令和4年、2022年の日本の政治はどう動くのか。政治決戦となる夏の参議院選挙を中心にことしの政局を展望します。
【オミクロン株、第6波への厳重警戒】
ことしの日本政治にとって、新型コロナ対応が、引き続き最大の課題であることを年明けから思い知らされた形です。新たな感染の確認は、5日に、沖縄県で623人、東京都で390人。オミクロン株の市中感染とみられるケースが各地で相次ぎ、第6波への厳重な警戒が続いています。
岸田総理大臣は、4日、年頭の記者会見で「水際対策の骨格を維持しつつ、国内対策に重点を移す準備を始める」として、予防・検査・早期治療の体制を一層強化する考えを明らかにしました。また、立憲民主の泉代表は、年頭会見で、「在日アメリカ軍関係者の検査などが問題視されている」として、日米地位協定の見直しに関する党の主張や政策を改めてまとめるよう指示したことを明らかにしています。
今後は、病床の確保に加えて、オミクロン株の感染が急拡大している地域では、宿泊施設や自宅で療養する人が増えるとみられることから、症状の変化などを的確にフォローできる体制づくりが急務となります。
一方、ことしは日本経済の立て直しにも取り組まなければなりません。厳しい状況に置かれた人や事業者への支援が十分に届いているかどうか。経済を安定した成長軌道に乗せるための対策、ポストコロナをにらんだ構造改革にも着手する必要があります。これまでの感染対策と経済対策にどのような効果があり、どこを見直すべきなのか。この2年間をしっかりと検証し、新たな対策の必要性を明確に説明する発信も求められ、参議院選挙でもコロナ対応が大きな争点になりそうです。
【参院選へ与党は】
その参議院選挙。通常国会は今月17日に召集される方向で、6月15日までの会期の延長がなければ、7月10日が投票日となる見通しです。
参議院選挙は、衆議院選挙と違って、「政権選択」の選挙ではありません。しかし、政治の流れを先取りし、選挙結果の責任をとって総理大臣が退陣したり、衆参で多数派が異なるいわゆる「ねじれ」状態が長く続いたりしたこともありました。
与党の自民・公明両党は、非改選を含めて過半数を維持し、政権基盤を安定させたいとしています。公明党は党独自の政策実現のためにも、党勢を拡大したところです。
また、岸田総理にとっては、去年の衆院選に続いて、参院選でも勝利すれば、政治日程に余裕がでてきます。岸田総理の自民党総裁の任期は、令和6年、2024年9月末まで。翌2025年夏に参議院選挙、秋に衆議院議員が任期満了を迎えますから、衆議院の解散がなければ3年間、全国規模の国政選挙の予定はありません。
国会での安定した勢力を背景に「新しい資本主義」など、「長期政権」をも意識した中長期的な課題に取り組みながら、衆議院の解散のタイミングを探り、自民党総裁の再選戦略を練ることが可能になるわけです。
逆に、議席を大きく減らせば、こうしたシナリオは成り立ちません。岸田総理を支持してきた党内の主要派閥から人事の刷新を含めて要求が強まったり、総理との距離を置く勢力が出てきたりする可能性もあり、求心力の低下は避けられません。
【参院選へ野党は】
では、野党側は、参議院選挙にどう臨むのでしょうか。
立憲民主党の泉代表は、野党で改選議席の過半数の獲得を目指すとしています。そのために課題となるのが、全国に32ある定員が1人のいわゆる「1人区」での候補者の一本化で、共産党などとの協力をどのように進めるかです。共産党は「市民と野党の共闘をすすめる」としているのに対し、立憲民主党内には、共産党と距離を置くべきだという意見が根強くあります。また国民民主党は、定員が2人以上の「複数区」に加え、「1人区」にも積極的に候補者の擁立を目指しているほか、れいわ新選組も積極的に候補者の擁立を検討しています。さらに立憲民主党などとは一線を画す日本維新の会は、「複数区」で積極的に候補者を擁立し、拠点とする関西以外の地域での勢力拡大を目指しています。与野党の対決という点で「1人区」では協力を探り、「複数区」や「比例代表」では競い合うところに、参院選に臨む野党側のむずかしさがあります。
【通常国会での論戦】
野党側は、参議院選挙に向けて、存在感を示すため、通常国会での論戦を重視し、積極的に政策を提言していくものとみられます。一方で、先の臨時国会で決着できなかったいわゆる文書交通費の見直しとともに、国土交通省の統計の二重計上問題や公明党の衆議院議員だった遠山元財務副大臣が在宅起訴されるなど政治とカネをめぐる問題はなぜ繰り返されるのか。さらに森友学園に関する財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した職員の妻が起こしていた裁判を国が終わらせる手続きを取り、裁判を通じて真実を明らかにするよう求めてきた遺族の憤りをどう受け止めるのか。野党側が、政策提言と政権の監視の両立をどう考え、政府・与党側が、こうした問題に、どういう姿勢で臨むのかも、通常国会の大きな焦点だと考えています。
【参院らしさは】
参議院選挙に関連して考えたいのは「参議院らしさ」です。参議院は、衆議院のカーボンコピーなどと揶揄され、これまで様々な独自の改革に取り組んできましたが、解散がなく、6年間の任期がある特性が生かし切れていないように感じています。時間をかけて、人口減少など中長期的な課題を検討し、解決策を見出していく。コロナ禍で浮き彫りになった孤独・孤立・自殺対策などで、政府が取り上げにくい人々の声を掘り起こし、党派を超えて議員立法を目指す。
また、「良識の府」にふさわしい多様な人材をどれだけ増やせるかも課題です。参議院の女性議員の割合は23%。参院選の比例代表に、前回の選挙から導入された、政党が優先して当選する順位を決められる「特定枠」の活用を含め各党の取り組みが問われています。
【区割り見直しが火種にも】
ことし参議院選挙とともに政界が注目しているのが、衆議院の小選挙区の区割りの見直しです。衆議院選挙の各都道府県に割りふられる小選挙区の数は、法律によって、おととしの国勢調査の結果にもとづき、東京など5つの都と県で、あわせて10増え、10の県で1つずつ減る「10増10減」となります。
具体的な区割りの見直しは、政府の審議会が、6月25日までに勧告することになっています。これについて、自民党内からは、「議員が減る地方の声が届かなくなる」などとして、「10増10減」を見直すべきだという意見がでています。勧告通り「10増10減」が実現したとしても、小選挙区が減る県のうち4県は自民党が小選挙区の議席を独占し、ベテラン議員も多くいます。議席が増えるところを含めて選挙区が分割されるなど区割りの見直しの影響は大きく、候補者の調整は難航が予想され、自民党内で新たな対立の火種になりかねないという見方も出ています。
【沖縄の選挙は国政に影響も】
ことしの地方選挙では、5月15日に本土復帰50年を迎える沖縄県で、今月、アメリカ軍普天間基地の移設先、名護市の市長選挙。秋には、沖縄県知事選挙もおこなわれる予定です。政府と沖縄県の対立が激しくなる中、基地負担の軽減や地域の振興策などをめぐって県民がどう判断をするのか、国政にも大きな影響を与える選挙になります。
新型コロナの感染者の急増、北朝鮮による弾道ミサイルと見られるものの発射は、ことしも国の内外に多くの重要な課題が山積していることと国民の命と暮らしを守る政治の役割の大きさを示しています。
3年前の参議院選挙の投票率は、48.80%と50%を下回り、戦後の国政選挙で2番目の低さでした。政治の役割の大きさの実感を投票率に象徴される政治への参加意識の向上につなげられるのか、各党、各政治家の姿勢が、いまから問われることになります。
(伊藤 雅之 解説委員)
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