通常国会が今月17日に召集され開会しました。新型コロナの感染状況が急激に悪化する中、通常国会に初めて臨む岸田政権は、コロナ対策をはじめ様々な課題にどう説明を尽くすのか。立憲民主党や日本維新の会など野党側はどのように対峙していくのか。与野党ともに夏の参議院選挙を見据え激しさを増すとみられる論戦の焦点を考えます。
【新型コロナ対応】
今国会でも最大の焦点は新型コロナへの対応です。
感染の急激な悪化に初めて直面した岸田政権の対策のキーワードは、「先手」と「柔軟」。
安倍・菅政権がコロナ対応で「後手」に回ったとの批判を浴びたことを教訓に「先手」を打つことにこだわっているように見えます。感染力の高い「オミクロン株」には国内でまん延する前から「G7で最も厳しい水準」とする水際対策を進めてきました。今月9日から適用された沖縄など3県のまん延防止等重点措置を決める際にも、岸田総理は、適用の水準に達する前に判断したといいます。
ただ、その水際対策にも誤算がありました。
沖縄や山口などの在日アメリカ軍基地での感染が周辺の自治体に広がったとみられることです。海外から軍用機などで入ってくるアメリカ軍関係者は、日米地位協定に基づき規制の対象外となっており、「大きな穴があいていた」との指摘もあります。与野党からは感染対策の徹底を求める意見が相次ぎ、立憲民主党や共産党などは日米地位協定を改定すべきだとしています。今月10日からはアメリカ軍関係者に対して不要不急の外出制限などの措置がとられていますが、対策の実効性が問われます。
では、「柔軟」の方はどうでしょうか。
岸田総理は施政方針演説で、「一度決めた方針でも、より良い方法があれば躊躇なく改め、柔軟に対応を進化させていく」と強調しました。オミクロン株の潜伏期間がデルタ株より短い可能性が分かってくると、濃厚接触者が宿泊施設などで待機する期間を14日間から10日間に短縮しました。また、18歳以下への10万円相当の給付では、当初、現金とクーポンに分けて支給しようとしていましたが、事務的な経費や手続きの面で批判を受けると全額を現金で一括給付することも容認しました。
ただ、こうした姿勢には野党から、「事前調整ができておらず、ぶれているだけだ」との指摘もあり、この「柔軟」の評価が今後の論点となるでしょう。
【国会論戦は】
さて、論戦の舞台となる今国会に政府が新たに提出する法案は58本。参議院選挙を控え、会期の大幅な延長が難しいとして絞り込みました。出入国管理法の改正案など野党と対立しそうな法案の提出も見送りました。政府・与党は、107兆円を超える過去最大規模の新年度予算案をはじめ、経済安全保障を強化するための新たな法案などを着実に成立させることで実績としたい考えです。
また、岸田総理が掲げる新しい資本主義には、いまだに野党から、「具体性がなく、分かりにくい」という指摘もあり、成長戦略として挙げる「デジタル」や「気候変動」にどう取り組むのか、分配戦略の柱とする「賃上げ」をどう実現するのか、具体的な道筋を明らかにすることが求められています。
野党からは、病床確保のために感染症法の改正の議論は先送りせずに行うべきだとか、与党内からも、新型コロナの法律上の扱いをインフルエンザと同じ程度に引き下げるべきだといった指摘もあり、今後の感染状況次第では論点として急浮上してくることもあるでしょう。
【政治への信頼は】
今国会では政治への信頼性も問われることになります。
1つ目は、国土交通省の統計の二重計上問題です。
国会開会前の今月14日に第3者による検証委員会が、「幹部職員に責任追及を回避したい意識があった」などとする報告書をまとめ、岸田総理は施政方針演説で陳謝しました。野党側は、「組織的に隠ぺいしていたのではないか」などと批判し予算委員会での集中審議を求めています。
【文書交通費】
政治への信頼性が問われるという点では、先の国会で決着できなかった国会議員に支払われる「文書通信交通滞在費」、いわゆる文書交通費の見直しもそうです。
与野党で日割りでの支給には異論がなかったものの、野党側の主張する領収書の写しをつけた収支報告書を公開することで使いみちを明らかにし、使わなかった分を国庫に返納できるようにするという2点で折り合いませんでした。ただ、使いみちの公開はすでに日本維新の会が行っており、国民民主党も法改正を待たずに公開する方針です。
見直しの議論は自民党や立憲民主党など与野党6党が合意した実務者協議の場で行われる見通しですが、公開の基準をどうするのか、使いみちをどこまで明確にするのか、このネット時代にあって月に100万円という金額は妥当なのか、その必要性も含め国民の納得が得られる内容になるのか問われます。
【憲法論議】
また、各党が憲法論議にどう向き合うのかも焦点です。
自民・公明の与党に加え日本維新の会と国民民主党は、毎週、憲法審査会を開くべきだとしており、テーマごとに議論する分科会の設置も求めています。
一方、立憲民主党は必要な議論には応じるものの改憲ありきではなく、国民投票を行う際の広告規制などの議論を優先すべきだとしています。そして、改憲に反対の立場をとる共産党とともに分科会の設置には慎重な姿勢です。
岸田総理は演説で、「国会での積極的な議論を期待する」と述べました。ただ、改憲への意欲が強かった安倍元総理の時には進まなかった議論が岸田総理のもとで進展するのかは不透明です。
【参議院選挙】
最後に参議院選挙に触れておきます。
6月15日までの会期の延長がなければ投票日は7月10日になる見通しです。
政府・与党は、去年の衆議院選挙に続いて参議院選挙でも自民・公明の両党で勝利したい考えです。そうなれば解散がない限り最長で3年間、全国的な国政選挙のない期間を手に入れる事ができます。
対する野党側は、参議院選挙を党勢回復の足がかりにしたいところです。立憲民主党は、野党で改選議席の過半数を獲得するため全国に32ある定員が1人のいわゆる「1人区」で連携を図り候補者の一本化を目指すとしていますが、具体的な調整は進んでいません。一方、日本維新の会は拠点とする関西以外での党勢拡大を目指しています。
【まとめ】
岸田総理は施政方針演説で、「信頼と共感の政治に向けて謙虚に取り組む」と強調しました。持ち味と自負する「聞く力」で難しい課題にも柔軟に対応していく。しかし、重要な課題で方針が二転三転し不安定なかじ取りを繰り返すようなことになれば、そのツケは国民に及びかねません。今国会での与野党の論戦がかみあったものになるのか、それが国民の期待に応えるものなのか、選挙前のアピール合戦に陥ることなく、政治に緊張感を取り戻す決意と工夫が求められています。
(権藤 敏範 解説委員)
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