アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席が首脳会談を行いました。米中両国は、本格的な競争や厳しい対立が衝突に至る事態を回避できるでしょうか?米中双方の視点から分析し、今後の行方を探ります。
解説のポイントは3つ。
▼会談に成果はあったか
▼次に台湾問題
▼そして今後の米中関係です。
髙橋)
初のオンライン会談は3時間を超えました。しかし、台湾や人権など双方の基本的立場が異なる多くの問題に進展は見られませんでした。
会談を持ちかけたのは、アメリカ側でした。対立がエスカレートして制御不能となれば、双方が意図せぬ衝突すら起きかねないと心配したからです。
まず、中国側は会談をどう評価しているのでしょうか?
石井)
習近平国家主席は、冒頭、「互いに尊重して、平和的に共存し、協力してウィンウィンの関係を築くべきだ」と述べました。中国は、国内経済の減速が鮮明になる中、アメリカとの関係は良い方向に持っていきたいと考えていて、今回の会談について、「率直で、建設的で、実質的だった」と評価しています。
髙橋)
いまの米中関係を峠道で先を争う2台の車に喩えてみました。
バイデン政権は、中国に対する姿勢を▼競争(Competition)▼協力(Cooperation)▼対決(Confrontation)そうした英語の頭文字“3つのC”に分類します。
アメリカ側が会談で重視したのは、双方の激しい競争で、車同士が衝突したり谷底に転落したりするのを防ぐため、共通認識に基づく「ガードレール」を作ることでした。両国には、気候変動対策など、協力可能な分野はあるものの、安全保障や台湾、人権など、対決せざるを得ない問題を抱えていることから、首脳同士の意思疎通によって、危険を未然に防ぐ認識を一致させようと言うのです。
コースを外れないよう双方が進む先をコントロールする。それが、バイデン大統領が会談で習主席に呼びかけた“責任ある競争”です。
石井)
中国の立場は、「アメリカとの間に違いはあるが、共通する利益も多い」というもので、会談で、習主席は、その「共通の利益」を訴えました。中国は、アメリカと違いはあっても、互いを尊重しようという考えです。走る方向つまり環境対策など「共通の利益」が同じであれば、衝突は避けられると言うのです。
ただ、新疆ウイグル自治区や香港などに対するアメリカの対応をみて、「『自由』『人権』『民主』を口実に、内政干渉している」などと、強く反発しています。領土や主権、それに中国共産党の一党支配体制を揺るがしかねないことなどに、アメリカが手を出そうとしていると、強く警戒しています。
髙橋)
さて、最も懸念されるのは、軍事衝突にも発展しかねない可能性をはらんだ台湾問題です。バイデン大統領は、「中国による一方的な現状変更の試みに強く反対した」としています。中国側は、どう主張したのでしょう?
石井)
会談で習主席は、台湾について原則的な立場をあらためて主張しました。会談を前に、アメリカが台湾への関与を強めているとみられることが相次いだからです。
まずバイデン大統領が、台湾が攻撃された場合、アメリカは防衛する責務があるとも受け取れる発言をしました。また、ブリンケン国務長官が、国連機関の活動に、台湾が参加することを認めるよう国連加盟国に支持を呼びかけました。さらに、アメリカ軍が台湾に派遣され、台湾軍の訓練を支援していることも公然となりました。
中国は、「ひとつの中国」の原則に基づいて、台湾は主権に関わる絶対に譲ることのできない「核心的利益」だとしています。会談では、「台湾海峡は新たな緊張に直面している。台湾当局はアメリカを頼って、独立を図ろうとしているのに加え、アメリカの一部の人たちが台湾を利用して、中国を抑え込もうとしている」とけん制しました。
習主席は、「全国民の共通の願いだ」と述べ、中台統一をめざす考えも示しました。中国は、平和的な統一をめざすとしていますが、台湾への威嚇とも受け取れる軍事的圧力を強める姿勢は変わらなそうです。
髙橋)
台湾問題で、アメリカの歴代政権は“あいまい戦略”をとってきました。中国が台湾に侵攻した場合、アメリカは軍事介入するかも知れないし、しないかも知れない。そうした意図を敢えて“あいまい”にしてきたのです。
起源は米中が国交を正常化した1979年に遡ります。この年、アメリカで制定された法律「台湾関係法」は、「平和手段以外で台湾の将来を決定しようとする試みは、いかなるものであれ、地域の平和と安全に対する脅威だ」と明記し、台湾の自衛のための兵器供与や、台湾に危害を加える行為にアメリカが対抗能力を維持することが盛り込まれています。
しかし、アメリカによる台湾の防衛義務は定められていません。この“あいまいさ”によって、中国の台湾侵攻だけではなく、台湾の一方的独立も抑止する狙いがあったからです。
バイデン政権もこの“あいまい戦略”を踏襲しています。しかし、いま中国は軍事力も経済力も巨大化し、もはや抑止できないのではないか?そうした議論はすでに始まっています。
今回の会談でも、米中の主張は平行線を辿り、ガードレール設置には踏み込めませんでした。このため、今後の中国の台湾への出方次第では、アメリカも“あいまい戦略”を見直す可能性が出てくるかも知れません。
では、今後の米中関係です。まず、中国側の見通しについて、石井さん?
石井)
いま習近平国家主席は、来年2月から始まる冬のオリンピック・パラリンピックを、何としても成功させなければならないと考えているはずです。習主席にとっては、来年の中国共産党大会で、党のトップを続投し、異例の3期目を目指すためにも、オリンピックの成功は、何としてでも必要です。
ただ、北京オリンピックを巡っては、「新疆ウイグル自治区、香港などで、人権侵害が行われている」として、欧米を中心に開催地の変更やボイコットを求める動きが相次いでいます。
先進国などを中心に17の国と地域で行った中国についての意識調査では、「中国に対し否定的な見方の割合」が、アメリカや日本、台湾など15の場所で半数を超え、影響力のある先進諸国の支持をどのように得るのかが課題です。
中国共産党は、経済成長を通じて、国民からの求心力を維持してきました。これまで成長を支えてきたアメリカとの競争が激しくなれば、どのように国民に豊かさを実感させ続けるのか、習近平指導部は、みずからの威信をかけ方針を示す必要が出てきそうです。
髙橋)
一方、バイデン大統領は、この日、米中首脳会談に先立って、超党派で可決した総額110兆円規模のインフラ投資法案に署名。ここでも中国への競争意識をのぞかせました。
(バイデン大統領の発言)「この法律により来年はこの20年で初めて、アメリカのインフラ投資の伸びが中国を上回るだろう」
就任300日を迎えたバイデン大統領は今、支持率が低迷しています。政権運営は議会に左右され、その議会は今、党派の違いを超えて、中国には厳しい姿勢で臨むことがコンセンサスになっています。議会の中間選挙を来年に控えて、バイデン大統領は、中国に弱腰と受け取られる姿勢は見せられません。同盟国の日本は、そうした米中の狭間に立っているのです。
今回の会談で双方は、具体的な進展には乏しくても、今後も対話を継続する意思では一致しています。ひとまず首脳同士が直接向き合っただけでも、緊張緩和への一歩と見ることは出来るでしょう。しかし、真の評価は、これから様々なレベルで、実際に対話が進むかどうかにかかってきます。今回の米中首脳会談は、熾烈で、長く、危険もはらんだ両国の競争時代の新たな幕開けと言えそうです。
(髙橋 祐介 解説委員 / 石井 一利 解説委員)
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