NHK 解説委員室

これまでの解説記事

急増!宇宙ごみ いま迫られる宇宙のSDGs

水野 倫之  解説委員

今後も宇宙空間を持続的に利用できるのか、宇宙のSDGsが危ぶまれている。
ごみが急増しているから。
去年ロシアの衛星破壊実験で大量の破片がまき散らされ、民間の小型衛星も倍増。やがてごみとなってほかの衛星を破壊し、スマホの位置情報など宇宙インフラに頼る地上の暮らしへの影響が懸念される。
しかし国際的な規制は甘いまま。
そこにビジネスチャンスを見いだしたのが日本のベンチャー。世界初の宇宙ごみ回収へ今年、宇宙実験を繰り返す計画。

▽急増する宇宙ごみの実態と影響
▽民間によるごみ回収の挑戦
▽そして求められる政府の対応は

以上3点から宇宙のごみ問題について水野倫之解説委員が解説する。

j220114_01.jpg

宇宙ごみは打ち上げ後のロケットの部品や運用を終えた衛星などで、宇宙開発に伴い増える一方。

NASAによると監視可能な10㎝以上のものだけで2万3000個以上、1ミリ以上は1億個以上と推定され、ごみがひしめき合っている。
これに加え去年11月ロシアがミサイルで衛星を破壊、10㎝以上のものだけで1500個あまり、ごみが一気に6%増えた。

宇宙ごみが厄介なのは、速いもので時速2万8000㌔で飛び交っていること。
1㎝サイズでもぶつかれば小型車が時速70㌔で衝突する衝撃。

その影響は深刻。
まずは国際宇宙ステーション。
今回衛星破壊の破片が接近するとして滞在中の飛行士が一時、避難を余儀なくされた。
大事には至らなかったが過去4回船外活動をした野口聡一さんは「ごみの衝突は絶え間なく起きている」という。
船外活動で伝う外壁の手すり。15年前はほぼ無傷だったが、去年の船外活動で無数の小さな穴を確認。めくれ上がった金属で手袋が傷つけば宇宙服から空気が漏れかねず「満身創痍になってきた」と話す。

また衛星にとっても脅威。
2009年にはアメリカの通信衛星にロシアの運用を終えた軍事衛星が衝突、2000個以上のごみが出る事故が発生。

そして13機の衛星を運用するJAXAにはごみを監視するアメリカから、毎日数百件の接近情報が寄せられる。
担当者が再計算し危険と判断すれば、ごみとの衝突を避けるため衛星のエンジンを噴射して軌道を変えることを決める。
最近は年5回ほど行い、衝突を回避。観測が中断し衛星のトラブルにもつながりかねないが、担当者は「 1機数百億円の衛星を守るためにやらざるを得ず、ごみ問題の深刻さを肌で感じる」という。

こうした混雑状況に拍車をかける計画も進行中。
アメリカのベンチャー企業など進める小型衛星群。
1回の打ち上げで60機、この企業だけ1600機以上が軌道に投入された。
将来数万の衛星で地球を取り囲み、地球上どこでも高速インターネットが使える次世代の通信サービスを目指す。

ほかにも同じような計画が進行中で、ごみが増えて衛星破壊の連鎖が起こり、天気予報やスマホの位置情報、それに金融取引など宇宙インフラに頼る地上の暮らしに大きな影響が出ることが懸念。

j220114_2.jpg

なぜこうした事態になるのか。
それは宇宙利用の国際的なルールが甘いまま放置されているから。
各国政府が締結し拘束力があるのが宇宙条約で、核兵器などの大量破壊兵器の配備を禁止している。しかしそれ以外の兵器の細かい規制はなく、中国やアメリカ、インドも過去に破壊実験を行った。
また衛星の運用については、各国の宇宙機関による組織が、運用終了後25年で大気圏に突入させるなどしてごみにしないことを求めるガイドラインを定める。
しかしまじめに取り組む国は多くない。
法的拘束力がない上、大気圏に突入させるには燃料噴射が必要で衛星の寿命がかなり短くなってしまうからで、規制強化には各国とも及び腰。

こうした状況に危機感を覚え、ビジネスで解決しようとしているのが東京・墨田区のベンチャー企業。
専用の衛星による世界で初めての宇宙ごみの回収業を目指す。
ごみ問題の深刻化で投資家からも注目も集め、300億円以上を調達、社員も250人に増えた。JAXAや大手企業からの転職者もいるという。

j220114_3.jpg

会社では、まずごみの回収を実証する衛星を開発。磁石を内蔵しごみとなった衛星などにくっついて捕獲、大気圏に突入させて処分。
去年打ち上げ、模擬となる静止したごみの捕獲実験に成功。この分野で世界をリード。
ただ実際の宇宙ごみは回転しており、捕獲のタイミングがずれればはじき飛ばされる危険。そこでセンサーで回転を計測しごみに合わせて自分自身を回転させながらドッキングするシステムを開発。今年、回転する模擬のごみを捕獲する実験を繰り返し、衛星を量産化する計画。
衛星を多数運用する会社から、故障した衛星の除去の相談が寄せられているということで、数年以内の実用化を目指す。
岡田CEOは「日々の地球上の暮らしはものすごく人工衛星に頼っています。例えばGPSとか。地球上の暮らしを持続可能にしようと思ったら宇宙の活動も持続可能にしなければいけません。
宇宙を使い続けようと思ったらごみはずっと出てくるので継続的に除去する人が必要で、それはビジネスとして回さなければいけない。それをやるのは私たちだと思ってます。」と話す。

国内ではほかにも、宇宙ごみにレーザー光をあてて動かし除去する衛星の開発を進める動きも出ており、こうした民間の試みがうまくいけば、宇宙のSDGsへ期待も高まる。

ただビジネスとして成立するには、企業の技術力に加え、衛星やロケットの所有者がごみの除去を迫られ、サービスを依頼せざるを得ない状況を作ることが必要。
それには宇宙利用の規制を一段と強化しなければ。

j220114_4.jpg

そのためにも日本の政府が積極的に対応することが求められる。
政府は、低軌道の政府衛星については、国際的なガイドラインが求める運用終了後25年を待たず、できるだけ早く大気圏に突入させる方針を決めてはいる。
ただその具体策までは決まっておらず、実際に突入させた例はまだない。

自ら燃料を噴射する方法もあるが、衛星寿命が短くなる欠点。
そこであらかじめ民間の除去衛星が捕獲しやすいように、例えば磁石やレーザーに反応しやすい設計にしておき、運用終了後速やかに除去を民間に依頼することも選択肢。
このように衛星をごみにしないための設計基準を早急に定めて、まずは政府の衛星への適用を検討していく必要がある。
さらに重要なのはその実績をもとに、国際的な宇宙利用の規制強化の議論を日本が主導していくこと。日本の設計基準が採用されるよう各国に働きかけ、日本の民間が除去ビジネスしやすい環境をつくっていかなければ。

宇宙のごみ問題は地球温暖化の問題と似たところあり。
今ただちに宇宙が利用できなくなるわけではないが、このまま増えればその影響はじわりじわりと、確実にきいてくる。
破壊の連鎖で宇宙が利用できなくなる前に、温暖化対策のように国際的なあらたなルール作りを急ぎ、宇宙空間の利用を持続可能にしていくことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

関連記事