衆議院選挙は自民・公明両党が過半数を大きく上回る議席を獲得し、岸田政権は継続することになりました。これに対し立憲民主党は選挙前から議席を減らす一方で、日本維新の会は躍進しました。選挙結果で見えてきたことは何か。そして政治の行方を考えます。
【結果概要】
岸田政権が発足して1か月弱という異例の短期決戦となった今回。自民党は選挙前の276議席から減らしたものの、事実上の勝敗ラインとみられていた単独過半数の233を大きく上回りました。また国会を主導的に運営できる絶対安定多数も単独で維持し、公明党も3議席増やしました。
これに対し共闘路線を敷いた野党はふるいませんでした。立憲民主党は選挙前より13議席割り込み、共産党も2議席減らしました。
一方、共闘と一線を画した日本維新の会は議席を4倍近く伸ばして第3党に躍進したほか、国民民主党は3議席増やしました。
【自民勝利】
自民党が勝利したのはなぜでしょうか。それは票の取りこぼしを最小限に抑え、激戦が伝えられた選挙区で逃げ切る組織的な力。さらにコロナ禍が比較的落ち着ていることなどもあり、内閣支持率が出口調査で61%と6割を超えるなど、政権を取り巻く環境が1、2か月前に比べ、日に日に好転していたことも作用したものとみられます。
一方で野党統一候補が伸び悩んだことも大きく影響しました。立憲民主党など5野党が候補者を一本化した小選挙区は全体の7割を超える213。ここで勝利したのは59選挙区にとどまり、勝率は28%にすぎませんでした。また事実上の与野党「一騎打ち」の構図となった133の選挙区でも、野党の勝利は38。また与党と野党統一候補、日本維新の会が争う「三つどもえ」の構図となった選挙区では、野党側の票が分散し、苦戦しました。
政権の批判票の受け皿として十分機能したとは言えない結果です。
【維新躍進】
日本維新の会が躍進した要因をどう見たらよいのでしょうか。
NHKの出口調査を見ますと、「支持政党」として「維新の会」と答えた人は7%にすぎませんが、全体の2割を占める「特になし」、いわゆる「無党派」の18%が投票先に「維新」をあげています。
発足したばかりの岸田政権の取り組みを見定めたい、また共産党などと共闘関係を強める立憲民主党には躊躇する人もいるなど、有権者にとって今回、選択肢の幅は限られました。そこに各党「分配」に軸足を置く中、「改革」や「成長」重視の主張を際立たせた戦略もあり、従来の支持者に加えて、票の「行き場」を失った支持をうまく固めたことがうかがえます。
【与野党幹部ら落選も】
一方で今回特徴的なのは、選挙全体の勝敗とは別に、個別の選挙区でこれまで見られなかった結果が出た点です。というのも現職の党の幹部や閣僚、それにこれまで要職を歴任した重鎮などが苦戦したケースが与野党を問わず見受けられ、小選挙区で敗れ比例代表で復活当選したり、最終的に議席を失ったりしたのは象徴的です。考えられる要因として世代交代の他、日ごろの地元活動量や政治とカネをめぐる問題など様々ありますが、政治の現状に飽き足りない、または不満を持つ有権者が、変化を強く求めている表れの一端とも言えそうで、今後もこの傾向は続くかもしれません。
【直面する課題】
選挙を終えた日本の政治が直面する課題について考えます。岸田総理は、「数十兆円規模の大型経済対策を今月中旬に取りまとめる」方針で、各党とも額や対象は異なるものの現金給付などの「分配」を求めることは似通っていますが、具体的な財源の論議は選挙中、必ずしも深まらなかった印象です。またコロナ対策をめぐっては、確実に入院できる体制を月末までに整備する方針で、これらに優先順位を付け、タイミングを逸することなく効果的に実行するには与野党の協力が必要です。そのためには中断している政府と与野党の連絡協議会を速やかに再開させ、認識を共有する課題では野党側の主張もある程度受け入れることも含め検討すべきではないでしょうか。
【参院選に向けて】
政治の行方を考えるうえで最大の焦点は、来年夏の参議院選挙です。自民党は数の上では政権を継続することになりましたが、圧勝を重ねた過去3回の選挙とは異なり、選挙前から15議席減らしたのも事実です。これは驕りや緩みが指摘され不祥事も相次いだことと無関係とはいえないでしょう。
「党改革」そして「国民との対話」を掲げる岸田総理が言葉通りに本気で取り組むかどうか。有権者は注視しています。
これに対し立憲民主党は、共闘が不発に終わった結果をどう総括するのか。執行部は「一定程度の成果はあったと」としていますが、いわゆる風頼み、共闘頼みだけでなく、組織自体の力をいかに蓄えるかが、党勢回復のカギをにぎることは間違いありません。そのためには理念や政策で明確な対抗軸を打ち出すとともに、日々の活動で有権者一人一人にどれだけ接し、関係を強めることができるか。戦略と覚悟が求められています。
一方日本維新の会は、第3党に躍り出たことで各党との距離感をどうするのか。政局の展開次第で与党との協力関係に踏み込むことはないのか。その動向に注目が集まりそうです。
【投票率の低迷続く】
今回の投票率は55.93%。一斉休校や営業自粛などコロナ禍で政治が、生活に直結した場面も多かったにもかかわらず、2014年、2017年に続き、またしても戦後最低レベルとなり、投票率の低迷が続きました。各党主張が重なり、争点が見えにくかった点もありますが、「選挙離れ」には根強い政治不信もうかがえるだけに、政治全体で有権者にどう働きかけていくか。学校現場での主権者教育の取り組みなども含めいっそう重要ではないでしょうか。
【緊張感と寛容さを】
今回の選挙で、「1強政治」といったこれまでの流れが継続したのか、修正されたのか。また25年前に小選挙区制を導入した狙いだった政権交代可能な政治、その前提となる「2大政党制」の実現がさらに遠のいたのか。それとも今回に限った事象にすぎないのか。有権者の判断を一概に述べることはできません。ただ国会の勢力図がどうなろうと、当選した議員一人一人が求められているのは、国民の主権を預かっているという憲法上の責務を改めて思い起こすこと。そして緊張感とともに、意見が異なる相手にも寛容な政治、議論を尽くす国会を取り戻すことであることを忘れないでほしいと考えます。
(曽我 英弘 解説委員)
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