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かかりつけ医はどこに?診療受けられない患者も

竹田 忠  解説委員

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長引くコロナ禍で、頻繁に聞くようになった言葉の一つが、
この“かかりつけ医”という言葉ではないでしょうか。
医療を受けるための入口として、
俄然、大きな役割を担うことになった言葉です。
しかし、このかかりつけ医を巡っては、
患者が頼んでも、「あなたのかかりつけ医ではない」として
ワクチンの接種や、自宅療養の往診を拒まれた、という訴えが相次ぎ、
メディアなどでも大きく取り上げられました。

そこで、三つのポイント。

・コロナで露呈したあいまいな仕組み
・医療費の改定で激論
・問われるフリーアクセス
以上、3点について考えていきます。

【 かかりつけ医を巡る混乱 】

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そもそも、このかかりつけ医とは、どういう意味なんでしょうか?
日本医師会のパンフレットなどを見ると、こうあります。
「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、
必要な時には専門医療機関を紹介でき、
身近で頼りになる、地域医療、保健、福祉を担う
総合的な能力を有する医師」。 
こう説明されています。
実は、国も、日本医師会も、かねてから、
このかかりつけ医を持つよう推奨してきました。
と言うのも、高齢化が進むと、手術しても治りにくい、
慢性的な病気とうまくつきあいながら生活していく人が増えます、
そこで頼りになるのが、身近なかかりつけ医というわけです。

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日本医師会がおととし行ったアンケート調査では
かかりつけ医が「いる」とこたえた人の割合は全体の55.2%。
半数以上の人が、いると答えています。

ところが、この「いる」という答えは、
患者の側が、そう思っているだけで、本当は、そうではなかった。
かかりつけ医がいるわけではなかった。
そう思わざるを得ないような事態が、
コロナ禍、全国で相次ぎ、問題となりました。

例えば、ワクチンの接種です。
高齢者が、診療所で予約を取ろうとしたところ、
「うちは、あなたのかかりつけ医ではありません」といって、
受けつけてもらえなかった、という事例が各地で相次ぎ、大きな問題となりました。

また、在宅療養の往診を頼んだが断られた、とか、
日頃から複数の医師にかかっているが、
一体、誰が、かかりつけ医なのかがわからない、といった苦情や相談も
自治体の窓口などに寄せられています。

【 中医協では激論も 】
なぜこういうことになるんでしょうか?
その大きな原因は、かかりつけ医の定義があいまいなままで
制度化されてない、ということがあります。

この問題は、今月、まとまった、
2年に一度の医療費の改定の審議の中でも大きな議論になりました。
舞台となったのは、厚生労働大臣の諮問機関である、
中央社会保険医療協議会、いわゆる中医協です。
医療費を支払う側である健康保険組合や、労働団体などの代表と、
その医療費を受けとる側である、医師や病院の代表からなる診療側、
そして、その間に立つ公益委員、
この三者が、医療費の公定価格である、
診療報酬の見直しについて議論する場です。

この会議で、去年10月、
支払い側から、かかりつけ医のありかたについて、
疑問や問題提起が相次いで出されました。
こうです。

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「病院でワクチンの予約をしようとしても、
あなたはかかりつけの患者ではないと言われて断られた人がいる」
「医療を受ける側と提供する側で、認識のずれがあるのではないか」
「かかりつけ医とは何か?
自分にとって、かかりつけ医とはどこかと悩んだ人は
全年齢、全国民であったと思っている」
こうした疑問や不満が、次々と出されました。
その上で、どんな医療機関が、どんな条件をクリアすれば
かかりつけ医になるのか、
患者の目線で、その定義や制度について
もっとハッキリさせるよう、議論することを求める意見が相次ぎました。

一方、これに対して
医師や病院を代表する診療側は、異なる立場です。
「かかりつけ医は、患者と医師の信頼関係がベースになければ成立しない。
「その信頼を制度で縛ることは、医療になじまない。」
「診療をかかりつけ医に限定すれば、
患者の利便性は低下し、地域医療の質も低下する」などと述べて、
定義や制度の明確化には慎重な意見が出されました。

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結局、今回の見直しで決まったのはこういうことです。
現在、かかりつけ医としての機能を持つ医療機関は、
初診の時に、800円多く受け取る仕組みがありますが、
この加算をもらうためには、
過去1年間の往診の実績があるかどうか、などを新たに条件に加えます。
かかりつけ医として、しっかり働いてもらうのが狙いです。

また、患者が紹介状なしで、
いきなり大病院を受診する場合、
今は初診で5000円、
再診は2500円の追加負担が必要ですが、
10月1日からは初診で7000円、
再診で3000円に引き上げられます。
まずは、かかりつけ医で診てもらうよう促すのが狙いです。

どちらも、かかりつけ医の役割をハッキリさせようというものですが、
結局、支払い側が求めていた、
制度や定義を明確にする議論は進みませんでした。

【 問われるフリーアクセス 】
なぜ、こうなるのか。
それは、そもそも、医療の在り方が
日本と海外では大きく違っていることがあります。

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たとえばイギリスでは
患者はいきなり大病院にかかることは許されず、
まず、その地域で指定された、かかりつけ医にみてもらい、
そこで必要と判断されれば、大病院や専門病院にみてもらえます。
医療を受けるには、まず、かかりつけ医にみてもらわないといけない。
医療の入口としての役割をになっていることから、
ゲートキーパー(門番)とも呼ばれます。
患者は、かかりつけ医に登録する義務があります。

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これに対し、日本は、診療所でも、大病院でも、
患者が自由に選ぶことができます。
これはフリーアクセスと呼ばれます。
患者にとっては便利なんですが、
軽い症状であっても大病院に行くことが可能で、
これが、大病院の負担を重くしたり、
勤務医の労働環境をさらに悪化させる要因になっているとされます。
かかりつけ医への登録制度もありません。

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そしてこの両者の中間に位置するのがフランスです。
患者はかかりつけ医に登録することが義務ですが、
追加負担をすれば、大病院にかかることもできます。

こうして比較すると、
日本ではかかりつけ医への登録制度もなく、
フリーアクセスが最も保障されている国、ということになります。

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しかし、今回のコロナ禍で明らかになったのは、
いったん、医療がひっ迫すれば
フリーアクセスはたちまち
機能しなくなってしまうおそれがある、ということです。

実際、多くの人が
全く医療を受けられないまま
どの病院にアクセスすることも許されず、
在宅療養を余儀なくされ、
大変な思いを強いられたわけです。

そう考えると、いざという時に
医療を受けられるようにするには、
かかりつけ医の定義と制度を明確にして、
医師と患者の関係をハッキリさせる必要が出てくるかもしれません。

というのも、日本よりはるかに
感染者が多かったイギリスでは
かかりつけ医が総力戦で軽症者の対応にあたり、
病院での治療を重症者に絞り込むことに貢献したといわれています。

有事でも平時でも、
必要な医療を受けられるようにするには
どういう形がいいのか、
今回は医療費の改訂の中で、議論が行われたわけですが、
お金の話しだけでなく、医療制度全体の話しの中で
かかりつけ医について議論を深める必要があると思います。

(竹田 忠 解説委員)

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