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緊迫ウクライナ 軍事侵攻の危機は回避できるのか

安間 英夫  解説委員

ウクライナに対し、ロシア軍が軍事侵攻に踏み切るのではないか。緊迫した状況が続いています。アメリカとロシアを中心に外交交渉が続けられていますが、緊張が緩和する兆しは見えていません。最新の状況や関係国の思惑を踏まえ、軍事侵攻の危機は回避できるのか考えてみたいと思います。

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【ロシア軍の展開】
まず現地の状況を、ロシア軍の展開を中心に見ていきます。
欧米のメディアなどによりますと、ロシア軍は去年11月ごろから大規模な部隊をウクライナの国境周辺に展開させ、その規模は10万人にのぼると見られています。
ロシア軍は、①ウクライナの東の国境周辺、②ウクライナの南、2014年にロシアがウクライナから一方的に併合したクリミア、③ウクライナの北隣にあるベラルーシにも部隊を展開しているとされます。
これに対しアメリカのバイデン政権は、近隣のポーランドとルーマニアなどへあわせて3000人規模を派遣する方針を発表。
さらに8500人規模の派遣に備えるよう指示し、米ロ双方の部隊の増強で緊張感は高まる一方です。

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【米ロ外交交渉】
こうした状況に、アメリカとロシアは、去年から首脳・外相同士を含むさまざまなレベルで活発な外交交渉を重ねてきました。
まずはプーチン大統領の要求です。
▼NATO=北大西洋条約機構がさらに東に拡大しないこと、
▼相手国を攻撃可能な中短距離のミサイルを互いに配備しないこと、
▼NATOの軍備を1997年当時の水準に制限することです。

しかしアメリカ側は、ロシアに他国のNATO加盟を阻止する権利はないとして拒否し、双方の主張の隔たりは埋まっていません。
さらに先月下旬、アメリカが文書で寄せた回答に対し、プーチン大統領は今月1日、「ロシアの根本的な懸念が無視されている」と述べ、強い不満を表明しました。

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【ロシアの思惑は】
では、プーチン大統領が主張する「ロシアの根本的な懸念」というのは、いったい何でしょうか。

地図の「水色」は、東西冷戦終結前からNATOに加盟していた国々で、冷戦時代、ロシアなどソビエトを仮想敵とした欧米の軍事同盟を形成してきました。
しかし、冷戦が終結したあと、NATOは、ポーランドやハンガリーなど、ソビエトを中心とするかつての東側陣営の国々やソビエトのバルト3国の加盟を認め、「濃い青色」の範囲まで拡大しました。
ロシアからすれば、
▼冷戦終結時に東に拡大しないと約束したはずなのに口約束でほごにされた、
▼NATOのほうが、ロシアの国境周辺に近づき、軍事的脅威を与えてきたと受け止めているわけです。

さらにロシアが絶対に容認できないと主張しているのが、ウクライナの加盟です。
人口4000万を超える旧ソビエト第2の大国で、プーチン大統領はウクライナをロシアと民族、歴史、宗教などが近く、「同一民族」であり、「特別な兄弟国」と位置づけ、ロシアの勢力圏だと主張しています。
しかしこうした主張は、欧米やウクライナなどから一方的だとして賛同を得られていません。

プーチン大統領としては、軍事的な圧力をかけながら最大限の要求を掲げて交渉するという思惑があると見られます。

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【アメリカの思惑は】
続いてアメリカのバイデン政権の思惑を考えます。
バイデン大統領は、若手の上院議員時代から外交に関わり、NATOや旧ソビエト、ウクライナをめぐる問題に取り組んできました。いわばライフワークです。

今回の一連の事態でバイデン政権は、危機感を強調しています。
先月下旬には、ウクライナに駐在する外交官やその家族を退避させる動きを取ったほか、
バイデン大統領は「ロシアが今月ウクライナに侵攻する確かな可能性がある」と述べました。

そうした中、ロシアとの交渉に臨むアメリカの本音をうかがい知れる文書が明らかになりました。
アメリカはロシアに回答した文書を非公開としていましたが、そのコピーをスペインの新聞が入手したとして報道し、アメリカ政府もその内容は否定していません。
このなかでアメリカ政府は、ロシアの求めるNATO拡大阻止は拒否するものの、ヨーロッパのミサイル配備などについては議論を提案する内容となっています。
つまり個別の技術的な問題については協議に応じる姿勢が見て取れます。

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【ウクライナの思惑は】
最後に、ロシアとアメリカ、大国のはざまで揺れてきた、ウクライナのゼレンスキー政権の思惑について考えてみます。

ウクライナの大統領はもっとも難しい立場に立たされています。
ロシアから軍事的な圧力を受けつつも、クリミア併合などの困難な問題を解決し、かつ国をまとめていくことが課題だからです。
ゼレンスキー大統領が頼りにするのはアメリカの後ろ盾ですが、このところのアメリカなどの姿勢は危機感を強調しすぎだとして戸惑いを隠していません。
国民に「パニックに陥ることはない」と述べ、平静を呼びかけたほか、アメリカなどの外交官や家族の退避の動きについても「ウクライナはタイタニック号ではない」と述べて懸念を示しました。
先月中旬、ウクライナで行われた世論調査では、ロシアによる軍事侵攻について「ある」と答えたのは48%で、「ない」と答えた39%を上回り、市民の間にも警戒感が広がっています。

ゼレンスキー大統領にとって気がかりなのは、ロシアから攻撃があった場合、アメリカのバイデン政権が本当に守ってくれるかどうか、確信が持てないことかもしれません。
バイデン大統領が先月、小規模な侵攻があった場合の対応について、明言しなかったことがあったからです。

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【軍事侵攻のおそれは】
ここからは、軍事侵攻のおそれがどれだけ切迫しているのか考えます。

ロシアとベラルーシは、今月10日から20日まで合同軍事演習を行うと発表しており、アメリカの複数のメディアは、情報機関の分析として、ベラルーシで部隊が増強され、ロシアがウクライナ全土への攻撃に踏み切るのに必要な兵力の70%がすでに配置されたとの見方を伝えました。
サリバン大統領補佐官も、平和の祭典であるべき北京オリンピックの期間中であっても軍事侵攻に踏み切る可能性はあるとの見方を示しています。

そうした中、今週から来週にかけてフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相がロシアを訪問し、プーチン大統領と会談することになっています。
フランスとドイツを仲介役にロシアとウクライナが唯一合意している枠組みがあります。
「ミンスク合意」というウクライナ東部の停戦合意で、この枠組みが機能すれば、緊張が緩和していく可能性があります。
しかし停戦合意はこれまで何度も破られ、まずはウクライナ政府と親ロシア派の間で停戦を実現することが最初の課題となるでしょう。

【最後に】
ロシアのプーチン大統領はこれまで、アメリカこそが一方的な解釈でイラクなどに軍事侵攻し、あるいは軍事的圧力を与え、他国への内政干渉を行ってきたと主張してきました。
プーチン大統領としては、アメリカはよくてなぜロシアはだめなのかという理屈なのかもしれません。
しかし、ロシアが今しているのも、紛れもなく武力による威嚇であり、国際秩序に対する挑戦ではないでしょうか。
国際秩序を一変させてしまう軍事侵攻という危機を回避するためには、関係国が真剣に話し合いに取り組むことが必要です。
ロシアには一線を越えた場合の代償が大きいことに対する理解、そしてアメリカなど関係国にも不測の事態を招くことのないよう冷静な対応を求めたいと思います。

(安間 英夫 解説委員)

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