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玉城知事"最後のカード„? 辺野古移設 対立再び激化

田中 泰臣  解説委員

沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり、政府と沖縄県の対立が再び激化します。移設阻止を掲げる玉城知事が、防衛省が申請していた設計変更を承認しない決定をしたからです。知事にとって「最後のカード」とも言われる、この決定がどのようなものなのか、そして移設にどのような影響を及ぼすのか考えたいと思います。

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《不承認でどうなる?》

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今回の決定。根拠となっているのは、公有水面埋立法という法律です。埋め立てや、工事の内容を変更する場合は知事の承認を得なければならないと規定されています。埋め立てそのものは、移設を容認する仲井真元知事が承認しました。しかし、移設阻止を掲げる玉城知事の就任後、工事の内容を変更する必要が出てきました。埋め立て予定海域に地盤を強化する改良工事が必要な軟弱地盤があることが明らかになったからです。防衛省は去年4月、変更の申請をしました。

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黄色の部分が、その改良工事が必要になる所です。
海底に7万1000本の杭を打ち込み地盤を強化する予定ですが、今回、不承認となったことで、それが覆らないかぎり、その工事には着手できません。防衛省は現在、軟弱地盤ではない赤色の部分で埋め立て工事を進めています。それ以外の所、埋め立て予定面積の70%以上で埋め立て工事ができない可能性が出てきたことになります。

《不承認の根拠》

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今回、沖縄県が不承認とした根拠。その1つが、軟弱地盤が最も深いとされる地点の調査をめぐるものです。沖縄県は、その上に護岸を設置する予定なのにもかかわらず地盤の調査が不十分で防災上問題があるとしています。
防衛省は、現段階では「不承認の理由を精査する」としていますが、これまでは、近くの同じような地層の3つの地点で調査を行っていて、それで十分だと説明しています。不承認の根拠は他にもありますが、主なものは、防衛省と沖縄県の主張が食い違っているのが明らかです。

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岸田総理大臣は国会で「普天間飛行場の1日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進める」と明言しています。政府が対抗措置を講じるのは、確実と見られます。

《最後のカード?》

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今回の不承認、玉城知事にとって「最後のカード」とも言われています。それは、これまで講じてきた策が、ことごとく跳ね返され、工事を止める有効な手だてが、ほぼ残っていないからです。この問題をめぐって法廷闘争にまでなったのは9つ。そのうち4つで沖縄県の敗訴が確定。あとの4つは和解が成立するか、沖縄県が訴えを取り下げ、係争中は1件です。
一方の今回の不承認。申請から決定まで1年7か月かかっています。規模は違うものの、仲井真知事の時に変更申請が行われた時は3か月で承認しているので、いかに長いかが分かります。沖縄県は、申請に関連して防衛省に対し4回にわたって、あわせて452の質問を行い、回答を求めました。もちろん厳正に審査するというのはあったと思いますが、結論を引き延ばしたかった意図もうかがえます。移設の阻止を掲げて就任した玉城知事からすれば、「最後のカード」も仮に対抗措置によって覆れば求心力の低下は避けられないため、慎重にタイミングを見計らったのではないでしょうか。

《対抗措置は?》
では政府は、どのような対抗措置を講じようとしているのでしょうか。

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政権幹部の1人は「これまで行った措置も踏まえていくことになるのではないか」と話しています。考えられる1つは、工事の事業者である沖縄防衛局が法律を所管する国土交通大臣に、不承認の決定の取り消しを求める審査請求を行うというものです。これは過去にも別の沖縄県の対抗策に対して行い、その時は訴えが認められました。ただ今回は認められたとしても、不承認が取り消されるだけで承認を得たことにはなりません。
そこで考えられるのが、国土交通大臣が玉城知事に承認するよう指示を出すというものです。これも過去に行っています。去年2月、埋め立て予定海域のサンゴの移植を許可するか判断しない沖縄県に対し、法律を所管する農林水産大臣が許可するよう指示しました。法廷闘争に発展し、今年7月最高裁判所で沖縄県の敗訴が確定しました。指示からそこまで1年4か月。今回の不承認をめぐっても政府と沖縄県の対立は長期にわたることが予想されます。

《返還はいつに》
仮に政府の訴えが認められたとして、移設工事は、いつ終わるのでしょう。

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防衛省は、改良工事に着手してから工事が終わるまでに9年あまり。
整備などで3年と、あわせて12年ほどかかるとしています。ということは、法廷闘争などを経て政府の訴えが認められ、すぐに工事に着手したとしても工事が終わるのは2030年代半ば。それまでは普天間基地が使用されることになります。
また工事にかかる費用の問題も指摘したいと思います。当初3500億円程度としていましたが、改良工事や工期が延びたことで今は9300億円に上るとしています。その財源はすべて日本側の負担です。税金によって工事が進められるという点でも、私たちは自分たちの問題として考えるべきだと思います。

《唯一の解決策?》

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これだけの時間と費用がかかる辺野古への移設。政府が言うように、「唯一の解決策」なのでしょうか。防衛省は一貫して、沖縄が東アジアの各地域や日本のシーレーンに近く、抑止力を維持する必要があることなどを、その理由にあげています。また政府関係者の1人は「辺野古への移設は、日米両政府が政治の力で決めたものでアメリカ軍の中には、普天間基地にとどまっても良いとの考えもあり、移設をご破算にすれば普天間基地が固定化しかねない」と話します。これに対し沖縄県は、軟弱地盤の問題に加えて「大規模で恒久的な新基地建設は合理的ではない」と主張しています。これは、アメリカの海兵隊が中国のミサイル能力向上などに対抗するため部隊の分散化を進めていることを踏まえたもので、今の安全保障環境上も移設はそぐわないとの主張です。安全保障面でも「唯一の解決策」なのか、その必要性はコストに見合うものなのか、安全保障政策を一手に担う政府には納得のいく説明が求められると思います。

《来年は政治決戦》
この移設問題、来年は、政治的な面でも山場を迎えます。

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1月には、移設工事が進められている名護市の市長選挙。そして夏の参議院選挙を経て、秋には天王山と言える、県知事選挙が予定されています。玉城知事からすれば、先の衆議院選挙で小選挙区の議席を減らすなど、支持勢力の退潮も指摘される中、今回の不承認の決定で、いま一度移設反対の機運を高めたいとの思いがあると見られます。一方で与党側は、県知事選挙で、玉城知事を破れば、対立は一気に解消するとの思いで臨むと見られます。県民の支持を得るための攻防も激しさを増すことになりそうです。

菅内閣から、「聞く力」をアピールする岸田内閣に変わっても政府と沖縄県の対立の構図は変わりません。市街地の中心部にあり「世界一危険」とも言われる普天間基地。先月、離陸直後のオスプレイから水筒が住宅の敷地内に落下し、地元では抗議の声があがりました。普天間基地の一刻も早い返還という一点では、政府と沖縄県は一致しています。来年は沖縄の本土復帰から50年の節目でもあります。対抗策の応酬ではなく、双方がその機会をとらえて、解決の糸口がないのかを探る努力をしてほしいと思います。

(田中 泰臣 解説委員)

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