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世界経済に減速懸念 2022年の課題

櫻井 玲子  解説委員

ことしの世界経済は減速する、そんな見方が早くも強まっています。
アメリカと中国の景気が停滞し、変異ウイルスの感染拡大や、物価の上昇といった懸念が、根強く、残るからです。
きょうは世界的な3つのリスク、すなわち、
▼「成長エンジン不在」の世界経済
▼予想以上の物価上昇と、アメリカの金融政策の転換
そして▼不透明な米中関係、について考え、日本にとっての課題を探っていきます。

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まずは世界銀行が11日に発表した、最新の見通しです。

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ことしの世界の経済成長率は、去年の5.5パーセントから4.1パーセントに大きく減速。
来年も3.2パーセントと、今後、2年にかけて勢いを失っていくと予想しています。
ワクチンの普及などですすんできた景気回復が一服する一方で、変異ウイルスの感染拡大、物流網の混乱、それに食料やエネルギー価格の高値は、当面、続くとみられるからです。
このうち、
▼アメリカは去年の5.6パーセントからことしは3.7パーセントに急減速。来年は2.6パーセントになる予想です。
▼一方、中国も、ことし来年と、いずれも5パーセントあまりの成長率にとどまると、見込まれています。
▼またコロナ前は、高い成長をみせていた新興国や途上国は、今後2年間、4パーセント台の比較的低い成長にとどまる見通しです。主要国の景気減速と、コロナワクチンの接種の遅れの影響で、体力の弱い国にしわ寄せがいく形です。
▼そして、肝心の日本は、ことしこそ、2.9パーセントと、去年にくらべて回復をみせるものの、来年は1.2パーセントまで再び減速する、という見通しです。
いずれの年も、欧米、それに中国などとくらべ、弱い成長であることに、変わりはありません。

【成長エンジン不在の世界経済】
さて、こうした数字から浮かび上がるのは、世界経済を強く牽引する「成長エンジンの不在」です。

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▼というのも、力強い景気回復をみせてきたアメリカは、大盤振る舞いともいえる政府の財政出動もあって、追加対策を打つ余地が少なくなり、景気を支えてきた消費も、陰りを見せるのではとみられているからです。
▼一方、中国も、GDPのおよそ3割をも占める、不動産セクターの不振に伴い、個人消費や地方政府の支出の減速は避けられそうにありません。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少といった、構造的な問題もあり、昔のような伸びは期待できないとみられています。
▼そして、もう一つ注目すべきは、世界の債務・つまり借金の増え方です。
各国のコロナ対策費の膨張で、世界の債務は日本円にして2・6京円と、過去最大になり、その対GDP比率は、256パーセントにまで膨らんでいます。積極的な財政政策を行う余裕がある国は少なくなり、各国の中長期的な成長にも影響を与えそうです。

【予想以上の物価上昇と米金融政策の転換】
このように世界経済の低空飛行が見込まれる中、世界の政府や中央銀行関係者を今、最も悩ませているのが、予想以上のインフレ・物価上昇です。

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異常気象などによる天候不良で食糧価格が上がり、巣ごもり需要の増加や物流の混乱で、半導体や電子部品が不足。
また「脱炭素化」の動きを受けて原油や石炭といった化石燃料の生産や新規投資が減り、エネルギー価格も高どまりしています。
カザフスタンでは、燃料代の引き上げに対する怒りがきっかけで大規模な抗議デモが起き、トルコでは市民がさらなる値上げに備えてトイレットペーパーを買いだめに走るといった事態も伝えられています。

この中で特に世界経済全体に影響を与えそうなのがアメリカの動きです。

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最新の消費者物価は前の年の同じ月とくらべて7パーセント上昇し、およそ39年ぶりの高い水準となりました。景気の炎を絶やさないようにと、大規模な財政出動や、事実上のゼロ金利政策といった薪を集めて、くべていたら、炎が大きくなりすぎた、といった状態です。
アメリカの中央銀行にあたるFRB・連邦準備制度理事会のパウエル議長は11日、景気を支えるための「積極的な金融緩和策はもはや必要ない」と述べ、事実上のゼロ金利政策を年内に解除する考えを明らかにしました。早ければ3月にも利上げに動くのではとみられています。景気の落ち込みを防ぐことよりも、インフレの火消しを優先し、金融の引き締めを急ぐ考えです。

ただ、この動き、アメリカ国内外の景気を冷やす可能性があります。

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まずアメリカ国内への影響ですが、金融政策の縮小で、物価の上昇は抑えられても、企業や個人がお金を借りる金利もあがって、景気の勢いも削がれてしまい、消費や雇用が冷え込むおそれもあるのです。
また、アメリカの金融緩和策は国内だけでなくその潤沢な資金が新興国などにもまわり、世界経済を支えてきた一面があります。
しかし、アメリカが利上げをすすめれば、各国に流れ込んでいた資金がアメリカに戻っていき、これまでより利回りが期待できるドルを買う動きが強まって、ドル高と新興国の通貨安がすすみそうです。
このため、IMF・国際通貨基金は今週、「アメリカの急速な利上げは新興国の資金流出や通貨下落につながるおそれがある」として新興国に備えを呼びかける書面を公表しています。

そして日本も、さらなる試練を迎えるかもしれません。

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すでに今、食品や電気・ガス料金が値上がりする中、ことし4月以降には物価全体の上昇率が一時的に2パーセントをうわまわる局面も予想されます。アメリカの利上げが加速されれば、ドルが高くなって円安がすすみ、国内の物価高も一段とすすむことが考えられます。海外からの輸入に大きく頼る日本ですが、企業の業績から私たちの家計にまで、マイナスの影響が及ぶ可能性があります。

【不透明な米中関係】
最後に、世界経済の懸念材料となってきた米中両国の対立についても、簡単に触れたいと思います。

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ことしの秋には、アメリカは議会の中間選挙が、中国は習近平主席が異例の3期目続投を決めたい5年に一度の共産党大会を控え、米中間の経済面での動きもそれまでは様子見か?といわれてきました。実際、バイデン政権がガソリン価格の高騰対策として強く働きかけた、各国協調での原油の備蓄放出には、中国も足並みを揃えてみせました。その見返りとして、中国製品に対する関税引き下げを期待する動きもあったようです。実現すれば、インフレに悩むアメリカにとっても製品の値下げにつながり、両国にメリットがあると、中国側は考えていたふしがありますが、米中の覇権争いがやまない中、歩み寄りは遠のいているようにもみえます。
日本はこのような情勢も踏まえ、たとえコストが増えたとしても自らが必要としている物資をどう安定的に確保するか、考えなければならない局面にきています。

各国が手厚い財政出動と超低金利政策で景気を支えてきた「カネ余りの時代」。
そしてグローバル化の恩恵を受けてヒトとモノが自由に国境を越え行きかう時代は、転換点を迎えようとしています。
日本はこうした中、次の経済成長の糧をどこに求めるのか、そして政府はどうやって人々の暮らしを守るのか、重い課題、がのしかかっています。

(櫻井 玲子 解説委員)

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