています。
また、去年は、誰にも看取られずになくなる孤立死が岩手、宮城、福島の3県で72人、確認され、前年より3人増えました。災害公営住宅は、「復興住宅」とも呼ばれていますが、「復興」という名にあった生活ができているのか、疑問に感じます。

10年が過ぎたことで、被災者支援は通常の福祉政策の範囲で行う方向に進んでいます。しかし、特に福島県では原発事故で故郷を追われ、県内外で避難生活を続ける人がまだ3万3000人あまりもいます。
孤立を防ぎ、生活を支える対策をあらためて強化してほしいと思います。

<災害伝承の課題は?>
そして、震災の記憶や教訓を伝え続ける伝承も困難に直面しています。

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岩手県陸前高田市にある伝承館には、津波に流された消防車など、被害や避難の様子が展示され、今週初めも県内外から訪れた人たちが説明に聞き入っていました。
被災地では、こうした施設のほとんどが完成し、「震災伝承施設」として302件が登録されています。
しかし、記憶の風化が懸念されるなか、新型コロナの影響で訪れる人が減って、資金面で悩みを抱える施設や団体も出てきています。

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岩手・宮城・福島で伝承活動をしている63の施設と団体に、現状を聞きました。震災遺構などを訪れる人や語り部に参加した人は、新型コロナの感染が本格化する前の2020年1月は6万2000人を超えていました。しかし、ことし1月は、オンラインの語り部活動などを含めても4万人あまりと、3分の2に減少していました。伝承を担う民間の個人や団体は、いずれも資金面で厳しい状況が続いています。行政が支援して、持続的な伝承のあり方を考えてほしいと思います。

これまで11年間、被災地は復興に向かって懸命に歩んできました。しかし、くらしやにぎわい、心の復興はまだ実現せず、高齢者の孤立や伝承の課題は深刻さを増しています。
あの日の悲しみや教訓を忘れず、今も苦しむ人たちに寄り添いながら支援を続けることが求められています。

(中島俊樹 解説委員 / 二宮徹 解説委員) 

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