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みずほ 相次ぐシステム障害の"真因"

関口 博之  解説委員

みずほ銀行は今年2月から9月にかけて8回ものシステム障害を起こしました。
ATMが使えず、カードや通帳がATMから取り出せなくなったり、店舗の窓口で振り込みや入金ができない状態になったりしました。
金融庁は「社会インフラを担う金融機関としての役割を十分に果たせず、日本の決済システムへの信頼性を損ねた」として先週、みずほ銀行と親会社のみずほフィナンシャルグループに業務改善命令を出しました。
みずほは、来年1月までに改善計画を出さなければなりません。
この問題の“真因”を探り、何を正すべきかを考えます。

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金融庁の処分を受け、みずほフィナンシャルグループの坂井社長とみずほ銀行の藤原頭取が来年4月に辞任することを決めました。
また長年、経営トップを務めた佐藤会長も会長職を4月で退任し、首脳3人が揃って退く事態となりました。
ただこれで一件落着ではもちろんなく、再生はむしろこれからが茨の道です。

今回、金融庁は8か月に及んだ検査を踏まえて、みずほのシステム障害の真因・真の原因について4つのポイントを挙げました。

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まずは ▽システムにかかわるリスクと専門性の軽視。
そして ▽IT現場の実態の軽視です。
経営陣がシステムのリスクを十分把握せず、専門人材を適材適所に置いていないことや、そもそも現場実態をわかっていないことを問題視したのです。

みずほでは、おととし、2019年に銀行業務の基幹を担う新システム、「MINORI」(みのり)を稼働させました。
「開発の段階」にはこの準備に多くの要員が加わりましたが、その後、本格稼働が始まって「保守・運用という段階」になると、みずほは要員を6割減らしたとされています。
あわせて維持・メンテナンスの経費も削ったことから、システムの運営態勢が弱体化したというのが、金融庁の見立てです。

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背景には、みずほフィナンシャルグループの坂井社長が進めた構造改革がありました。
就任後、5か年計画で掲げたのは「次世代金融への転換」。
そこには新しい時代のニーズにあわせ、ビジネスを変えていく構造改革に加えて、組織や人員のスリム化という意味での構造改革も含まれていました。
その結果、従業員は、2017年のおよそ8万人から1万1000人もすでに減っていますし、およそ500あった支店等も108か所減らしました。
コスト削減が強く意識される中、新システムへの切り替えが終わるとIT要員は配置転換され、資金も十分には配分されなくなっていきます。
みずほの業績は効率化で上向いたものの、こうした構造改革がシステム障害につながる「落とし穴」になっていったのです。

金融庁が挙げた真因・真の原因の3番目は、▽顧客への影響に対する感度の欠如です。
これは、みずほ銀行のATMの80%が使えなくなった2月のケースでも明らかでした。
ATMからカードや通帳が取り出せなくなった利用者が、長時間待たされる事態になったのです。
銀行のスタッフと連絡もとれないまま、寒い中、待つしかなかった利用者の気持ちを分かっていないと、批判を浴びました。

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そして金融庁が指摘した最後の点は、みずほの企業風土についてでした。
▽言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢が問題だとされたのです。
みずほは統合直後の2002年、そして2011年にも大規模なシステム障害を起こし、その都度、再発防止と改革を誓ってきたのに、また繰り返されました。
そこには根深い企業風土の問題があると見たのはある意味、当然です。
実は、同じような指摘は、今年6月の段階で第3者調査委員会が出した報告書にも見られます。そこでは、「積極的に声を上げることでかえって責任問題となるよりも、自分の持ち場でやれることはやっていた、といえる行動をとる方が、合理的な選択になるという企業風土」だと言っています。
異変や問題に気づいても積極的に声を上げない、自発的に動こうとしないこうした内向きの姿勢、あるいは事なかれ主義が、相次ぐトラブルの背景にあると言わざるをえません。

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みずほに厳しい目を向けているのは金融庁だけではありません。
相次ぐトラブルに、口座を解約する個人顧客も出てきているということで、顧客離れが懸念されます。
もう一つは、海外からのみずほへの厳しい目です。
9月に外国への送金システムに障害が起きた際、送金先がマネーロンダリング=資金洗浄にかかわりがないか、確認が不十分だったことも明らかになり、財務省が外為法に基づく是正措置命令を出しました。
みずほでは、不正送金がなかったことは事後的に確認したとしていますが、海外からみれば、日本はマネーロンダリングに甘い、十分な体制がとれていないと、評判を落としかねない問題です。
ルールの逸脱という意味では、こちらの方が罪が重いという見方もあります。
みずほの再出発には、システムの安定稼働とともに、顧客だけでなく、海外当局、国際金融業界からの信頼回復をはかることも不可欠です。

ここからは、今後のみずほに何が求められるのかを改めて考えます。

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真っ先に取り組むべきは、再発防止策を速やかに見直すことです。
みずほでは「一切の予断なく、第三者の専門家の目も入れて、再発防止策の徹底した見直しを行う」としています。

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焦点の一つは、みずほが4500億円をかけて整備した今の基幹システム「MINORI」です。
みずほでは一貫して、「MINORI」のハードやソフトそのものには問題はないとしています。
その仕組みをみると、預金や送金、外国為替、信託など業務分野ごとに動かすシステムが独立し、分かれているのが特徴です。
こうすることで、もし一部に不具合が起きても全体が止まってしまうのを防ぐ仕組みになっているといいます。

しかし、一方ではこうした設計のため、それぞれ、部分ごとに違う大手IT企業が分担していて、かえってシステムが複雑になっているという指摘もあります。
予断なく再発防止策を考えるというなら、この「複雑さ」をそのままにしておいていいのか、も検討課題にすべきです。

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そして再発防止策と並ぶ、もう一つの柱が企業風土の改革です。
そもそも元の3つの銀行、日本興業銀行・第一勧業銀行・富士銀行のいわゆる「旧行意識」も残っていると指摘され続けてきました。
企業風土を変えるのが容易でないのは確かです。
ただ、さきほど挙げた内向きの姿勢や事なかれ主義など、問題点はもう、あぶり出されているわけで、改革に必要なのは何より経営トップの姿勢、トップが経営の優先順位を何に置いているかを明確にすることです。

経営論や会計監査の世界ではこれを「トーン・アット・ザ・トップ」といいます。
トップから聞こえてくる声といった意味です。
意識改革をトップが言い続け、組織にしっかり定着させることが新しい経営陣に託される最大の責務です。

大規模なシステム障害を、なぜみずほだけが何回も起こすのか、多くの人が繰り返しもってきた疑問です。
今回、金融庁は「自浄作用が十分機能していない」と切り捨てました。
今までになく厳しい当局の態度だと言えます。
これまで続投する姿勢を見せていた坂井社長も、ここに至ってやっと「辞任やむなし」となったとされています。
危機感はみずほに伝わっているでしょうか、今度こそ危機感をもって、生まれ変わる必要があると思います。

(関口 博之 解説委員)

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