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エスカレートどこまで 北朝鮮ミサイル発射

出石 直  解説委員

今年に入ってかつてないペースでミサイルの発射を繰り返している北朝鮮が、およそ4年ぶりに中距離弾道ミサイルの発射に踏み切りました。中断している核実験の再開やICBM =大陸間弾道ミサイルの発射も示唆していて、挑発をさらにエスカレートさせていくことが懸念されています。北朝鮮の核・ミサイル開発について考えます。

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【ポイント】
解説のポイントです。
▽ 【対決姿勢を強める北朝鮮】
北朝鮮によるミサイル発射はことしに入ってからだけでも7回に及んでいます。弾道ミサイルが日本の上空を通過してJアラートが鳴り響いた2017年のようなミサイル危機が再び繰り返される可能性が高まっています。
▽ 【北朝鮮なりの“理屈”】
挑発的なミサイル発射を繰り返し、核実験の再開やICBMの発射まで示唆している北朝鮮の意図はどこにあるのか。北朝鮮なりの“理屈”から探ります。
▽ 【鍵を握るのは中国】
最後に、この緊張状態を緩和するためにはどうすれば良いのか。
鍵を握っている中国が果たすべき役割について考えます。

【対決姿勢を強める北朝鮮】

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まずこちらのグラフをご覧ください。キム・ジョンウン(金正恩)体制になってからミサイルの発射回数が目立って増えていることがわかります。シンガポールでの史上初めての米朝首脳会談が行われた2018年には一回もありませんでしたが、2019年になって発射を再開し、ことしは年明けからすでに7回とこれまでにないペースです。
特徴的なのは、発射されるミサイルの種類が多岐にわたっていることです。

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▽1月5日と11日に発射されたミサイルは、音速をはるかに超える速度で上下左右に変則的に飛行する極超音速ミサイル、▽日曜日(30日)に発射されたミサイルは、
より射程の長い中距離弾道ミサイル「火星12型」だったと推定されています。
中距離弾道ミサイルの発射はミサイル危機が頂点に達した2017年9月以来およそ4年ぶりです。探知されにくく、より遠くまで届く攻撃手段として、ミサイル技術の高度化と多角化を目指しているものとみられます。

【北朝鮮なりの“理屈”】
ではなぜ、北朝鮮はこうした核・ミサイル開発を進めているのでしょうか?
北朝鮮は彼らなりの“理屈”でその理由を説明しています。独りよがりな決めつけつけではありますが、彼らなりの“理屈“には北朝鮮の思惑が込められています。

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北朝鮮が盛んに繰り返しているのは「国家防衛力の強化」という言葉です。
「アメリカの軍事的脅威から身を守るために軍事力を強化していかねばならない」というのです。北朝鮮の核・ミサイル開発の根底には、こうした彼らなりの“理屈”があります。

この“理屈”に基づいて2013年3月にキム総書記が打ち出したのが、核開発と経済発展を同時に進めるという「並進路線」と呼ばれる戦略です。近代化が遅れている通常兵器ではなく、核兵器とそれを運搬する弾道ミサイルに資源を集中し、同時に経済の立て直しを図ろうとしたのです。北朝鮮は弾道ミサイルの試験発射を繰り返し、17年11月には“アメリカ本土にまで届く“とするICBM=大陸間弾道ミサイルの発射を成功させます。

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ところが北朝鮮はこの後、突然、対話攻勢に転じます。18年の4月には、核実験とICBMの試験発射を中止すると宣言。「アメリカ本土に届く核兵器が完成したので、核実験やICBMの試験発射も必要なくなった。これからは経済建設に総力を集中する」と対外政策を大きく転換させたのです。

2018年6月に行われたシンガポールでの米朝首脳会談では「朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力する」とする共同宣言も出されました。NHKがアメリカのジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏から提供を受けた当時のトランプ大統領とキム総書記との間で交わされた27通の往復書簡の全文データでは、双方は「親愛なる大統領閣下」「親愛なる委員長」と呼び合うなど親密な関係だったことがうかがえます。

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しかし蜜月状態は長く続きませんでした。ハノイでの2回目の首脳会談は物別れに終わり、米韓の合同軍事演習への不快感をあらわにした19年8月5日付のキム総書記からの手紙を最後に書簡のやりとりは途絶えます。この年の12月に開催された党中央委員会総会では「公約に一方的に縛られる根拠がなくなった」と中止措置の撤回と新たな戦略兵器の開発を予告、去年1月に明らかにされた国防5か年計画では、極超音速ミサイルやICBMなど、18年の時点では「完成した」としていた核戦力の開発をさらに重点的に進めていく方針が打ち出されました。

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その後も北朝鮮は対決姿勢を強め、中断している核実験とICBM発射の再開を示唆するに至ったのです。およそ4年ぶりにグアムの米軍基地を射程に収める中距離弾道ミサイルの発射に踏み切り、ICBM発射の一歩手前までエスカレートしています。
強硬な対決姿勢と柔軟な対話路線の間で揺れ動いてきた北朝鮮ですが、その都度、発せられた彼らなりの“理屈”からは“不倶戴天の敵であるアメリカが朝鮮半島での軍事演習を中止して経済制裁を解除しない限り核とミサイルによる軍事力の強化を進めていく“という明確な意図が読み取れます。今後、彼らが別の”理屈“を持ち出してくるまでは、核・ミサイル開発をさらにエスカレートさせていくと考えておくべきでしょう。

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ただ核実験とICBM発射の再開については、“再開する”ではなく“活動を再稼働する問題を検討するよう担当部門に指示した”と、ワンクッションおいた言い回しになっています。今後のアメリカの出方次第では交渉の再開に含みをもたせているようにも受け取れます。核の放棄をちらつかせて経済制裁の解除を得ようとしたトランプ政権との交渉が失敗に終わったことを教訓に、将来、再開されるかもしれないアメリカとの交渉を前に、今のうちに軍事力を強化しておくことで取り引き材料を増やしておこうという思惑があるのではないでしょうか。

【鍵を握るのは中国】
ここまで北朝鮮なりの“理屈”から彼らの思惑について見てきました。
最後に緊張緩和の鍵を握る中国が果たすべき役割について考えます。

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年明けから弾道ミサイルの発射を繰り返している北朝鮮に対して、国連の安全保障理事会は、非難決議どころか声明すら出せていません。中国が「制裁による圧力では問題は解決しない」と反対しているからです。かつては中国も北朝鮮に厳しい制裁を課す決議に賛成票を投じていたにも関わらずです。1月17日には中国と北朝鮮を結ぶ貨物列車による物資の輸送が再開されたことも確認されています。長引く国境閉鎖と経済制裁で疲弊している北朝鮮にとって、中国からの物資は恵みの雨となることでしょう。

北京では今週、冬のオリンピックが開幕します。朝鮮半島の緊張が高まって東アジアにおけるアメリカの軍事的なプレゼンスが強まることは、中国も望んでいないはずです。アジアの平和と安定を願っているのであれば、中国こそが率先して北朝鮮に核・ミサイル開発の放棄を強く迫っていくべきではないでしょうか。中国が果たすべき役割と責任はきわめて大きいと考えます。

(出石 直 解説委員)

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