新型コロナウイルスの感染者の増加傾向が続いています。これに伴い、重症者、死者も増えて、2022年2月4日の死者の数は、100人を超えました。
オミクロン株は、これまでのデルタ株などと比べて、重症になる割合は低いとされていますが、感染力は強く、医療だけでなく社会全体にその影響が広がっています。まん延防止等重点措置の適用される地域は、2月5日に追加の和歌山県を含めて、35の都道府県になります。急拡大するオミクロン株対策に求められることを考えます。
今、最も必要なことは何か。多くの専門家が指摘するのが、高齢者へのワクチン3回目接種を少しでも早く進めることです。
その理由は、2つあると考えます。ひとつは、高齢者の感染あるいは重症化を防ぐというものです。
図の上部分は全国の新規感染者数の推移、下部分は重症者数と死者数です。オミクロン株は、症状の軽い人が多いとされます。しかし、感染者の増加に伴って、重症者、死者の数は増えています。この多くが、高齢者です。高齢者の3回目のワクチン接種を進めることで、重症化のリスクを抑えることができると考えられます。
もう一つの理由。それは、新規感染者数がピークを迎えた後、減少のペースを速めることができると考えられている点です。
第5波のときは、急激に下がりました。1週間の感染者が前の週の「0.5倍」、つまり前の週の半分になるという、第4波までにはないペースの減少が続きました。この要因として、第5波では高齢者の感染が少なかったことがあると分析されています。高齢者のワクチン接種が進み、その効果が現れ、急激な減少につながったと考えられています。
では、第6波はどうなるのか。早くから第6波に入った沖縄県(図の下部分)で見てみます。1月中旬以降、感染者数が減少に転じましたが、比較的緩やかで、前の週の「0.8倍」前後の下がり方です。
年代別はどうなっているのか、人口あたりの感染者数で見てみると、下の図のようになっています。クリスマスや年末年始をきっかけに、大きく増えた20代など若い年齢層は減少していますが、赤などの線で示した高齢者層は、ほぼ横ばいか、70代は、依然として増加傾向にあります。
1回目、2回目の接種から時間が経過し、高齢者のワクチンの効果が低下していることから、60代、70代以上の感染者がなかなか減らず、緩やかな減少になっていると考えられます。
全国は、今後どうなるのか。専門家は、「増加速度が鈍化しつつも、感染拡大が継続すると考えられる」としています。
感染者数が減少に転じる時期は、見通せません。そして、今後、新規感染者数のピークを迎えても、そのあとは沖縄県のように感染者数が減るのに時間がかかるのではないかという懸念の声が聞かれます。
高齢者へのワクチン接種が進めば、本人の感染予防、重症化予防とあわせて、感染者の減少スピードを上げることができるとの考えから、3回目接種を急ぐ必要があると専門家は指摘しているのです。
その3回目接種の状況が下の図です。
全国で3回目接種をした人は、2月4日時点で日本の全人口の4.8%、600万人余りにとどまっています。3回目接種が進まない理由として、
▽接種間隔を当初の予定から2か月前倒しましたが、自治体の中には準備など対応が遅れているところがあること、
▽1回目と2回目にファイザーのワクチンを打った高齢者が、3回目も同じワクチンを接種したいとファイザーに希望が集中していることなどが指摘されています。
厚生労働省は、どちらも「十分な効果と安全性がある」としています。
オミクロン株の感染が広がる中、3回目接種がどのように進んでいくのかが、これからの感染状況をみる上でポイントになります。それだけに希望する人に、3回目接種の機会を提供し、スピードアップを図ることが重要です。同時に、ワクチンの副反応についてわかりやすい情報提供をこれまで以上に進めていくことが、政府には求められています。
高齢者にどのように感染が拡大したのか。
第6波の状況をみてみると、若い人たちを中心に広がった感染が、同居している高齢者に、あるいは高齢者施設の職員などが感染に気づかず、施設内でクラスターが発生するといったことが起きています。そして、新型コロナ用の病床が埋まり始めています。
このもととなる感染者を減らすことが重要ですが、オミクロン株の特徴から、対策の難しさと、基本の重要さがあらためてわかってきました。
国立感染症研究所が1月末にまとめた報告によると、オミクロン株は感染から発症までのいわゆる潜伏期間は、2.9日でした。一方、感染から次の人に感染するまでは、これより短いとしています。この報告は、暫定的なものではありますが、「発症より前に、周囲に感染を広げる可能性が示唆される」と分析しています。
これは、発症に気づいてから対応したのでは遅いケースが少なくないことを示しています。日ごろからの感染対策が一層重要になります。リスクの高い行動を控える、つまり、マスクの着用、大人数を避ける、大声を出さないなどといったことになります。
周囲に感染させるまでの期間が短いので、
▽体調の異変を感じたら、すぐに医療機関などに相談する
▽濃厚接触者となれば、仕事をリモートに切り替えるなど、人との接触を最小限にする行動、素早い対応が一層大切になります。
いま感染は、家庭や高齢者施設だけでなく、職場や学校などでも拡大しています。
高齢者とともに問題になってきているのが、学校などで子どもに感染が広がっていることです。子どもは、重症になるケースはほとんど報告されていませんが、11歳以下へのワクチン接種は、まだ行われていません。文部科学省は、合唱などリスクの高い教育活動を控える方針を示していますが、あわせて、いま手に入れにくい抗原検査キットを教育現場で必要な時に活用しやすくするなど、子どもの教育機会確保について、優先度を上げて検討を進めることが必要です。
また、新型コロナ患者以外の医療、一般の救急医療にも大きな負担がかかってきています。救急患者の受け入れ先の照会を4回以上行うなど、「搬送が困難だった事例」が全国では、1月30日までの1週間に5300件余りありました。これは、第5波、第4波などのときを上回っています。冬は、もともと救急患者が多い時期ですが、新型コロナの患者の病床を確保していることから、全国の都市部を中心に、一般の救急の搬送先が見つかりにくくなっています。
救急医療や教育といった社会の基本となる部分を、新型コロナの感染リスクを抑えながら、どう維持していくのか。オミクロン株の感染拡大は、社会の広い範囲に影響しているだけに、その議論を加速させなければならないと思います。
感染拡大が続けば、保健所や自治体の相談窓口などのひっ迫は、一層深刻になります。そうなると、感染あるいは濃厚接触者となったとき、個人が自分で対応を考えたり、企業の判断で社内のクラスター対策を進めたりすることが多くなると考えておかなければなりません。
政府は、3回目接種の必要性、オミクロン株の基本的な対策の重要性などを国民に分かりやすく説明して、ひとり一人がリスクの低い行動と効果の高い対策がとれるよう、情報発信を強化していくことが求められます。
(中村 幸司 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら